2021/09/09 のログ
■タマモ > 九頭龍山脈、そこにある無名遺跡の一つ。
とは言っても、山中深く行くまでもいかぬ、麓付近の腕の立つ冒険者でなくとも入れるような遺跡だ。
気紛れの散歩…と言いたいが、普段の少女であれば、気が向かねば来るような場所ではない。
今回は、ちゃんと目的があって来ているのだ。
「………妾は、主なんじゃがのぅ…」
ぼそり、そんな呟きを少女は漏らす。
その表情は、かなり不満気である。
今回の目的、それは、この遺跡に生息するある植物の採取。
何でも、今度試しに行うある実験に必要だとか、少女の式の一人が、そんな理由で寄越したのだ。
不満だ、とは言え、取ってこないと後がどうなるか…
本当に、式神とは何なのか、と問いたい。
…まぁ、実際に問答したら負けるが。
そんな訳で、話に聞いた、この遺跡の少々深く。
半壊し、水が溜まったり、植物に覆われたりしている部屋、らしき場所を目指す。
■タマモ > とは言え、絶対の安全が保証されている、ともあらず。
時折、迷い込んだのか、この遺跡に何らかの力があるのか。
倒し切ろうとも、魔物が尽きる事はない。
まぁ、駆け出しでも倒せるような、そんなレベルのものなのだが。
ぴくん、少女の耳が揺れる。
通路の先を灯す、狐火の明かりが、何かを捉えるのは、それと同時だ。
「あぁ、運が悪い、と言うものか。
………いや、運が良い?
会うたのが、妾だったんじゃからのぅ」
まだ、闇に包まれた、灯りの届かぬ先。
そこを見詰めながらの、少女の呟き。
相手は…闇を見通せるのだろう、先には僅かな灯も見えない。
しかし、少女の視線は、はっきりと先を見る。
右手がゆっくりと上がり、手の平を広げる。
ぐっ、と何かを握るように、その手を握り、ぐいっ、と引き寄せるのだ。
と、その動きに、本当に引き寄せられるように、一匹の魔物が姿を引きずり出された。
人間…のように見えるが、その体は非常に巨大。
この遺跡の通路、その天井まで頭が届きそうな程なのだ。
それが、強大な力で引っ張られたように地面に転がらされ、どこか唖然とした表情を見せている。
まぁ、待ち構えていたところ、いきなり引き摺り出されたんだ、何事とも思うものだろう。
もっとも、そんな様子を見せていたのは、そう長い時でもなく。
すぐに立ち上がれば、少女に向かい、唸り声を上げながら、手にしていた獲物を拾い上げ。
■タマモ > 「運が良かった、とは言ってもな?
そこらの冒険者?とやらと違い、殺められぬだけじゃ。
そんな、殺意を持った瞳で見られては…嬲りたくなってしまう」
血走った瞳を向ける、その巨人へと、普段と変わらぬ調子の少女。
軽く肩を竦ませながら、ひらひらと、その手を振ってみせる。
そして、その顔に浮かべるのは、笑み。
手を振るだけで、構えの一つも取らぬ少女に、巨人は手にした獲物を大きく振上げる。
すると、そのタイミングに合わせるように、少女の振っていた手が、薙ぐように横に振られた。
途端に、その巨体が何かに撥ねられたかのように、横へと吹っ飛ぶのだ。
どぉんっ!壁に強かに打ち付けられ、通路中に起こる大きな振動と音が鳴り響く。
「ほれ、まだ続くぞ?」
更に、少女の手は反対へと振られ。
巨人の体は、それに合わせるように、反対の壁へと叩き付けられる。
再び起こる、振動と衝撃音。
「今日は、頗る気分が悪い。
そんな瞳を向ける限り、続けてやるからのぅ?」
その手は、上に、下に、右に、左に、次々に振られていき。
その度に、手を振る方向へと巨体は舞い続け、天井や壁、床に何度も叩き付けられる。
巨人は何一つ手を打てぬまま、少女の手によって弄ばれ続けるかのように、と言えようか。
そして、何度目か…地面へと叩き付けたところで、一旦、その手を下げてみせた。
重傷まではいかない、だが、それなりのダメージにはなっているのだろう。
ふらふらと立ち上がる、その様子は満身創痍と言った感じか。
そして、その戦意は著しく低下をしているのも、見て取れる。
■タマモ > 「………して、まだやるか?」
変わらぬ笑みを浮かべたまま、少女は、巨人へとそう問い掛ける。
ゆっくりと、一歩、二歩、と近付きながら。
言葉が伝わって…と言うよりも、恐ろしい相手が近付いて来る、と言う恐怖心からか。
巨人は、ずり、ずり、と後退されば…
叫び声を上げ、少女へと背を向け、駆け逃げて行くのだった。
「うむ、良い選択肢じゃ」
そんな巨人を見遣りながら、少女はそう言って、うんうんと頷いてみせる。
敗北を認めた相手に、追撃をする気も、追い詰める気もない。
逃げ去って行く巨人を、そのまま見送るのだ。
「まぁ、他の者に見付からん事を、祈っておいてやろう」
姿を消した、その闇の中へと向かい。
そう言葉を紡げば…
ふと、先を見詰めたまま、何かに気付いた。
「あぁ…結局、妾の目的は、この先じゃのぅ。
………強く生きろ、なのじゃ」
そう、少女の目的地は、この先。
巨人が逃げていったのも、この先。
もし一本道であれば、また先の巨人と対面する事となるのだ。
それを思うと、こう、呟かずには居られない。
ともあれ、気を取り直し、歩みを進めよう。
■タマモ > その先、少女は進み続ける訳だが。
予想通り、再び巨人と相対する事となるのか。
それとも、幸いに道が分かれたりして、何事もなく目的地に到達するのか。
それは、誰にも分からない。
ご案内:「無名遺跡」からタマモさんが去りました。