2022/01/28 のログ
ヴェルサイユ > 暫くあって、呼吸が整うと意識を研ぎ澄ます──
周囲に感じられる魔のものの気配を読み取る。その気配が薄い方角へと集中し、
羽織ったマントを翻して、小走りに駆けだした。
その姿は区画の闇の向こうへと消えて往き……

ご案内:「無名遺跡」からヴェルサイユさんが去りました。
ご案内:「無名遺跡」にE・T・D・Mさんが現れました。
E・T・D・M > 例えば海面に巨大な氷山が浮上していたとする、天をも衝かんばかりの
しかしそれもまた海表において臨む者の視野からすれば全貌であるかも知れない
だがそれは『氷山の一角』にしか過ぎず見えざる水面下には更なる輪郭が沈み込んでいるのだ
何を言いたいかと言えば、数多ある存在をしかと認識出来たと思えても、それはそのほんの一部、一面にしか過ぎないという事
普段において冒険者諸君が踏み込む迷宮もまた同様の事
その隠されたる舞台裏にはひっそりと静寂に包まれた一室が拡がっていた
面白みも変哲もない石造の回廊の袋小路
室内は立方体を表しており、丁寧に角が取られた形状を織り成している
そしてその部屋の中には夥しい量のパピルス紙が貼り付けられ
尚も足りぬ壁面そのものに尚もびっしりと文字の列が走っていた

E・T・D・M > 是即ちは迷宮構造に関する設計書だ、何かモノを作る前には必ず設計図が無ければならない
積み上げ続けて来た迷宮建築知識と技術の粋が此処に集積している
徘徊する魔物達、仕掛けられたトラップ、設置する財宝の数々
部屋や通路の広さ建材耐久性攻略難度その他諸々
迷宮の設計というのも其々に目的があるだろう
自らの権威や能力の誇示、堅牢なる引き籠りの城塞として、あるいは財宝の隠し場所
だが此処の迷宮に限ってはそれらに当て嵌らない

「………」

精製したインクで書きかけていた図面と仕様書を眼前に懊悩と蠢く触手
駄目だ、面白くない。出来かけた案に『没』の生体印鑑を捺し付ける
引き剝がした紙切れをくしゃくしゃに丸めて放り投げた行方には
既に火をつければ芋の一つでも焼き上がりそうなペーパーの山脈が築き上げられつつある

ご案内:「無名遺跡」にパールドゥさんが現れました。
パールドゥ > 「うーん……おかしいなぁ」

配達用の背負子を背負った女が、ダンジョンの入り口をうろうろしながら小首を傾げ、呟く。
ダンジョンの外まで薬品などの冒険必需品を配達することはよくあるが、今日は受け取り人の姿が見えない。
場所も時刻も間違ってはいないはずなのだが──
その後、火にかけたヤカンの水が沸騰してお湯に変わるまでくらいの時間、悩んだ結果、少しだけ中を覗いてみることにした。
階段を降ったり、あまり奥へ進む気はなかった。
以前、こことは別の話だが、事前のやりとりを失敗して、受け渡し場所の「ダンジョンの前」が内側から見て、の場合だったこともある。
とりあえず、見るからに危険そうだったらさっさと引き返すとして……
出入り口の周辺と呼べるあたりを軽く見て回ってみようと決めて、内部へと踏み込んでいく。
専業冒険者ではないが、冒険者に同行して荷物を運んだり道案内することもあるため、全く心得がないというわけでもない。
入ってすぐ魔物の気配や、異音、異臭がなければ少し進んでみよう、と──

E・T・D・M > エンターテイメントが不足している、ありきたりの迷宮は直ぐ飽きられてしまう
集客することが目的なのだ、出来るだけ冒険者が心ときめくような何かが欲しい
無限に等しい生命を消費して、何百年も従事している己自身の業務の中で
アイデアをごま油のように捻り出すこの瞬間は絶えず変わらぬ苦しみを運んで来る
そっと天井から垂れ下がる創造主であり、尚且つ管理者でもある肉の触手のひとひらが悩める振る舞いに泳ぎ

「………」

気配を感じる、誰か来た

「!?」

うわ!?誰か来た!?何も準備してないのに!?

「……!!」

通路を封鎖しておけば良かった!閉店中のClosedの看板を下げておけば!
ふうっと慌てて吹き寄せる風が狭苦しいクリエイターの部屋の中に渦を描き
散らかり放題の紙屑を綺麗に纏め上げて積み重ねた
ぱたんっと一冊二冊三冊四冊、ダンジョン設計の無尽蔵の冊子にへと綴ったそれらを部屋の隅に追いやった
否、作り上げた石造りの『本棚』の中にへと押し込んだ
テーブルに散らかり放題であった惨状は綺麗に平らげられ
その代わりに白磁のティーカップにポットが一つ
そして一皿の上に蝋燭のついた砂糖たっぷりのシナモンカップケーキ!
まるで客人を歓待するかのようにたった一室六畳半ダンジョンのコーディネート
即ちは訪れたるその配達人の歩む行方においてそのような部屋が現れて来る筈だ
あたかも先程まで人が居たで御座いと語るその生活臭と共に、ともすればそれこそが『違和感』となって物語るかも知れないが

パールドゥ > …………と、女は悩まし気な沈黙を独り湛えていた。
流石に部屋の一つも覗かずに引き返しては、ここまで踏み入った意味は無い。
そう思って、入った部屋の様子が何やら妙だ。

「……ここダンジョンだよね?」

テーブルに、ティーセットが置いてある。用意されてある、なのかどうかは分からない。
つい先程まで、ここで誰かがお茶を楽しんでいた、と言われても全く違和感がないし、事実そうなのかも知れなかった。
実際、出来て長く危険度がそこまで高くないダンジョンの入り口周辺に、簡易宿が建てられたりバザールが催されたりすることもある。
しかし、このダンジョンについてはそういう普遍化を辿るほど逸話を聞いた覚えがなく。
ここがダンジョンでなければなんてことはない生活感と、ダンジョンゆえに生まれる違和感──
思えば引き返しても構わないはずだったが、ついついテーブルに近づいてその周辺をゆっくり周って観察したりしてしまうのは、好奇心のせいだろう。
はたから見れば、お茶が用意されたテーブルの周囲を練り歩く不審者だったが。

ご案内:「無名遺跡」からパールドゥさんが去りました。
ご案内:「無名遺跡」からE・T・D・Mさんが去りました。