2018/07/24 のログ
ご案内:「無名遺跡」にルナドールさんが現れました。
ルナドール > ――――――見る者によっては、此れは罠だと思われるかも知れない。
或いは無謀な新米冒険者の末路、其れとも、哀れな奴隷が打ち捨てられた姿とも。

ともあれ、此処は迷宮と化した遺跡の片隅。
蒼白いヒカリゴケの一種でびっしりと覆われた小部屋の中央に、人形は在った。
艶やかな黒檀で設えられた肘掛け椅子に、脱力し切った様で座る己は、
呼吸こそひとを模して繰り返しているものの、閉じた瞼もくちびるも、
動き出す気配も、体温すらも、遠目には感じさせない。
椅子から滑り落ちてしまわぬのが不思議な程に、無防備な寝姿を晒して。

生温く湿った空気の中、仄かに香るのは、蠱惑に満ちた魔族の残り香。
『あるじさま』の腕に未だ抱かれている夢を見ながら―――覚醒の時を、只管に待つ。

ご案内:「無名遺跡」にブレイドさんが現れました。
ブレイド > 無名遺跡。
古代の迷宮のその奥で、少年はあるものを探していた。
永き刻を生きる少女と出会い、その話を聞き感じた虚無感。
それをなんとかしたいと、何度めかの遺跡へと脚を踏み入れたのだが…
比較的浅い階層にそれはあった。
人の形をしたものが鎮座する小部屋。
青白く苔が輝き、その中央に座るもの…死体か、罠か、魔物か。
判別はつかない。

「なんだ…これ…」

明らかに不自然ではある。
部屋自体も、その中央にある椅子に腰掛けた人のようなものも。
怪しすぎる。なんだ、これは。
そうとしか言えない。
不用意に近づくこともできない。

ルナドール > 冒険者を誘う罠としては、少しばかりポピュラー過ぎるだろうか。
華奢な少女など居る筈の無い場所で、魔物にも襲われず、
傷らしきものも無く、只、眠り込んでいる、様に見える、モノ、など。

部屋の中程に置かれた椅子の上、座った己の足先は、地面に届かず浮いている。
さらりと伸びた白銀の、穂先は蒼白く光を弾き。
仰のいた其の、細く白い首に巻きつく黒い首輪だけが、罠としては異質やも知れぬ。
然し其れすらもきっと、冒険者の警戒心を緩める役には立たないだろう。

―――――そして不意に、人形の瞼が小さく震える。
目許に落ちた、睫毛の淡い影が揺らめいて、瞬き、ひとつ。ふたつ。
紅く濡れた柘榴の眸が、ゆるり、ゆるり、静かに姿をあらわして。

「―――――だぁ …れ………か、 いる ……の………?」

細く掠れた舌足らずな声が、小さなくちびるを震わせる。

ブレイド > 喋った。声を発するがややたどたどしい。
舌足らずなのもあるが、途切れ途切れで…しゃべることに慣れていないようですらある。
まさか、反応があるとは思わなかった。
少女の姿で、声で、生きていることを示し、誘う罠か?
そもそも幼く見える少女が、あのような軽装で、こんなところで椅子に座っているなんてありえないのだから。

「……大丈夫、か?あんた…」

だが、声をかけてしまった。
流石に部屋に踏み込まなければ大丈夫であるとは思うが…
それにしたって、自分も不用意すぎるか。
だが、魔物に無理やり連れてこられた生き餌…という可能性もありえた。
普通ならば、無視するのが定石。ミイラ取りのミイラになる必要などない。
しかし、少しでも『生存者』の可能性があるならば…

ルナドール > 背凭れに背中を項まで預ける角度で、すっかり脱力していた首が僅かに持ち上がる。

焦点の曖昧なふたつの眸が、更に瞬きを、ひとつ。
だらりと伸びた四肢の何れも、指先さえも動かさぬ儘、眼差しだけがふらふらと動く。
己が初めて耳にする『あるじさま』以外の声がした方へ。
ぼんやりと―――――そう、未だ感覚が安定していない。
其の人物の姿、仄黒い輪郭だけを捉えて。

「…… わ、た…… し、―――――だいじょ、… ぶ……?」

大丈夫、という言葉の意味は、そして、其れがどんな状態を指すものなのか。
わからなくて、只、其の言葉を繰り返し。
そうしてかくん、と、首を傾がせる仕草をしてみせた。

「わ、から……な、……ぃ、の……。
わた、し、―――――― だい、じょ…ぶ………?」

そしてまた、無意味に瞬いてみせるのだった。

ブレイド > 反応がおかしい。
明らかに言葉を喋っているが…理解していないように聞こえる。
まるで、聞こえている言葉を鸚鵡返ししているだけのようだ。
罠のための疑似餌…にしては、あまりにもお粗末。
軽く部屋の入り口を調べてみるが…罠は見当たらず、魔法的な違和感も感じない。
ただの光苔…か?
とにかく、このままでは埒が明かない。おそるおそる、踏み込んでみる。

「怪我とか、異常はねぇかってことだ…けど…」

こくりと喉を鳴らす。
少しだけ緊張感が喉を引きつらせて、言葉を続けられない。
ゆっくりと椅子に歩み寄れば、少女の眼の前までたどりつく。

「アンタは…なんだ?」

正直に答えるとは思わないが、聞かずにはいられない。
柘榴色の瞳を琥珀色の瞳が捉える。

ルナドール > 厳密に言うのなら、此れは確かに『罠』だ。
冒険者を―――――特に男の冒険者を誘う、か弱い少女の姿をした『罠』。
ひとつ、普通の罠との相違点を挙げるとすれば、此の『罠』に手を掛けることが、
必ずしも、冒険者の不利益になるとは限らない点、だろうか。
然し其れも―――――此の人形の口から、此の場で語られることは無い。

「け、が……… いたい、くるし、ぃ…… こと………?」

呼吸、鼓動、瞬き、そして、少しずつ動き始める『人形』。
相手の言葉から、己の乏しい知識と合致する断片を見つけ、覚束無げに問い返す。
其れから、ゆるゆると左右に首を振ってみせた。

足は、未だ動かせそうにない。
けれど手の指先はそろそろ平気そうだと、肘掛けに乗せていた右手を、やや遅れて左手を、
質素な衣服に包まれた腿の上へ滑らせながら。

「わ、…… た、し………わたし、
わたし、は、 ルナ、で、す………。
ルナ…は、 ルナは、――――― お、にんぎょ………」

近づいた距離、琥珀の眸を見返す柘榴は、とろりと濡れて無感動に。
己の名を、そして、己がナニモノかを、躊躇いもせずに答えて―――――

「あ、な……たは、 だぁ れ………?
ルナ…の、 あたらしい、あるじ、さま………?」

ブレイド > 罠、そうだったとしてもと踏み込んだが
現時点では、何も起こっていない。
ダメージを受けた気配もなければ、なにかに囚われたような感覚もなく
意識だってはっきりとしている。
だからこそ『罠』だったとしても、少年は気づかない。
まだ。

「えっと…そうだ。そういうやつ。
どこか動かなかったり…えーと、血が出てたり…
その椅子から動けなかったりとか、異常なこと…」

言葉があまり自由ではないように見える少女のようなもの。
自身が前に立った時点で、少しずつ…まるで何かを思い出すように
人のような雰囲気を漂わせる。ただ、それも雰囲気でしかなく
人間離れした空気は未だ拭えない。

手が動く。
武器はないし、少しばかり鈍い。
慌てて引くようなことはせず、様子を見守る。
そして、とつとつと語られたのは…名前、だろうか?

「ルナ?人形?人形、か…」

人形であるならば、少し納得がいく。
これまでの挙動も。だが、見つめる柘榴はまるで生き物のそれのように潤いすら感じる。

「オレは…ブレイド、冒険者だ。
あるじ、さま?持ち主のことか?」

どういうことだろう。罠ではなく、まっていたのか?
誰かが来るのを。

ルナドール > 僅かなりとも欲望をもって触れた時、此の『罠』は発動する。
触れた者の望む姿に、劣情をそそる香りすら漂わせながら。
変貌を遂げた『人形』は其の瞬間から、本来の役目を果たすことになる。
唯一、己を創り上げた『あるじさま』に、最高の娯楽を捧げるために――――――
けれど今の己は、未だ、街で売られている縫いぐるみの類と変わらない。
無害だけれど、殆ど、無益な存在だ。

「う、ご……く、のは、…… もう、すこし、かかりま、す……。
何処も、いたく、な…ぃ、けど……まだ、つながっ、て、ない、の……」

動かし方を、未だ思い出せない。
暫く経てば自力で立ち上がり、ぎこちなくでも歩き始める様に、
きちんと創られてはいるのだけれど。
内心の困惑、めいたものを持て余しながら、表情はぼんやりとした儘で。
両手は揃えた腿の上、そっと指先を絡めて組み合わせられる。
不器用ながら、祈りを捧げるにも似た形をして。

「は い……、ルナは、人形、です………。
ぶ、れ…いど、さま、――――――それが、あるじさまの、おなま、え……?」

目の前の相手を、新たな所有主、と―――もう少しで、完全にインプットしてしまいそうである。
紅い眸が、また、屈託無く瞬いた。

「ルナ、は、ここ、で……あるじさま、を、お待ち、して、いまし、た……。
ルナを、つれて、帰っ…て、……いっぱい、――――――て、くださる、かた、を……」

言葉は何故だか、感情など無い筈なのに―――ある一個所で、細く、途切れた。

ブレイド > 彼女の罠には気づかない。
気づけない。
魔法にも…それこそ魔性の人形などの知識にあかるいわけでもないのだ。
あたらしい『あるじさま』それをここで、ずっとまっていた?
そのように言っているのか。

「繋がってない?長い間ここにいたのか?お前…ルナは…
あー、なんだ。どうしてここに?」

主をまっていた。
それだけ聞けば、害があるようには思えない。
だが、どこまで信じていいものか…自分もあまりに不用意ではある
罠と考えるにはあまりにも発動が遅い。
そのため、警戒心は徐々に解けていってしまって。

「あるじって…オレが?
オレは別の用事でここにきただけで…」

主と呼ばれると少し戸惑う。
永き時間の空白を埋める秘宝を探してきてみれば、いきなりこのようなものに遭遇してしまったのだ。
狼狽えもするだろう。

「とにかく…出たいのか?ここから」

少しよく聞き取れなかった。
だが、連れて帰って…という言葉を聞けば、外に出たがっているものとも思ってしまう。
だからこそ、手を貸すように差し伸べて。