2018/09/04 のログ
ご案内:「◆無名遺跡(イベント開催中)」に影時さんが現れました。
影時 > ――深く、深き、地の底。

其処に跋扈するものがあると伝え聞き、幾つかの冒険者ギルドにて依頼として掲げられたものの一つを受け、潜る。
向かう先は迷宮の如き名もなき、或いは名も知れぬ遺跡の一つ。
数ある入り口のうち、一つから侵入を果たして慎重に進む。その先にて果たしてあるのは――。

(……成ぁる程。こいつがそうか?)

苔むした石組が壁や天井を作る一角。まるで巨人でも立って歩けそうな回廊が続く中、白銀の威容が足音を奏で、進む。
前方より見えてきたものに気づけば、奇しくも石壁の一角に空いた窪みに身を伏せて、一旦身を隠そう。
匂いは探索開始時より、特製の香を焚いて消した。
地に伏せ、外套を被る。気配を希薄化する。鼓動の音を隠す。隠し隠れてその果てに――周囲を為す全と、己を為す一をひとつとする。
それが己が奉ずる隠形の極意である。そうしながら、地に伏せることで感じる振動よりその威容を測る。

(目測含め、十丈――いんや、二十丈くらいはあるか? で、目方は……分からんなァ。だが、明らか俺よりは重かろう)

想像する。音を通じて観察する。今のところは、まだ気づかれてはいない。
得物は先ほど垣間見えた槍のようなものであるのは、伝え聞く話にも合致はする。

影時 > ――己が隠れた場所の近くを、およそ6メートル程もある巨人にも見える何かが通り過ぎる。

そのことに安堵はしない。気を緩めることはしない。
やり過ごせたらどうかというのか。今を切り抜けたから良しとするのか? 否、だ。
この鎧騎士のようにも見える何かを、何体も何体も湧いて出るものを殺さねばならぬのだ。
であるならば、やらねばならない。屠らなければならない。生きていないものであれば、壊さなければならない。

(――よぉし。まずは、小手調べだ。)

気づかれていないことに胸中に快哉も何も湧くことなく、ただただ淡々に振動を通じて観察を続ける。
初見の巨大なものを相手取るにあたって、真正面から掛かるのは得策ではない。故にこそ、手管を練る。

「……ッ!!」

程々に良い距離であると判断すれば、遂に動き出す。
身を隠す窪みより転がり出て、左手より腰に付けたものを掴んでは振り出す。
先端に鋼製の鉤が付いた、いわゆるフック付きロープである。
其れが縄に沁み込む氣を通じて蛇の如く中空を奔り、かの魔導機兵やらいうものの首に絡みつく。
もちろん、それで窒息死を狙うワケではない。息をしていないものにわざわざ、そうすることは無為の極みだ。

「ぬンっ!!」

そして、ここから敵の動きを止めるのか? 否、だ。
窄めた唇より気勢を吐き、跳び上がる。縄を手繰り、取りつくのだ。
不意の敵の遭遇にバケツじみた筒状の頭部のスリットを赤くさせた機兵に、である。

影時 > 騎士の如き、あるいはゴーレムの如き機兵なる存在がその目を輝かせ、右手に光を集めて召喚する紅き槍を掴む。
振り解くには、叩き落そうとするにはやや遅い。
背に見える光背にでも叩き付けられたら、存外この身も容易く消えて失せることだろう。
そうもいかない。いずれ死ぬのは世の定めなれども、此処で死ぬのは少々興醒めが過ぎる。

「其れなりに反応はしてみせンのは良いんだが、な
 ――口を聞けん類か? それとも、そんな風に作られて無ェのか? ッ、ぉ!」

戦闘態勢となれば、気配を隠すどころではない。
サイズ差も著しい上に人間の如く、急所を一突きすればそれで事足りるというものではない。
声をかけながら懐より取り出すこぶし大の球より伸びる糸を銜え、噛み締めては首の動きだけで引き抜く。
その球を首の装甲の隙間に放り込み、機兵が己を叩き落とそうとするべく伸ばす左手を躱すと共に飛び降りる。
縄を持つ手を捻り、鉤を引き戻しながら着地をしてゆけば、後方で赤黒い爆裂と煙が上がる。だが……。

「ほぉ。思ったより、硬ぇ面の皮をしているじゃねェか、っ……!」

しかしながら、明確な痛打にはなってはいない。
急所のひとつと伝え聞く頭部の顔面の切れ込みまで、爆炎と衝撃が届いてはいるが浅い。
其れなりに威力のある筈だが、この手の熱と衝撃にも耐えられる造りをした個体ということなのだろうか?
内心で分析をしながら、声無く巨人の如き機兵が槍を振り上げ、叩き付けて来る。其れを飛び退き、躱す。

影時 > 躱した槍が――地を叩く。
これには如何な威力が秘められてたのだろうか。見た目こそ年月を経たように見える石床が、爆ぜ砕けたように見える。
そうでなくともこれだけの身丈の差から叩き付けられる質量物となれば、まともに喰らえばただでは済むまい。
この時点で鑑みるまでもなく、駆け出しの冒険者が相手取るには身に余ることは疑いなし。

「さぁて、火薬は不発じゃァないがいまいちときた。
 伝え聞くに魔法の類はかかりが善くないとも聞く。さてはて――然るに、如何とする?」

嘯きつつ、左手を横に出せば先ほど引き戻した鉤縄が伝え流す氣の動きに従い、蛇のように絡む。
束ねて戻すのではなく、何時でも振り出せる一方で邪魔にならないよう捌きつつ、腰裏の雑嚢に手を遣る。
雑嚢の裏に取り付けた鞘の蓋を開き、指で引っかけて取り出すのは黒い刃を持つ両刃の短刀である。

「やっぱ、此れか。………む、こいつぁ、やべェか」

幾つか試しておきたい手管はある。知っておくべきこともあるだろう。
しかし、先ほど験しとはいえ火薬を使ってしまった。近隣に同様の個体が居ると仮定した場合、寄ってくる可能性が高い。
そうそう悠長に時間をかけてはいられない、というコトである。
苦無とも呼ばれる刃を順手から逆手に持ち替え、右手で構えていれば機兵が動く。槍を前に構え、背負う光背を何やら高速回転を始める。
真逆。嫌な予感に苦無を口で銜え、フリーになった両手ですぐさま幾つかの印を組む。
そうして、足元を軽く蹴れば地面を為す石床がまるで畳よろしく、めくれ上がる。
其処に光背から放射される矢状の光線が幾つも当たり、爆ぜる。
頑丈な岩盤も続けざまの連射にもたず、崩れ落ちる、――その刹那を縫って、馳せる影がある。

影時 > 「………!!」

声は、ない。言葉は要らない。壊すしか他にないものにかける言葉はない。
細めた暗赤色の双眸が高めた氣力ゆえに鋭い眼光が、薄闇を翔ける動きに残像を残す。
地に穂先が埋まった槍が持ちあげられ、接近するものを邪魔とばかりに薙ぎ払いに掛かる。
それを気勢を吐き出し、跳び上がる。
刃と柄のつなぎ目と形容すべき箇所に一瞬、刹那の間に手を突いて転がって躱し、更に飛び上がる。
そうしながら、大きく大きく息を吸い、強く、長く息を吐く。氣を五体に巡らせ、円環を為して高速回転させる。
勢いをつけた氣を改めて右手で掴む刃に籠めれば、その刃に陽炎が立ち上る。刃の様を見ることなく、を思いっきり振りかぶって。

「――喰らえぃッ!!!」

――投じる。並の鋼刃では忽ち崩れ去るほどの氣量を籠め、宿らせた刃が闇色の流星の如く虚空を進み、機兵の胸部に突き刺さる。
急所であると伝え聞く箇所である。苦無が突き立った瞬間に籠めた氣が奔流の如く溢れ、その内部を駆け巡って構造を破壊する。
ギ、と。軋むような音色が響き、立ち竦んだような巨体が膝を折る。
倒れるか。動きを止めた機兵の胸部まで飛び上がり、取りついて刃を引き抜けば其れを契機に自壊が始まる。
がらがらと騒々しく、五体も得物も顔も、何もかも瓦解し、崩壊して勇壮にも見えた形態を失ってゆく。

その一部始終を見届け、右手に回収した刃を提げては一息をつこう。