2022/02/03 のログ
ご案内:「無名遺跡」にE・T・D・Mさんが現れました。
E・T・D・M > ハキリアリというものはご存じだろうか
彼らは優れた社会形態を持つアリの一種であり
植物の葉をその牙で切り取って巣にへと持ち運ぶ
そしてその葉にへと菌類を植え付けて苗床をこさえ
そこで養殖されたキノコを収穫して食べるのだ
詰まり世にも珍しい、農耕を行う昆虫なのである
食料の安定供給は何処であっても頭の悩ませ処だ
地上において築き上げられた人間達の文明の支持
その最も優先すべきはやはり水と食料に他ならないだろう

迷宮とて生き物だ、といっても人の住まない家は駄目になって行く
というような意味ではなく、建造物としてではなく一個の生命としてだ
生命活動を行うにはエネルギーが必要であり
そして、そのエネルギーは無から生じる事は無い
冬眠する動物の様に、稼働率を最低限に抑制して遣り過ごすという手段も在るが
此処ではそのような消極的手法ではなく、より積極的な手法を紹介しよう

E・T・D・M > 此処で迷宮内部を御覧頂きたい
低魔力状態に陥った環境からスイッチが切り替わる様にして
先程まではそこそこに乾燥していた空気に、湿気が立ち込め始めている
人が立ち入った場合において肌に粘り気が孕み、不快を感じる程度の湿度だ
じめじめと凹凸のひた続く床面は汗を掻くように結露が浮き出し
低温に調節されて行くに従って空気中に蒸散している水気が目に見えて霧を作り始める
普通の人間ならば見通しも悪いわ、足元も滑りやすいわ
余り喜んで足を踏み入れたいと思えるような環境ではないだろう

しかし迷宮内の空洞を行き来するのは何も人間ばかりではない
低温過湿が長期維持されると共に、此処に集まって来る生き物達が居る
それは冒険者達に、或るいは一般市民にも馴染み深いであろうスライム種だ
人間の身体は60%以上が水分らしいが、スライム達はそれに更に勝る
乾燥しているよりも、湿潤している環境下が彼らには適している為に
今も水餅が如くにぷよぷよと薄膜に覆われて震えているその原生生物達が
糊のような粘りと細かな触手を用いて迷宮の壁や天井などに鎮座し、あるいは張り付いているのが見える筈だ

E・T・D・M > このように巡回しているスライム達にも原始的ながらに生命活動をする上での生理が存在する
即ちはエネルギーを摂取し、そして廃棄物を排出する事だ
詰まる所は迷宮外において活動して来たスライム達が吸収して来た栄養素を
人間で言うならば言い方は悪いが糞尿に相当するものを此処に破棄して行く為
それを有難く魔力にへと分解し、今も接着している内臓であり消化器官に等しい内壁から吸収しているという訳である
人間の魔力の方がそれは勿論美味であるが、結局取り込んでしまえば同じ事だし魔力にも貴賤無し
もぞもぞと僅かに迷宮全体が鳴動し、食事モードに我が身を従事させて十分を補給している

スライムは何でも食べるし吸収するので、迷宮外で捕食した生き物の残骸、または消化しきれなかった植物の種なども齎してくれる
それらもまたこの魔力豊かな土壌にへと植え付けられ、人々の関心を惹き付ける草花となって迷宮内に咲き誇る訳だ
冬季を迎えて外環境では生きていけない為に、また春を迎えるまで動物などを運び屋としてダンジョン内で過ごそうとする
そんなちゃっかりとした植物類もあったりする。この状態下におかれた迷宮内は密林が如くに細かな苔や蔓草などが育つ
それでも日当たりは皆無に等しい為に外に比較すれば余り華々しいと言えない花畑ではあるのだけれども

E・T・D・M > その貴重な緑を、あるいはスライムを食べに別の魔物や動物などが周囲に徘徊し
それをまた狙った食物連鎖の上位存在が迷宮内を跋扈する……
拡張される生態圏は劇的に変化しながらも循環し
陽射しが当らないという事を除けば小さなテラリウムが如きだ
聊かに皮肉ながらに、冒険者の歩みが立ち入らない時期における方が、この場所の周囲は大分騒々しい
生い茂る茂みは暗がりの中に聳え、血管のように岩の内壁に張り巡らされた蔓には花が結ばれ
また外に出る春の時期に備えて小さいながらに果物まで実り始めている

E・T・D・M > エロトラップダンジョンの冬とは即ち、他の生き物にとっては雨季の如き恵みの季節
侵入者に対応する魔力が十分量に充填されるまでは、この温和な環境は継続し
無味乾燥な迷宮の一角にささやかながらの彩を添え続ける事になるのであった

ご案内:「無名遺跡」からE・T・D・Mさんが去りました。