2020/09/21 のログ
ご案内:「無名遺跡」にジナイアさんが現れました。
ジナイア > 季節は太陽が照り付ける季節から移ろい、陽が沈めば寒ささえ漂うようになった。
虫の声がする森を抜けて、漆黒の空に白く浮かんだ月を一瞥してから潜り込んだ遺跡は、さして変わらず黴臭い湿気漂う所かと思っていたのだが。

「…樹の根太が這っているせいか……?」

狭い通路の中、あちこちに貼り付いたヒカリゴケが明滅する中で女の呟きが響く。
元々は奇麗に石畳が敷かれていたと想像できるそこは、合間から大小の根太が這って足を取られやすい。
しかし香るのは土の匂いと、時折は虫の鳴き声さえも聞こえて来る。
過ぎた歳月のせいだろう。
半ば以上森に取り込まれたようなそこは不思議な季節感を漂わせて、只の自然洞窟にさえ思えて来る。

(…壁の松明さえ、無ければな……)

そこも垂れ下がった根太で覆われつつある石壁に、不規則に覗く揺れる松明の灯り。
太古の昔から消えることなく灯っているのだろう。
自然に取り込まれつつありながらも光を零すその様は、足元を照らす助けになるとはいえ、まるで幽鬼そのものにも思える。

(―――…あまり、長居したい気分ではないな)

この辺りにあるという植物を取ってきて欲しいとの、知り合った学者からの依頼。

(…青い花、だったか)

見れば解る。燐光を放つ小さな花だという。
それ自体に興味があって来たのもあるが。

(…今は残念ながら、寂しい雰囲気に浸りたい気分ではないからな…)

苦笑を熟れた唇に浮かべて
赤銅色の肌の女は、松明のあかりに眼を細めるように視線を根太の間に走らせながら、小さく靴音を響かせ通路を進んでいる。

ジナイア > 静かな夜を静かに過ごすのは嫌いではない。
只幽鬼のような光に囲まれた此処は…人為的な寂しさを漂わせて、女の背筋をうすら寒くするものがある。

(…来る季節を間違えたか)

いっそ夏の間に訪れたかったかもしれない。
そんな詮無い事を考えてはまた苦笑を零して
女の姿は揺らぐ灯りの中、通路の奥の闇へと溶けていく…

ご案内:「無名遺跡」からジナイアさんが去りました。