2021/08/18 のログ
ジギィ > かつん、かつん、ぴたん

靴音と水音が廊下に響く。左手に触れる壁に変化はないし、先に明かりもまだ見えない。

かつん、かつん、かつかつん、ぴたん

ちょっとつまづいた。
…のでスキップを試みようとして、踏み切ろうとした爪先が滑りかけて止める。

(やー しんきくさいー……)

暗闇をじいッと見つめないように、照らされた足元の少し先を注意深く見ながら、ひたすら通路の先へと急ぐ…

ご案内:「無名遺跡」からジギィさんが去りました。
ご案内:「無名遺跡」に肉檻さんが現れました。
肉檻 > 名も無き遺跡の地下に何重にも折り重なった蟻の巣の如く広がる迷宮。
曲がりくねった細い回廊を待ち受ける幾つものトラップを掻い潜りながら進んだその先に、唐突に開けた空間が待ち構えていた。
精巧なレリーフに彩られた石壁に四方を囲まれ、明かり無しには進めぬ程に暗闇に閉ざされていた回廊内とは打って変わって等間隔に配置された篝火によって明るく照らされた室内、その中心部に。

矢張り精巧なレリーフに彩られた石造りの台座に置かれた、拳大程の透き通った水晶玉が鎮座していた。

永い時の流れを思わせる遺跡の最中に在りながら、色褪せることはおろか埃ひとつ被った様子すら見せず、揺らめく篝火の明かりを受けて煌めき続ける水晶玉。
その様を見て美しいと心惹かれるか、不自然と訝るかは、この場所を訪れた者の主観によって大きく様変わりするであろうが。

肉檻 > 或いは。水晶の煌めきに魅入られた瞳が、猜疑に満ちた瞳がもう少し近くでその目を凝らせば垣間見えるだろう。
水晶玉の中にぼんやりと虚像のようにぼんやりと浮かび上がるのは、ドクンドクンと今にも鼓動の音が聞こえてきそうな程に脈打つ無数のピンク色をした肉の塊と。それらによって絡め取られながらも時折艶めかしく蠢く白い肌をした雌の裸身。

果たして見た者がそれに気付くか如何かは神のみぞ知る処であるが、後者はもう何日も前に遺跡の探索に赴いた侭行方知れずとなっていた女冒険者の姿だった。

そうやって、内部では数日もの間じっくりと食事を繰り広げながら物言わぬ水晶玉は石の台座の上で沈黙を貫いていたものの。
捕らえた獲物の反応は徐々に鈍くなり、啜り取れる精気の量も質も日を増す毎に低下してゆく一方である。

だからこそ。"それ"は今まさに新しい獲物を欲していた。

ご案内:「無名遺跡」にマーシアさんが現れました。
マーシア > 『行方不明の妹を、どうしても探し出したい』

蒼褪めた顔、思いつめた眼差しでそう告げた若き冒険者を、何故か無視出来なかった。
自分では力不足かと思いつつも、癒し手としてお役に立てれば、と手を挙げて、
ついてきた遺跡の中、幾重にも張り巡らされたトラップにより、
件の冒険者だけではなく、ほかの仲間たちとも逸れた果てに。
歩き疲れて判断力の低下する頃合いを、まるで見計らったかのように現れた、
あかあかと篝火の揺れる広い部屋。
自然に足が引き寄せられる、中央の台座へと、視線が引き付けられる。
そうして翡翠の双眸は、”それ”を見た。

「ぁ、―――――― ぁ、ぁ…… まさ、か、そん、な……!」

怪しむよりも先に、駆け寄って、手を伸ばしてしまう。
蠢く何かが見えたから、囚われる誰かが見えたから。
策も無く近づき手を差し伸べる、その愚かしさを教えてくれる他者の姿は、
残念ながら、ここには無い。

肉檻 > それから暫くの時が過ぎた頃。篝火に照らされた部屋が、数日振りの来訪者を迎え入れる。
煌めきに魅入られるでもなく、不自然さに訝るでもなく、その水晶に映し出される光景を目の当たりにするや否や駆け寄る純白に包まれた女の姿。
その身と心に宿った清らかさも醜悪な魔性を祓う事はなく、より上質な食事でしかなかった。

ぐにゃり、と。
差し伸べられた手が触れかけたその瞬間、水晶玉は歪にその形を歪め。
まるで全身を包み込もうとするかのように、女の姿を捕らえてしまう。

彼女の望み通り、水晶玉の内部に捕らえられていた行方不明の女冒険者は程無く解放されるだろう。
その代わりに新しい、それも遥かに上質な"獲物"が手に入ったのだから――

マーシア > 掌の先、指が触れるか触れぬかの刹那。
篝火を照り返す滑らかな光が、不意に酷く歪みを生じた。

はっと息を呑み手を止めたけれど、既に遅く。
大きく歪み、口を開け、ぞぶりと降りかかる肉色に、成す術も無く呑み込まれ、
愚かな娘は身をもって、その愚かしさを思い知らされることになる。
救いの手を差し伸べようとした、女冒険者のその後を知ることも無く――――――。

ご案内:「無名遺跡」から肉檻さんが去りました。
ご案内:「無名遺跡」からマーシアさんが去りました。