2018/07/06 のログ
ご案内:「無名遺跡」にギィギさんが現れました。
ギィギ > 無名遺跡の無数にある部屋の一つ。

光苔の灯りで薄らと照らされた石造りの通路の途中に存在する極有り触れた木製の扉、その扉を開けば冒険者の前には不思議な光景が広がっている。

その部屋は不自然なほどに清涼な空気と果実を腐らせたような酷く甘い香りが漂う空間で部屋の中央には白い陶磁器に似た硬い物質で出来た椅子があり、その不思議な椅子は廊下を照らす光苔とは違う、天井から吊るされたランタンの光で不自然なほどにライトアップされていた。

――誰が見ても罠である。
清々しいまでに罠である。

だが、その罠を作った存在は狡猾なモノらしく、その白磁の椅子を見たものは座りたくなる衝動に駆られる魔法がかけられていた。

更に言うなら室内に香るその熟した果実の甘い香り、匂いを嗅いだ者の精神を強制的に安らぎと平穏に導く事でこの部屋にある何もかもに違和感を抱かせない、つまりは白磁の椅子に誘われている事すら違和感を与えず、警戒する気持ちを失わせ、強引にではなく自分から背もたれのある白磁の椅子に座らせようとしているのだ。

無論白磁の椅子は罠なので、その白磁の椅子に座ってしまえばそれなりの末路が待っている、待っているが……まあ他の罠に比べればマシな方であるだろう、別に連れ去られるわけでもなく、命を奪われるわけでもなく、下品な魔物に犯されるわけでもなく、椅子に座らせられるだけなのだから。


――…だが椅子に座って立ち上がろうとしない者を遺跡を徘徊する魔物が見逃してくれるだろうか?

答えはNOである。

だって天井には椅子を作った罠を張り巡らせた誰かの思惑とは別にどろどろの透き通るような紫色の粘液物質が張り付いていて、椅子に座るものを今か今かと待ちわびている。

罠と魔物、この場合は罠を魔物が利用していると言ってもいい、そんな部屋に迷い込むものはいるだろうか?

ギィギ > 罠の名前は「芸術家の渇望」と呼ばれる罠である。

暇と魔力を持余した「芸術家」が名も知らぬ何も知らない女を芸術の素材にしようと考えた末に創り上げた罠だ。

座ってしまった女を題材に裸婦を描いてみたり、染料で柔肌をキャンバスに何かを描いたり、銀を混ぜた石膏で塗り固めて飾り立てるも良し、と碌な使い方がされない罠であるが、それはあくまでも芸術の為であって、誰かを殺したりする罠ではなかった筈……まあ石膏で固められた末路は言わずもがなであるが。

製作者は既に罠の存在を忘れているか別の作品に没頭しているか、病に伏しているか、諸々の諸説はあるがこの罠の傍に居ることは無い、だからこそ代わりに粘液状の生命体が天井に張り付いて、その悪戯の延長戦のような罠を利用して獲物を掴まえようとしているのだ。

他の魔物を寄せ付けない清浄なる空気はその粘液状の生物がそれら穢れを貪っているからで、どうやらその生物は金属以外は何でも消化できるようだった。

だが室内の暑さは違う
無名遺跡とは言え、浅い階層は外の熱が入り込んでくるのだろう、この部屋は締め切っている所為で酷くむしむしとしている。

だから余計に部屋に入り込んだものの鼻腔を果実が熟したような甘い不思議な香りを強く感じれるだろう、それは罠の作者も粘液状の生物も狙ったわけではないのだが……。

ご案内:「無名遺跡」にリーゼさんが現れました。
リーゼ > 街にある冒険者ギルドで仕入れた情報
それによると近くの遺跡には、まだ当時の遺物や財宝が眠っているらしい。
路銀にそれほど困っていたわけではないけれど、宝探しと聞けば好奇心が疼くわけで。
その日のうちに遺跡探検の準備を終えると、翌朝には出発したのだった。

そんな感じに、意気揚々と遺跡に乗り込んだのは良いけれど。
ギルドに情報が出回っているということは、それなりに先客はいるわけで。
宝箱が見つかっても、中身は既に空っぽ……なんてことばかり。
古びたナイフとコインをいくつか。
それほど深く潜っていないから、仕方がないと言えば仕方がないけれど、
ちょっとしょっぱい成果にやや不満気味で。

「一晩くらいは明かしても良いけど……うーん……どうしよっかな」

引くか進むか。そんな迷いを見透かしたように、古びた扉が見えてくる。
扉があるということは、部屋か何かになっているのだろう。
最後にそこだけ確認したら終わりにしようと、扉に手を掛ける。

「何が出るかな……って、何ここ……?」

扉を開けた先に広がった光景に、思わずぽかんとしてしまう。
一応は警戒していたのが、馬鹿らしくなってしまうくらいに、何もない。
否、椅子がひとつだけ。ぽつんと浮かび上がるように照らされていて。

「えっと……おかしい、よね…? あれ、おかしく…ない、のかな??」

危険を全く感じさせない清涼な空気と、鼻先を擽る甘い香りに警戒心が解けていく。
ふらふらと誘われるように、その椅子に近づいていき。

ギィギ > ――…異常な安らぎを異様な安心感を無用な違和感の排除を哀れにも腰掛けてしまった愛らしい冒険者に。

是が今だ活きた罠であり、誘われるように罠へと近づいてゆく冒険者の少女に白磁の椅子は滑らかに天井より降り注ぐ輝きに艶やかに輝くと、ふわっと一際甘い香りを白磁の椅子が匂わせて、おいでおいでと冒険者の少女を手招きする、肘掛くらいしかない、がそんなイメージを抱くほどに椅子から放たれる魔力はその役目を全うする為に誘うのだ……もう製作者は存在しないのに……。

その誘惑の魔力に甘い香りに負けて白磁の椅子に腰をかけてしまったのなら、白磁で出来ている筈なのに柔らかく冒険者の少女のお尻を受け止めて、少しだけひんやりした冷たさを感じさせた後に確りと体重を支え、背もたれもまたより掛かればその体重を共に支えて安楽を座ったものに与えよう。

だが……白磁椅子はそれで終わらせる筈であって、座ったものに実家の自分の椅子の如き安らぎを与えるだけなのに、天井より吊るされたランタンの周囲に広がる粘液状の生物は生存戦略を始める、産めよ増やせよこの遺跡に満ちようと……。

冒険者の少女と罠に巣食った粘液状の生物は絡み合うことになるのか、それとも違和感に気づき逃げる事に成功するか、それは当事者達にしかわからない、そしてそれを知る術もない……。

ご案内:「無名遺跡」からギィギさんが去りました。
ご案内:「無名遺跡」からリーゼさんが去りました。