2021/08/24 のログ
ご案内:「無名遺跡」にジギィさんが現れました。
■ジギィ > 「あーもう……誰得だったの?」
遺跡のごくごく浅い層、地上の樹木と遺跡とが交じり合った場所。
かつては湯浴みの場所か洗濯の場所か、未だに清水が滾々と湧き出る泉の傍で、ひとりぽつねんと佇むエルフはぼやく。
広々とした広間のような空間の天井は既に崩れ落ちていて、その残滓は辺りの床に散らばり泉の中にも沈んでいる。元は奇麗に整えられた水場だったのだろう。底はタイルが敷かれていて、周囲も低い石壁で以て覆われており、辛うじて判別できる飾りまでついている。苔が繁っている場所は所々あるものの、途切れない流れは透明度を保っていて、まだ十分に生き物たちを育み得ることを示していた。
見上げれば天井から地上で聳える樹木の更に天、空は少し暁に染まっていた。
女エルフは、はあー、と一発溜息をつくと背負っていた荷物を降ろして、泉に手を浸す。
ひやりと冷たいかとおもいきや、少し温いのは昼間の陽光の名残だろうか。
――――兎に角
「落とさないとねー…」
言いながらズボンに手を掛ける。
よくよく見れば、元々は長い筈の丈は半ば以上ぼろぼろになって、太腿がほぼ全て露わになっている。何故か革のロングブーツは無事だったので、まあ何だか、そういう趣味の服装だと言えなくもない。
実際起こったことは、ここまで来る途中で何故か綿服だけを溶かすスライムに降られたこと。
何とか撃退して荷物は無事だ、と安堵したのも束の間、ズボンは先のとおりだし、シャツだって臍が丸見えくらいまでになってしまっている。
いくら暑い季節とはいえ、すうすうする。
多少色っぽい姿になっていると思うのだが、見る人も居ないし。
兎に角スライムの残滓は洗い流さなければならない。
手持ちの飲み水を使って最低限だけを落として、精霊囁きを頼りに辿り着いたのがこの場所だ。
「…と、その前に」
降ろした荷物から魔除けの香を取り出して、火を点ける。煙が薄く漂うが狼煙ほどは目立たない。さっきのスライムやら、天然の魔物や動物ならばわざわざ近寄ってこないだろう。
漸く本当に一息つくと、女エルフはブーツと、ズボンと、シャツを脱ぎにかかった。
■ジギィ > ブーツを脱ぎ捨てる。
次はぼろぼろになったスボン。片方ずつ足を抜くと、両手で持って掲げてみる。幸い、引っ張れば破けそう、等ということはなさそうで、安心して洗えそうだ。
「んー……まあ、アリ、かな?」
個人的な趣味ではないけれど
元々手持ちの少ない服である。捨ててしまおう、と思い切れるほどではないことに少しまた安堵。
続いてシャツ。
革の胸当てを外すと
「うわちゃ……」
こちらは意外と中まで浸食してしまっていたらしい。
シャツの真ん中は溶けてしまって、中途半端なチョッキのようになっていた。
これはだめだ。帰りもしっかり胸当てをつけて帰るしかあるまい。
「あー…てことは」
シャツの下の、アンダーシャツというか、布製のほうの胸当ても残念なことに真ん中で泣き別れである。
これには両肩を落として、盛大にため息が出た。
「は―――――ぁ――――…」
暫し眺め降ろして。
悲しくぼろ布と化した服を見下ろしていても仕方ない。
上半身はすべて脱ぐと、つまりは下の方の下着(ちなみに黒)ひとつになって、やけくそのようにばしゃーんと脱いだものを泉につける。
取り敢えず、スライムの残滓のヌルヌルだけは取りたいところ。
後は布で身体を拭ったら、陽がとっぷり暮れる前に脱出しなければ。
■ジギィ > 両手を泉に漬けてから気付く。
これ、自分が泉に一緒に入ってしまっても同じなのでは?
どうせ下着いっちょうだし。
「…お邪魔しまーす」
ということで、一枚残った良心(?)を脱ぎ捨てて遠慮なくざんぶと泉に浸かる。
臍ほどまでしかない泉の水はすこしだけ冷たく感じたが、凍える程ではない。
本格的に服を洗う前に出れば汗も洗い流せるし、一石二鳥だ。
「―――…♪―」
暁に暮れ行く天を見上げると露天風呂な気分にもなって来て、思わず鼻歌まで零れて来る。
―――いやいや。
自戒を込めて首振りを一つ。誰も突っ込んでくれないので自分で止めねばならない。
掌で水を掬っては身体にかけて、火照りと汗とを流して
すぱっと上がると素裸で水を滴らせながら今度は服をごしごし。
自分の汗も多少混じってはいるだろうけれど、大部分は水が循環していっている。はず。
そうして粗方水洗いが終わると、ざっくり絞って身につけて行く。
最近購入した乾燥の魔法道具(本当は薬草用)を使いたいけれど、遺跡の中で使うと良からぬものを寄せそうなので、脱出してからだ。
「…服よーし、荷物、よーし」
ひとつひとつ、指さし確認すると辺りをぐるりと見まわす。
と、闇に沈みそうな片隅に、あったあった、地上の樹木の根っこが張り出して、伝っていけばどうにかそのまま登っていけそうだ。
女エルフは其方へ歩いて行って、ぐいぐいと手ごたえを確かめて―――
それから程なくして、地上の森を急ぐ彼女の姿があったろう
ご案内:「無名遺跡」からジギィさんが去りました。