2021/08/06 のログ
ご案内:「無名遺跡」にナランさんが現れました。
■ナラン > 日が暮れて、遺跡を囲む森から熱気も逃げる頃。
遺跡のごく浅い層を一人行く人影がひとつ。
やや広い石造りの廊下には植物の根や蔦が蔓延ってともすれば来訪者の足を掬おうとするが、それも真新しく伸びたもののようで細く弱々しい。周囲を光で照らせば、壁に施されていたであろう装飾も軒並み剥がされ、判別の難しい凹凸が続いているだけなのが解るだろう。
そんな、今や漁りつくされて何も宝など望めないような場所を、灯りもなく影―――女は進む。
「―――…ふぅ…」
密かに吐息を吐くと足を止めて、額を拭う。前も後ろも真っ直ぐな廊下だから、取り敢えず不意を突かれることは無い筈だ。
腰に括っていた水袋からひとくち、流し込んで、口元を拭うと再び慎重な足取りを進めていく。
最近、遺跡の浅い層にまで魔物が湧き出しているとのことで、ギルドで受けた討伐と調査の依頼。
本当なら徒党を組んで挑むべき事だろうが、女は今の季節、昼間自由に動けない。それを組んだ仲間に怪しまれ、要らぬ悶着を引き起こすリスクと引き換えに、一人この遺跡の露と消える危険を冒して暗闇の廊下を進んでいる。
腕に覚えはあるが…
(…少しでも危険を感じたら、戻ろう)
何度か潜ったこともある遺跡だ。脱出は難しい事ではないが、易しい事でもない。背中に背負った長弓は、狭い廊下ではあまり役に立たない。
女は帯に挟んだ短剣の束を確かめながら、暗闇を見通せる瞳を少し眇めるようにして、遺跡を奥へと進む。