2021/02/03 のログ
■影時 > 「嗚呼、そう云うらしいなぁこの国のコトバじゃ。少なくともそう言えるうちは、まだまだ元気な方だな」
動く死体の類は故郷ではあまり聞かない類だが、この辺りであれば不思議と聞く概念である。
火葬の風習がないからかもしれない。
だが、斯様に言葉を述べていられるうちは虚勢であったとしても、大丈夫だろう。
空元気でも一応は元気の類だ。まだ無理を絞り出せるうちである。
ただ、もっともこの惨状で奥に行きたいと宣うなら、殴ってでも止める方が年長者としての慈悲か。
「なぁに、遅れちまった侘びだ。毒は喰らっていないなら、いい。
最近の小鬼やら何やらの類は悪辣と聞くからなァ。少しの創傷が命取りにもなりかねン」
瓶は返してくれ、持って帰ると。躊躇いなく蓋を開け、飲み干す姿を見遣って回復を図る様に声をかける。
そうしながら立ち上がり、累々としたコボルトたちの骸を検め、確かめてゆく。
見た処、主な致命傷となっているように見受けられるのは殴打と思しいものだ。
獲物は恐らく、そのスタッフか。無茶をする、と口元を覆う覆面を外し、息を吐いて。
「是非も無ぇとはいえこんなに大立ち回りもしていりゃぁ、ぼろぼろにもなろうよ。
そのいでたちとモノから見るに、術使いか癒し手か?」
半ば呆れ混じり、賛嘆交じりながら相手の職種を見立てる。
腕っぷしが立つとなれば、もっとましな、また違うものであろう。
■ティアフェル > 「うん、ギリギリ十代の活力をとくと見よー……」
などと、ポーションを服む前に云ったとて脱力全開で言葉と裏腹・滑稽なばかりだろうが。
へへへ、と頬を歪めるようにして笑みを刷いて、ぐー、と震える拳を振り上げるのだった。ひどく弱弱しく。
でも正直もう、お家帰りたい。
「あらまあ、王子様。次はピンチ時速やかに駆けつけて下さいましね。
……冗談はさておき。ほんとね……然程知恵のない連中ばかりみたいで助かったわ……でないと、最後の一体を殺る前にノックアウトだったとこよ……」
武器や毒を精製する力もない連中で助かった。転がる得物も拾い物と思しき錆びて刃毀れした剣や曲がった棍棒ばかりだ。ただ、コボルトの語源、コバルトの精製にはさすがに長けているらしく、身に着けている僅かな装飾品はそれなりに価値が見込めそうであった。
蓋を閉めなおした瓶を返却して、無茶だと息吐く声に、でなきゃ死んでたもんでと微苦笑を零し、肩を揺らした。
「でも、良くがんばったもんでしょ? 正味もう駄目かと思ったけど……人間死ぬ気になればどーにかなるもんね……。火事場のバカ力大発揮よ。
うん、そうよ、ヒーラーなの……だもんで、さくっと治そう……」
水薬をもらったお蔭で大分活力が戻って来た。術もそろそろ使えるようになったようで、落としていたスタッフを拾い上げて、己に向け、傷口が多い物で一部にではなく全身に回復術を施した。
集中し編み上げた術式は詠唱ののち発動し、淡い暖色の光となって全身を包み込み、打撲を消し、創傷を塞ぎ、状態の回復を行う。
■影時 > 「おうおう、元気だなァ若ぇの。だが、奥に行くってなら止めとくこった。
ふん縛ってでも、運び出してやる」
元気元気というには、流石に弱弱しさには否めない。
前向きさはあるけれども、其れは無理をしないという英断を選ぶことに費やして欲しい。強く激しく。
無理をする気があれば、それこそ簀巻きにして運び出したとしてもきっと許されるだろう。
「王子様って柄じゃねェなぁ。仕事である以上、見ちまった立ち会っちまったものは放ってはおけねェが。
知恵者が居ねえのが今は幸いした、か。
棍棒でも金棒でもねェんのに、仕方がないとはいえ無茶をする。ともすりゃ折れちまうだろうに」
殴り倒された魔物達の得物の質も、案の定劣悪の一言だ。見るべきものがあるとすれば装身具の出来の良さ位か。
通りがかった身としては、はぎ取って持ち帰るという気にはいまいち起きない。
其れは己の武勲ではない。そうする権利があるとすれば、この鉄腕じみた彼女であろう。
空になった瓶を受け取り、雑嚢に突っ込み直しながら、そう思う。
少なくとも、慣れはあるのだろう。杖術の類と見るには危ういが、殴り方を心得ていれば辛うじてとはいえ、生き延びれる位に。
「おお、癒し手か。見事見事。……殴って、蹴ったりする癒し手。……ん、待て。そんなのを最近聞いた気がするぞ」
さて、その一見殴打用には心配なスタッフを取り上げて回復術を使う様に、かるく手を打つ。
なるほど、此れも使えるならば魔法使いの類よりはタフだろう。生き延びる目はある。
ただ、昨今の話などを思い返すに似たようなナニカを聞いた覚えがある。弟子が、そうのたまっていた気がする。
覆面を外した顔の顎下を摩りつつ、思案気に腕を組んで記憶を漁る。
■ティアフェル > 「え? それはつまり、出口まで連れて行って下さると?
臨むところよ! ぜひ、ぜひ頼むわ!」
パーティと分断されてソロ状態に陥ってしまった今、探索を続けられる状況にない。か弱い(笑)ヒーラーなのだある訳ない。
お家に帰れそうだ!と踏んで表情がぱあぁ、と明るくなる。おねしゃす、とむしろ手を合わせ始めた。
「まー、王子様ってガラの人の方が、少ないけどねー。
仕事ー……ってことは、やっぱ冒険者なの? お仲間ね。同じ冒険者同士助け合っていこーね!
――このスタッフはわたしの心が折れない限りは決して折れることはない!」
掲げたスタッフは一見木製だが、特殊な素材を使用し特別な加工をしているらしく、生半可な金属製よりも頑丈なのである。
ついでに凄く前向きに構えて、仲間意識を最高潮に高めようと目論む。非情なタイプでもないのはとっくにお察しなので、ダンジョンを脱出する強い後押しになると、無事にお家帰るまで簡単に逃がす気はない。
お礼にコボルト達の細工物を分配すればいいだろうか。怪我を自力で治した後は、瓶に続いていただいた水袋も蓋をして返し、さくさくとコボルトの死骸からドロップアイテムとしてコバルト細工をぶん捕っていく。
「まあ、わたしってば殴って癒せるマルチプレイヤーとして有名人?
器量性格とともにとてもかわいいとも?」
どこで伺った噂なのか、尋ねる前に調子こいた。いや、そんな照れちゃうと妄想の中の噂話に気をよくしててれてれと頬を両手で挟んで浮かれる。アホ毛が感情に連動してひこひこと揺れて。
■影時 > 「まァ、良いだろう。流石に俺も手負い抱えて奥に行く気は無ェからなあ。
そのかわり、外に出たらこうなった流れを幾つか話してくれや」
己独りで下層まで潜る自信はあるにしても、こんな状況だ。
この状況下で無茶をゴリ押すのは賢い選択肢ではない。
もとより、駆け出しや中堅などの死亡率を下げるための狙いもある依頼だ。であれば、生きて連れ出すことも仕事のうちか。
そう考えれば、手を合わせる姿に肩を揺らして心得たと頷こう。
「違いねェやな。
ああ、そういう事になるなご同業。
口上は良いンだが、折れる時は折れそうで怖ェなそれ。
もっと殴って困らねぇ奴か予備の、触媒、……か?そういうの無ぇといざって時に困りそうだ」
逃がさない!とばかりの勢いの有様に口元を歪めつつ、同業者という点については隠すことなく頷く。
こんな所に居るとなれば、此処で敢えて隠す意味も韜晦する意味もない。
返却される水袋を腰に下げ直しつつ、戦利品のコバルト細工を回収してゆく姿も見遣る。
高額報酬を狙っての仕事ではないが、世話賃、手間賃としては妥当だろう。
「――……いんや、そーゆーとこじゃねぇな。
最近何処ぞの幼女が誘拐されて入り浸ってたりしねェかな? 金髪金眼の露出多めのちまっこいの」
残念ながら、と。アホ毛に倣うように顔の前に手をひらひらと振って、思い出したと目を細める。
では、こう言えば思い当たる節はあるかもしれない。弟子たる幼女を端的に述べて、問うてみようか。
■ティアフェル > 「あら、もう治ったから手負いではないわよ。んー……あなたと一緒ならもうちょい潜れそうな気もするけどー……一応はぐれヒーラーの立場なんで打ち止めとしとくわ。
いーわよ、出口までの道すがらでもお話しますよと」
回復薬はいただいたし、怪我は癒した。状態は悪くないが、無茶をすると厳重注意を喰らいそうなので控えておこうかと一応殊勝に考え。
「やー、冒険者ってもいろいろ居るからさー。無理矢理口移しで薬飲ませてくるとか、そういうんじゃなくって良かったよ。今日はついてた方かな。
心が折れた時、わたしの冒険は終わる………。折れたスタッフの代わりにもうちょっと柔い素材で新しいのを新調しそれと一緒に大人しく街に引っ込むわ……生きてればの話だけど。
んー……一応ヒーラーなんでねえ……制限があるのよー…」
武器を携帯できる職業でもない。困ったように唇を曲げて首を傾げ。
それから、同業者の中でも質のいい人に当たったと心底安堵した。
満遍なく骸を回って、取りこぼしないように細工品を回収して。
気前よく、半分こ!と差し出した。命あっての物種なのだから惜しくはない。でも全分こ!とはやっぱ云えない。
「……わたしのジョイフル気分に水差さないでくれる……?
………んー? えっと、10歳くらいの竜族の女の子のこと? 誘拐されて入りびたりってどんな表現やねん。崩壊しとるし」
調子に乗っていたところあっさりと否定されてち、と舌打ち交じりだったが続いた質問に確認するように反問してついでに突っ込みも入れとく。
■影時 > 「確かにそうだが、今日は止めといた方がイイな。俺の見立てだが、構造が変わってそうだ。
あと一人や二人位斥候も出来る奴が居た方が無難だろうよ
構造が変わってるか、未知の罠等が出てるなら調べて報告しろというお達しでな」
手持ちの回復薬の類や食料はまだ余裕はあるが、先に進むとなればもう少し万全を期したい。
並の前衛や斥候以上に仕事をしてみせる自信と力はあっても、無理はしない方が吉だ。
何せ、生きて帰って報告するまでが仕事である――という尤もらしいコトバもあるほどに。
「……ああ、そりゃ流石になァ。役得狙いにしちゃ無理筋だ。
身を壊して田舎に引っ込むよりは、まだマシな締めくくりだろうさな。ちゃんと五体満足で締めくくらねぇと語れもしねぇだろう。
ちゃんと生きて帰るぞ。って、仕事道具二つ持っちゃいけねェ戒律でもあるのかね」
武器を持ってはいけない戒律でも縛りでもあるのだろうか。
魔法使いや癒し手の類の概念は、この地でよくよく学んだ部類であるが、理解し難い点については首を傾げる。
無理矢理と聞けば肩を竦め、ご愁傷様だったなと声をかけよう。
半分こ!と回収された細工品を出しだされれば、有難く、と受け取ろう。
あとから来た身であれば全部なんて厚かましい要求はしない。それはきっと、粋でも何でもない。
「悪い悪い。嗚呼、じゃァ当たりか。――俺、あいつの、師匠」
何せ伝聞と解釈交じりなのだ。少なくとも、森を丸ごと平らげる竜が「満腹した」と心から言っていたのだ。
居ついているさまを入り浸っていると言い換える、読み替えることもできるかもしれない。
突っ込みに笑いつつ、右手の親指で己の顔を刺しつつ、短く区切ってこう述べよう。
あいむ。ゆあ。ふぁーざー。ではないが、兎も角それに近いノリとは発音で。
■ティアフェル > 「くー……やっぱそっか……ここら辺のダンジョンそうなってるパターン多いのねえ……。
あーぁ、せっかく来たのになあ……でもま、無事に帰るのが最優先か」
パーティとはぐれてしまった時点でもう詰んだのだから、欲張るまい。肩を落としたが諦めはついた。りょーかいでーすとダウナー気味に肯いて。
「つい先日そんなのと遭遇したもんで。真面な人でわたしは嬉しい。
ま、欠損して心が折れるなんてこともよくあるけど。できればこのまま折れずに納得いくまで続けたいところよ。
おー、今日のところは無事に帰るぞー。
――僧侶やヒーラーや魔法使いは制限ある場合が多いわよ。そうじゃないパターンもあるけど……わたしは武器の携行は基本的に不可なのよ」
それに基本的に癒し手は攻撃手になるのも普通は宜しくないが。そこは強行して凶行している。
ご愁傷との声にわたしが美しいから仕方ない、と判りやすい戯言をほざいた。
そして、コバルト製品の分配が終われば一段落。後は出口を目指すばかりだ、渡しながらよろしくねと笑い掛け。
「ええもう。そこは適当に乗っておいてくれなきゃあ、乙女のモチベってもんが…………ぁ、あー……ってことは、あなたが、えーと……か…カサギさん?」
前半仏頂面下げていたが、続いての科白にはいはいはい、と納得気味に肯いて、こてり、と首を傾げて見やり。難しい東国の名前なのでフルネームは覚えきっていないので確実なところで確認し。
■影時 > 「つくづくその辺りの仕掛けも種もよく分からんが、そういう類が多いよなァ何故か。
いざ勇んで出張って、その実空振りで終わるのも含めて冒険だろうよ。俺とてそうだ」
より深く、深層に潜りうる実力者であったとしても、いざ挑んで毎回褒賞を獲得できる、ワケではない。
死ぬような目に遭っても、七面倒な仕掛けをゴリ押しで打破しても、見つかったのは銅貨一枚というオチもざらだ。
その点もひっくるめて、愉しんでいる。金儲けをしたいわけではない。未知と遇うのが愉しいのだ。
それでもなお、時折理解しがたい、腑に落ちない事項はまだまだ多いが。
「真面目、かねぇ。……――まー、そういう事にしといてくれや。
なら、少なくとも折れずに在り続けるにゃ無茶はなしだな。今日のとこは尻尾巻いて帰るぞー。
そういうもんか。大変だな。そうなると後は、己が身を鍛える位ぇか。武僧の類みたくな」
現実的に考えれば流行り病を得たくない等々、無理筋をしない理由はあるが、言わぬが華か。
好きに生きると決めてはいるが、己が基準として粋でもないことはしない。そういうことにしておけば角は立つまい。
請けた仕事については徹底するのもまた、忍びの端くれとしての習いでもあればこそ。
美しいと聞けば、はいはい、と肩を竦め、貰ったものを羽織の物入れに捻じ込んで身を整える。
左腰の太刀も確かめ、置いたカンテラを取り上げれば其れを彼女に差し出そう。
こちらこそ、と前衛も請け負うかわりに明かりの番を頼むと。
「調子に乗り過ぎるなら、適度に突っ込み入れねェとなぁ。
ん、そうだ。……呼び辛ぇよなぁ。俺の名を伝えると誰もが大体そんな感じだ。
カゲトキ、でいい。全部呼ぶのも面倒臭ぇだろう。ティア、フェルおねーちゃんと。弟子は呼んでたが、如何に?」
確か、こんな名前だっただろう。思い出すその名を確かめるように呼んでみよう。
そのかわり、こちらは呼ぶ際名前だけでいいと。改めて己が名を名乗る。弟子が世話になってると頭を下げて。
■ティアフェル > 「なんか魔術的なアレなんでしょーけどねえ……構造にも結構趣味が入ってて踏破するにも一苦労よね。ダンジョンこさえた奴は悪趣味みたいだから。
そーね。今日はコボルトから多少収穫できたからヨシとするわ」
骨折り損のくたびれ儲け、なんて当然の世界だ。ただし当たれば大きいことは間違いないが。しみじみと肯いて返し。
どうも根っからの冒険者というような性分を持っているらしい相手に小さく笑った。
「あ、ううん、マジメじゃなくって、マトモ、ね。真っ当なタイプみたいに見えるわ。
うぃうぃ、ラジャー。一度で踏破できるとも期待してなかったしね。次に繋げてこその冒険よ。
そーね……やってることはヒーラーってか…モンクみたいよね……でもあんまりムキムキになりたくない……かわいくない……」
マッスルな乙女なんて嫌だ。魔物を制圧するよりかわいい服が着たい。難しい顔で眉を顰めていた。
そんな感じの乙女ゴリラだったのですごく雑にナルシスト宣言を扱われれば。哀しい顔をした。
細工品をウェストバッグに仕舞い込んでスタッフを握り直して、カンテラを受け取れば。おっけ。と肯いて。
「……ちょっとくらいいいじゃん……。浮かれたい年頃なのよ……。
カゲトキ…のほーが呼びづらいんだけど……じゃ、カゲさん。
そう、ティアフェル……ティア、でいーよ」
呼びやすいところを探りながら口にしては、こちらもそう返して、頭を下げられれば少々困ったようにアホ毛を寝かせ。座り悪そうに頬を掻いて。
「いや、別にそんな……特別世話ってこともしてないし……いもーとみたいなもんだから、師匠に頭を下げられてもちょい困るなあ……」
■影時 > 「まァ、そう考えるのが妥当だわな。
悪趣味過ぎてこさえた奴のツラを拝んで、ゲラゲラ笑いてェくらいだ。
そうそう。無銭よりはいい」
当たれば大きいが、当たりはずれの落差が大き過ぎる。御蔭でちまちまと小さな仕事だって、選択の余地なく受ける。
贅沢をしたいわけでもないし、大金を得たいわけではない。
支援は請けているだけマシと言っても、使う時は遠慮なく消えてしまうのが金だ。
であれば、幾何とも自由になる持ち合わせは維持しておきたい。
「真っ当、ね。成る程。そう云われンのは初めてだ。
物を整えて、道連れ揃えて、後は時任せ運任せと。他所の連中が得たものがあれば、それも気になるな。
後ろから癒しの術飛ばしてるだけじゃねぇとなれば、なぁ。武僧めいちゃいるな。
危なっかしい位に細いより、喰うもの食ってちゃんと鍛えてる方が、儚いよりはずっと好みだぞ。俺はな」
だが、かなしいかな。まっそーでなければ生き残れない。強行と書いてゴリ押せない。現実は非情である。
真っ当という評価につい、思案気に眉を動かし、哀しい顔をするさまに同情するように頷こう。
美しく鍛えるというのも流石に贅沢過ぎる願いであるか。
筋骨隆々な女格闘家というのはあまり見ないとなれば、存外できるかもしれないがそれはさておき。
カンテラを預け、受け取ってくれたのを見れば先導するとばかりに前に出よう。
「然様か。お前さんみてぇな娘を持ってたら、そう思うんだろうなぁ。
っ、はは。ああ、うん。それで良いや。宜しく、ティアさんよ。
少なくとも、思いっきり懐いている以上はな。筋は通すべきだろうさ」
実年齢を考えれば、娘の一人や二人設けている――年齢でもあるのだろう、己は。
考える分だけ、歳くっていると思えば、しみじみと言った風情で口元を緩め、その呼び名に頷く。
そう考えてしまえば、弟子はいわば娘代わりな風情もある。そんな弟子の保護者として、筋はやはり通すべきである。
■ティアフェル > 「さらにこさえたヤツをトラップに叩きこんでやれればさぞかしスカッとするだろーなあ…。
うん、欲をかいちゃいけないしね」
五体満足で多少のお宝が入手できれば万々歳だ。俄かパーティとはぐれて苦労はしたが、代わりに出口までの仲間が出来れば文句はない。
うむうむと得心顔で首肯して見せ。後はお家まで無事につけば成果はまあまあと云えるだろう。
「そなの? じゃあ真っ当でもないの? 実はヤクザな性分なの?
万全に整えて次の冒険に期待ね。
うーむ……巷でモンク呼ばわりさせないように気を付けねば……もう手遅れか。
でもムキムキはやだよ。柔らかい筈が胸筋で堅いとか切ない。いよいよマジゴリラに間違えられるようになったら終わりだ……」
現状でも散々ゴリラ扱いの日々なのにこれ以上なんて死にたくなる。遠い目で呟いていた。
ついつい無駄に前に出て要らんアタックをしてしまうが乙女心は捨てたくない。
真っ当でもないのか、と伺うように首を捻りつつ。
そして、前衛を担当してくれるので、取り敢えず後衛として灯り持ち。そして怪我しても治すからそこはご心配なくガンガンやっちゃってねと歩き出しながら請け負い。
「んー。おとーさんにしては若いな。
年下だし呼び捨てで構わないけど。
――そう云われたらこっちだって、うちの子がお世話になりありがとうございますって云わなきゃなのかって気になるよ…残念ながら他人は他人だからそれは出しゃばりが過ぎるから控えるけどさ……」
そうやってお礼を云われたら、ああそうか、やっぱり当然だが他人だからこそ、身内的な人にそういう風に云われてしまうのだろうなという気になって、自分の立場を弁えるべきかと肩を竦め。
■影時 > 「日干しにしたら死ぬ類なら、俺は遠慮なく白日の下に晒すだろうなァ」
そうそう、欲を掻いちゃいられねぇ。そう笑い、頷く。
生き残りや無事な人間の保護、護送も含めて己の今回受けた依頼の範囲で在ろう。
「ヤクザというか、冒険者の仕事なんぞヤクザみてェなもんだろう。傭兵も掛け持ちで遣るなら余計にな。
少なくとも過不足なく受けた仕事はこなすし、ピンハネなどはしねぇ。
……この辺りは仕事人として当然と思ってたが、そうか。この辺りじゃ其れが真っ当な類か。
手遅れかどうかは生憎と知らんが、組む相手は選んだ方が良いかもしれねェな。
偶に訓練所で稽古つけたりしてるが、後衛が手を出す羽目になる前衛は――なっちゃいねェ、の一言だ」
噂に聞くゴリラとは森の賢人と言われる程の生き物らしいが、何故斯様な例えにされているのか。
ついつい己も首を捻りつつ、当然と思っている、考えていた事項を口にして目を瞬かせる。
一応余計な欲を、悦を抱くようなことがなければ、至極真っ当な部類になるのだろう。きっと、恐らく。
そう考えながら前衛としての仕事は、任されたと答える。
脇道などから湧いてくるものがあれば、するりと躱し、取り出す刃物や投じる刃で仕留める熟達者の動きを見せながら。
「数え歳で四十は超えンだがな、俺は。
ははは、まーそのセリフはあいつの、ラファルの姉や親に改めて云うまでとっといた方が良いわな。
ま、弟子が世話になっている以上、だ。必要な手伝い等が要るなら、ラファルを通して教えてくれや。それで通じる」
そうか、そう見えるかと。嘘か真か。だが、真である歳を口にしつつ空いた手で顎を摩ってコトバを紡ぐ。
少なくとも弟子の姉たちやその縁者は承知している事項らしいとなれば、大きな問題ではないと思う。
そして弟子と親しいモノとなれば、この位は言ってもよいだろう、と。
■ティアフェル > 「そーね、わたしもそうすることに一切の躊躇はみせないわ。景気よくでっかい干物を一体こさえてやる」
うむり、と意見が一致したところで深く肯いて見せた。
しかし、実際ダンジョン製作者が今もぴんぴんしているかどうかすら不明なのだが。
「あら、失礼ねえ。わたしも冒険者なんだから。ヤクザなんて。
そうそう、そういうのが一般的に真っ当って奴よ。ずるしたりがめたりしなきゃあ上等。
んー…それはあるのかなあ……昔滅茶苦茶臆病なタンカーのいるパーティにいたもんだからその時の癖が残ってるのかな。
うかうか前にでちゃうわたしも悪いんだけど」
森の賢人は…オランウータンではなかっただろうか。いや、それは森の人で、結局森の賢者は梟……。まさかの鳥類。
それにつけても、後衛が勝手に前に出てもいい訳はない。性分を治すべきではあるのだろうと自覚はないでもなく肩を竦めていた。
少なくとも今くらいは出しゃばらないでしゃしゃりでないように気を付けようと前衛さんに敬礼。
――鮮やかに的確に障害を捌く様に、そもそも手を出す隙はなさそうだったが。
「それはなかなかおじさんだねえ……。
いや、ラファルちゃんの家族にわたしがお世話になってますなんて云い出したらおかしいでしょ……。
んー…? 経由した方がいい感じ? ラファルちゃんがめんどくさいでしょ、それじゃ」
何か用があるたびに言伝を頼むのもなんだか悪い気はする。だからといって別に頻繁に用件がありそうかと云えばそうでもなさそうだが。
うーん、と首を捻りながらも順調に出口までの距離は詰まっていき、無事に出れそうに感じては気を抜きそうになるのを堪え。
そして余計なことせず、頼れる前衛さえいれば問題なくダンジョンを出て、家に帰れることになるのだろう――。
■影時 > 「嗚呼、そりゃ良い酒の肴になりそうだ。喰えそうにねェという一点については仕方がないが」
いやいや、全く同感の点だ。悪辣なダンジョンマスター死すべし、慈悲はきっとない。
存外今も生きているのかもしれないが、残滓となり果てていてもトドメはしっかりと指したい。
「手に職つけてあくせく金を稼ぐのが常道なら、危ない線を渡る冒険者の仕事はヤクザなモンよ。
なら、俺はヤクザな中でもまとも――か。
臆病な盾持ちってのも、面倒というか胃が痛くなる具合だな……」
森の賢人、賢者についてはきっと、諸説あるという但し書きを付けてしまえば片付きそうだ。
ともあれ農家の倅が冒険譚に憧れて、家業に携わることなく家を出る。職人の子が職人にならない。
そうやって不安定な収入頼みで身を立て、生死を問うような危険に身を投じるのを、やくざなと云う。
その有り方に華がある以上、仕方がないか。渡りものが生計を立てる手段にも欠けるとなれば、余計に。
普段なら前に立つよりも身を隠す、陰から刺す方が主だが、やり方は弁えていれば立ち位置には困らない。
ヒーラーは無理でも、培った経験は何よりも確実に障害を捌き、対処する。
「かといって、嫁取りたい気もしねぇのもな。
……あー、それもそうか。ま、あっちの家もどうこう、という風情はないようだ。気になるなら位でイイだろうさ。
ふむ。んじゃァ、用があるなら俺の宿に文でも置いておいてくれや。俺の部屋はな――」
己と弟子は遣ろうとすれば、弟子の姉を通じて念話が出来る。
そう言えば一番わかりやすいかもしれないが、頻繁に用事などあるかというのも確かにそのとおりだろう。
そうとなれば、己の宿に手紙を置いておいてくれる方が一番しっくりくるか。
己の宿の場所を伝えつつ、気が抜ける箇所のフォローも漏らさずに地上まで護送してみせよう――。
ご案内:「無名遺跡」から影時さんが去りました。
■ティアフェル > 見つけられれば質の悪いダンジョン製作者を血祭りに上げる相談をしたり、冒険者=ヤクザ説に「えぇー」と唇を曲げていたり、臆病なタンカーに特攻型ヒーラーはリーダーの胃痛が酷かったですよと苦笑したり。
最終的に連絡先を聞いてしまったりと。聞いたはいいがどういうタイミングで必要になるのか今のところあんまり分かんなかったりとあったが、ともかく無事にダンジョンをクリア――は出来なかったが出口まで辿り着いて、お家まで帰れれば、その道中は会話が弾んでなかなか退屈しなかったのだった。
ご案内:「無名遺跡」からティアフェルさんが去りました。