2021/04/29 のログ
ご案内:「無名遺跡」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル >  ―――ガッシャン

 格子が降りる金属音が背中で響いた。
 
 そこは遺跡群の片隅、千年ほど前の居城跡。所々朽ちた石造りの建造物が何者かの手に依って改変されダンジョンと化していた。
 普通の人間は近づこうとしないそこをわざわざ目指し潜るのは冒険者、と称される連中だ。
 上は英雄視される立場から下はならず者崩れまで存在する輩。
 それは上でも下でもなく、一山いくらという程度に位置する、が。性質は少しばかり変わった特攻型ヒーラーと呼ばれる一人の冒険者に起こった出来事。
 
 仲間と何度か潜ってかなり慣れたダンジョンであったので、ごく浅い場所である1階フロアであれば一人でも問題ない――はず、だった。

 が、そこで凡ミス発生。

「うそぉ……?!」

 順調に小部屋を探索する途中、罠の解除が中途半端であったらしく、部屋に足を踏み入れた瞬間背後で冒険者を閉じ込めるべく出入り口に鉄格子が降りた。

 それも単純なトラップで外からは容易く解除できるのだが―――中からは開かない仕組み。

 パーティプレイであれば、それでも誰かが外にいれば問題ない程度だが。ソロの悲劇。開けてくれる仲間は不在。


「えっ、えっ、えーっ?! どうしよう! マジか! あ゛ー……」

 慌てて天井から床まで牢獄のように降りる柵に取りすがるも時すでに遅し。


「どう、しよう………誰か!! 誰かいませんかー?! お願い! 誰か! 誰かー!! 開けてえぇぇー!!
 ここから、出してー!!」


 中からは万力を持ってしても開かないような頑健な仕掛け。外からは簡単な操作で開閉可能なのだが……。
 閉じ込められてしまえばどうやっても出ること適わず、格子に取りすがって外へ向けて大声での呼びかけ。
 部屋と部屋をつなぐ、まるで果てがないように長く長く伸びる石造りの薄暗い回廊に女の声が亡者の嘆きのように反響し鳴り渡っていた。

ティアフェル >  ――それから、数刻後。
 

「……………
        誰も、こない……どうしよう……このままじゃ……」
 
 呼んでも叫んでも喚いても、静まり返ったダンジョンの一角には冒険者はおろかモンスターの影すらない。
 やや焦燥を滲ませた声で孤立して冷たい石造りの小さな埃っぽい部屋の中、鉄格子に両手を掛けたまま、項垂れて蹲る。そうしていると悪い想像ばかりが湧き上がり、精神を苛んでいく。
 古城内部は組み上げられた石造りの隙間と、そこかしこに取られた明り取りの窓や隙間で昼間の内は仄かに明るい。
 しかし、ひたひたと迫って来る夜の帳に包まれてしまえば完全な闇となるほど。
 閉じ込められた際はまだ日は高く部屋は薄明るかったが、時間が経つにつれて徐々に闇の領域が増してくる。

「あぁ……、ほんとに……誰か……」

 願いの響きに似た独白が渇いた唇から零れた。

「出して、お願い、出して! ここから、出してー!!」

 しばらく、声も嗄れて静かに沈んでいたのだが、闇が迫るにつれて訳もない不安感に襲われ、不意に夢中で喚き出す。

「出して……」

 一頻り悲鳴のように叫び散らした後で、掠れ切った弱弱しい声が懇願めいてほろりと零れ落ちた。
 まるで冤罪を訴える囚人のように冷たい鉄格子を両手で握りしめ歪んだ悲壮な顔を、打ち据えられた後のように伏せてその場で膝を折り。

「ここから、出して……」

ご案内:「無名遺跡」にアルシェさんが現れました。
アルシェ > 冒険者と言えばダンジョン
そしてダンジョンにもピンからキリまで実に様々。
上級ともなれば、竜が棲む火の洞窟や水晶が煌めく尖塔なども挙げられる。
けれども駆け出しの少女が、それも単身で挑めるダンジョンといえば、既に探索し尽くされた遺跡くらいのもの。

それでもダンジョンには変わりない。
宝箱のひとつでも見つけられればなんて、淡い期待を抱いて突入したのが早朝――それもまだ日が昇るかどうかという時間帯。
つまりは、遺跡近くで野営をするほどの気合の入りようだった。

「――――やっぱり、宝箱なんて転がってないかぁ……」

遺跡に入って、そろそろ丸半日。
途中で保存食は口にしたものの、お腹が切なくなってくる。
探索の成果と言えば、錆びたナイフがひと振りのみ。
それもどこかの冒険者が捨てていったかというくらいに、ぼろぼろだった。

何度目かの溜息を吐いたところで、どこからともなく女のすすり泣く声が聞こえてくる。
それはまるで墓場で聴くような、打ちひしがれ、悲しみに満ちた声で。

「……ここって、アンデットとか出るとか訊いてないんだけど!?
 それか、牢獄とか…? ど、どうしよう……」

幽霊の類は物理攻撃が効かないから、近づかないに限る。
とはいえ、収穫らしい収穫がない中で聞こえてきた声。
ここで引き返していては、いつまで経っても収穫なんて望めはしないだろう。
意を決して声がする方へと足を進める。
やがて、薄暗い回廊の向こうに鉄格子に縋りつき項垂れる人影が見えてきて。

ティアフェル >  閉じ込められ虜囚になってしまった気分で、どんよりと沈んでいた。
 降りた鉄格子の前、コンパクトに蹲ってはぶつぶつと大層悲観的な末路を脳に描き出すままに呟いていた。

「………魔物…は狩り尽くされたエリアだから、捕食されるってことはないか……だったら発見は良くて腐乱死体、悪くて白骨死体……。
 行方不明者として探しに来てくれる可能性は……1パー未満……まず食料が尽きて、その後水が尽き……大体わたしなら、この携行品で数日持つから……その間に……いや、来ない、助けが来る可能性に賭けるのはやめろ、わたし、往生際が悪いぞ……」

 ブツブツブツブツ、と念仏のように単調にお先真っ暗な未来予想図を展開していた。
 負のオーラ出まくりで、遠目に見ればそれはゴーストだのバンシーだの、そんな感じの人外に思えてしまいそうだ。

 ――けれど、よくよく見る余裕があれば。そして彼女が一度であったことがある顔であることから、それが人間で、女でヒーラーのゴリラだということが認識できたかも知れない。

 ダンジョンに潜って収穫なしの少女の存在が鉄格子の向こうから見える距離まできたならば、こちらのアホ毛が何かのセンサーのようにぴこん、と立ち上がるだろう。

 出会える距離まであと少し。