2021/02/02 のログ
ご案内:「無名遺跡」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > 階層型になった迷宮のごとく入り組んだ石造りの地下遺跡、その奥では――、
「―――っ! ど、んだけ、湧くのよ……!」
小部屋の一室でコボルトの群れに取り囲まれるヒーラーが一人。スタッフを得物に寄って来る連中をガンガン殴り倒していた。
久々に寄せ集めの俄かパーティ募集に参加してみて、何だか統制が取れなさそうだからあんまり深く潜るのはよそう――なんて相談をしていた矢先に、トラップに分断され、散り散りとなって運悪くコボルトの群れに負われ逃げ込んだ小部屋で追い詰められてしまった。
現在地は三階層目の最奥付近。ここを切り抜けたとしても自力で出口まで辿り着くのはかなり辛い。――しかし目下、コボルト共の餌にならないよう殲滅するのが最優先、であるが……。
如何せん数が多い。数匹であれば難なく蹴散らせるが……一人で20匹弱相手にするのは相当ホネだ。
現に、
「っ、く…! う、あ……!」
すでに半分ほどは片づけたが、息が上がってきて動きが鈍って来た隙を衝かれて、壁を背にした己からして10時の方向と2時の方向から同時に攻め込まれ、左側はスタッフをフルスイングさせて弾き飛ばしたが、一方を捌き切れずに右腕を刃毀れした短剣に切り付けられ、血しぶきと悲鳴が迸る。
「っ、の――! こ、んなの、無理、でしょー!!?」
焼けつくような創傷を圧して無意識に叫びながら、それを裂帛として切り付けたコボルトの顔面を足蹴にして倒れたところで頸動脈を踏み潰し。
「死ぬでしょこれえぇぇー! 助けはー!!? 助けてー!!」
■ティアフェル > ただ、誰も来ないまま木霊する声。狭い部屋に犇めいていたコボルトの鳴き声、断末魔、殴打音、響いていたそれはやがて途絶え……。
っはー、っはー、っはー……!
己の鮮血と返り血を浴びて薄汚れながら、よろり、と背にしていた壁に倒れるように凭れかかり、累々と転がるコボルトの骸を前に、限界を超えて行使されがくがくと震える手から、からん…と握りしめていたスタッフが滑り落ちた。
「もう……駄目……」
はあはあと呼吸を乱し、汗を滲ませ、血に塗れ、掠れた声で零れる独白。携行してきた回復薬は使い切ってしまった。精神力が尽きかけていて回復魔法も発動させるには今しばし時間を要する。
もしも、今、ここで新手が現れたら――、
「終わり、ね……」
自嘲を含んだ渇いた声が漏れた。次から次へと魔物が湧いても可怪しくない場所だ。力尽きたところで運よく助けが来るよりも、追い打ちがかかる可能性の方が余程高い。背を預けた壁にも血の沁みた鉄錆臭い空間で天井を仰ぎ。
その折に部屋の出入り口から響いた音。そちらへ緩慢に反応し、それが誰か…いや、何かを確かめるように重たげに首を巡らせた。
「……今度こそ、死神かしら……」
口端を歪め、投げ遣りな呟きを零しながら。
ご案内:「無名遺跡」に影時さんが現れました。
■影時 > ――概してよくあることだ。
階層型の迷宮に潜る際、マップにも記されていない罠に引っかかる、分断される。
或いは運よく出てきたお宝に目がくらみ、その分配に揉めて魔物の急襲を受けてしまう等々。
迷宮探索での「あるある」と、そのトラブル沙汰は枚挙してもしきれない。
故、巡回ではないが、腕に覚えのあるものが単独で潜ってはマップの更新を兼ねて探索を受けるということもある。
今、こうしてかの地に足を踏み入れるのもそういうことである。
堆積した埃に残る足跡や魔物の死骸などから見るに、どうやら近い時間で先行しているものが居るらしい。
その痕跡を辿るように進んで行けば、進行方向から色々と騒動めいた音が聞こえてくる。
微かに迷宮が鳴動したように思えるのは、もしかすると未知の罠等が作動したか?
「……まぁた地図を書き換え直すことになりそうだなァ、おい。まぁ、其れは其れで良いとして、だ」
困るものは、自分ではない。それは然るべき担当のものが頭を悩ませればいい。
問題は仕掛けが作動したとなれば、其処に誰かが居るということである。
そう思いつつ、慎重に探索と並行して先に進む。
次第に聞こえてくるのは魔物の鳴き声、断末魔、そして殴打めいた鈍い音の連続――等々。それが止み、暫くした後に。
かつり、と。僅かに、そして低く足音を奏で、気配静かに件のエリアへと踏み込もう。
「――……生きてるか?」
……と。そう気配がするほうに声をかける姿は、黒い異国風の羽織と装束と、開閉式の蓋がついたカンテラを掲げる男のそれだった。
■ティアフェル > ――魔物の足音にしては、規則正しく、そしてある程度顰められていた。だから、彼が立てる音は絶望感を煽るものでもなく、そして、目に映った姿は……、
「っは………はあぁ~……人、か……とりま、良かった………。
……はい、元気でーす……」
いきなり追い打ちをかけてこようとせずに、まず生存確認をされて、少々脱力する。死んでるにしては活きがいいでしょうよ、と口端を歪めながら、血に染まった満身創痍状態では説得力に欠けまくる返答。
元気、という声からして掠れて力ないものだったが。死んでいると思えば充分息災だ。あちこち負傷していて衣服も裂けてそこそこズタボロだが。
コボルトの屍と飛び散った鮮血に囲まれて、血染めで苦笑する姿はそれなりに壮絶かも知れない。
「もー…ちょい早く来てくれたら……わたしとっても、嬉しかった……」
見ず知らずの御仁に贅沢なことをほざくが、そもそもその人が助けに入ってくれるかどうかも判らないのだから、能天気だ。
■影時 > 死神とやらの逸話の類は各地を巡るたび、言語を覚えるついでに紐解く伝承を見るたびに目にする機会が多い。
色々な地を旅してきたが、その土地の風土風習の類を覚えるためには、その手の話題を頭に入れる必要があった。
総括して思うところとして、騒々しい死神というのは見聞きした覚えはない。
己以上に慎ましく、そして誰よりも静謐に訪れるものである――らしい。
「活きのいい死体なら、変な死霊の類も寄り付かんだろうさな。
だが、流石に元気そうにゃ見えンし、空元気にしちゃぁ無茶も良いと位ェだ」
少なくとも、生きる活力は失せていないらしい。
そう察しながら言葉を返し、足音静かに先客の居る壁際の辺りまで歩み、長躯を屈めて視線を合わせる。
ことり、と傍らに小型のカンテラを置けば、光源には足るだろう。それで声紡ぐ男の姿が明瞭になる。
鼻から口元までを黒い覆面で隠し、腰に片刃の剣を佩いた姿は其れだけを見れば軽装の戦士のようにも見える。
だが、不思議と気配は薄い。触診するのは今の有様を見るに、早計であろう。そう鑑みながら、
「悪ィなぁ。直でこの階層までぶち抜くワケにもいかなくてな。水薬一杯で赦してくれや。毒消しの類も要るか?」
贅沢めいた言葉には戯れつつも、真面目腐ったコトバを返しつつ腰裏の雑嚢を漁ろう。
取り出すのはガラス瓶に封入された回復の水薬である。創傷の手当、消毒も要るがまずは体力の回復が必要だろう。
死屍累々たるコボルドたちの得物を検める限り、毒の類の心配はないかもしれないが、万一ということもある。
ついでに出立前に補充した水袋も腰から外し、差し出しながら問おう。
■ティアフェル > 黒い衣服に包まれて薄暗い向こうから現れる姿は若干死神めいてはいたが――実際は異なるようで、ひとまず、安堵めいた心地が過る。
こんな急場に見知らぬ人物とくれば、多少警戒すべきだとは思ったが……灯りを伴って近づいて来る様子は、何となく魔物と同等に危険なタイプだとは読めなかった。単なる勘だが。
けれど窮状で差し迫った場合の勘というものは得てして当たるもので。
「なんじゃそら……活きのいい死体って最早アンデットよね……。
……最低限の虚勢を張れてりゃ、それなりに元気でしょ……」
無理のある虚勢とも云えるが。空笑いを零すと、近づいて来る半分覆面で隠れた相手の相貌をカンテラの光の中で確認して、それだけでも他国の民だと一発で知れる。
「いえいえ、ちょっとした我が侭にご丁寧に痛み入ります……ありがとう。遠慮なくいただくわ。あ、毒は平気よ、食らってない……」
厚かましい言を飛ばしたがそれに返って来るのは何とも気のいい応答で、思わず肩からふっと力が抜けて自然と表情を緩め。
そして礼を云いながら探り出された小瓶を受け取ると、蓋を開け躊躇なく一気に傾け、ごくん、と喉を鳴らして干せば、はあぁー…と大きく息を吐き出した。
小瓶を脇に置き、背を壁に預けたまま、さらに差し出されている水袋を受け取り。緩やかに傾けながら落ち着いて来た様子で。
「んん……とりあえず、人心地……助かったぁ~……生還の兆しが見えるぅ~……」