2022/03/03 のログ
ご案内:「無名遺跡」にE・T・D・Mさんが現れました。
E・T・D・M > ダンジョンが居る
ダンジョンが在る

迷宮内、というよりも地下空間は基本的にその環境は安定している
外部気候に殆ど影響されないからだ
日照や風の流動等の変化を分厚い岩盤は遮断し
その一帯周囲は肌寒く、滞留した空気が沈殿していた

E・T・D・M > そこに噎せ返るような甘い香気が漂っている
普段は底冷えし、色褪せた埃と土の臭気ばかりを蔓延させているというのに
その理由たるや何故か?匂いの根源を辿るならばその正体を理解出来るだろう
広大に繰り抜かれた石化ダンジョンの広間の中央には
喩えるならば咲き誇る前の花の蕾のような形をしたオブジェクトが鎮座している
膨らんだ楕円形の構成物質は分厚い硝子質のそれに近しく
抜けるような透明度を誇るそれは、恐ろしく肥大化させた金魚鉢のようにも見えるだろう

そして頂に当たる部分にだけ口広に孔が穿たれており
その内部には数多くのものが投じられているのが透き通り弧を描く外壁からも散見される
それは摘み上げられた春の若い一輪の花であり
それは実りしなだれる熟した野生の果物であり
それはたっぷりと黄金の花の蜂蜜を湛えている、ハニカム構造の蜜蝋の一欠片である

E・T・D・M > そして複雑に混合されたそれらに尚も『材料』を投じているのは
高き天井から生えた肉色の触手となる
船を漕ぐ櫂の如き形をした老木の枝をその末端に絡め握り
時折において鉢の内部の1/3程度までを満たしているそれを掻き混ぜていた
ぐるりと一掻きするその都度において
固形物と液状の物体が色とりどりに混ざるカクテルが
複雑な色味と粘度の光沢を照り返しながら器の内部にゆっくりと踊る

さて、つい先刻に『甘い香気』を発露させていると言ったばかりだが
そこに入り交ざった要素はそれだけではない
君がもしもそれなりに発達した文明社会に息衝いているならば
ねっとりとしたその甘露の中に含まれた、酒精の気配を知覚するのは容易いだろう
即ちにおいてはこれら大量の『天然糖』を餌として
此処に『酒』を醸造する場としているという事なのだ

E・T・D・M > 自然界でも糖類が自然発酵し、酒となる現象は決して珍しいものではない
野生動物が隠した果物が『猿酒』となり、竹の節に蓄積された糖水が『竹水』となる
それに人為的な手を加え、酒を醸せるようにした醸造業な訳であるが
このダンジョンの一角においてもその醸造が運営されているとは
果たして誰が知っていようものか
滴り落ちる触手の粘液に含まれた酵母菌はぽたぽたと糖蜜のプールに零れ落ち
糖分解から生成される排泄物たるアルコールの発生
増殖して活発化する酵母菌の活動によって
ぽこぽこと薄い気泡が蜜の満たされた槽内に浮かび上がっては水面でゆっくりと割れ続ける
そして表面には無数の泡が膜を作り始め、その菌の混合量を均一にするために
また、挿入された枝木は槽内を掻き混ぜる
熟成された酒は蒸留すらしていないというのに
既に嗅ぎ取るだけで酔っ払いそうな程の高純度の酒気を撒き散らす
普通ならば酵母菌が死滅してしまうアルコール濃度でも活動出来る、特殊な迷宮の粘液に基づくものだ

E・T・D・M > 「…………」

ちゃぷ、と、味覚を司る触腕の一部が槽内を軽く探る
うん、中々悪くないデキ。その酒質を確認したその後に
木造の柄杓で酵母の膜を掻き分けて拡げ、醸造された酒の上澄みの部分を掬い上げた
それを小さな硝子瓶の中に注ぎ込み、コルク(栓)を詰め込んで封入する
迷宮に循環する魔力が籠められた酒精は、色と香り付けに薄らと赤味掛かった蜂蜜色から
ぼんやりと薄い発光を含んで放っているのが窺えるだろう
そしてそれらの完成品は醸造槽の近くにへと陳列されるのだ

売買の為に出荷するためでもないし、自分で飲む訳でもない
これもまた自らのダンジョンの彼処に配置する『財宝』の一部
純然たる魔力だけですべてを練り上げるのは効率が悪い
こうして世界に存在する法則を利用した方がコストの割が合う時もある
今年は材料の質が良く豊作な為に、中々に好い『ネクタル(蜜酒)』が出来上がりそうだ

ご案内:「無名遺跡」からE・T・D・Mさんが去りました。