2021/10/06 のログ
ご案内:「無名遺跡」に影時さんが現れました。
■影時 > 未知が欲しければ、深きに潜れと云う。
生きて帰れるかどうかは、その時次第。
誰が言い出した言葉かどうかは、古人どころか余所者ゆえに知る由もないが、理解はできる。同意もできる。
行かねばどうにもならぬなら、行く以外に選択肢があるのか。
ただ、問題は行き先に見合った力がないものが、制止も構わず無茶をするということである。
「…………そこそこ歯応えがあるにゃァ、良いンだが。この分だと死んでねぇかね割と」
過日の地震で、未踏破階層が発見されたと噂の遺跡。
遠く遠く、湧き水が滴って落ちるような音が静謐に響く階層で、幾体もの魔物が恐慌めいた声を響かせた後、倒れ伏す。
石組みの壁ではなく、自然の洞窟に手を加えたような風情の天井はぼう、と。僅かに輝く。
星明りよりも頼りない光の下、血振りした刃を拭って鞘に納める人影は闇に溶けるような色を纏っていた。
慨嘆めいた声が抑えて響くのは、口元を覆う覆面の故だ。
人影が足元に置いたカンテラの蓋を開けば、目を射るような光が眩く零れる。
漏れた明かりが照らし上げる姿は、羽織と胴鎧の造形を除けば、異邦の地の忍者なるものの装束の其れだ。
知るものであれば由縁を知る装いの者は、腰の太刀を揺らして周囲を見遣る。誰かいるだろうか、とばかりに。
■影時 > 未知があれば、其処にお宝があるかもしれない。
背伸びした冒険者達が奥に潜って、予め冒険者ギルドに提出した刻限に帰って来ない。
そうした一団が幾つもあれば、闇に秘された脅威と生残者の探索のための依頼を発布することがある。
この忍装束のものも、そうした任を請け負って潜るものの一人だ。
帰らぬならば、未踏破領域には相応の危険と謎が保証される。
かといって、潜るならば土産ならぬ情報のいくつかは持ち帰らなければ、信用にも値しない。
遭遇した魔物の確認と、マッピングはそのための最低条件だ。
「……ふむ」
見分した魔物の骸の特徴と、進行方向を巻物に記し、筆を納めた矢立共々腰裏の雑嚢に仕舞う。
今のところ、この辺りで立って歩いているものと云えば、己位だ。
生きているとすれば、奥のほうだろう。そう思いつつ、足音は微かに壁際に沿って歩む。
手甲に包まれた手を伸ばし、触れる壁は所々妙に滑らかだ。まるで硝子が溶け滴って、固まったかのよう。
「最悪消し炭になっていたら嗤えんが……誰か、生きてるかァ? 死んでねぇなら返事してくれや」
壁を焼き融かすほどの高熱の炎を吐き出すモノが、跋扈しているかもしれない。
そんな見立てを内心に抱えながら、声を放とう。
魔物の群れは躱し、すり抜けて歩くのが常道だが、こういう時は是非もない。