2021/04/04 のログ
ご案内:「ミレーの隠れ里」にルッカさんが現れました。
ルッカ > その夜、やけに森の木々が騒がしいようだと、誰かが言った。
白く長い耳があっても、ろくに力を持たない仔ウサギには、なんのことだかわからなかったが。

しかし、その夜。
かりそめの平和は破られ、里には無慈悲な蹂躙の手が伸びる。
隠形の術が綻びていたため、そこから入り込まれたらしい。
綻びの原因は、実はこの仔ウサギだったが、当人も、まわりの者たちも気づいていない。
小さな仔ウサギ、ミレーの子ども。
そう思われて森で拾われた仔ウサギは、今も、大人たちの手で隠されている。
あちらへ逃げろと背を叩かれ、ここへ隠れろと引っ張られ。
そうして今は、里のはずれに近い大木のうろの中。
膝を抱えてうずくまり、貸してもらった黒っぽい色のマントにくるまって、
遠く近く聞こえる怒号や剣戟の音、悲鳴、嗚咽、それらにいちいち震えながら、
嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。

ウサギは気づかない、気配を隠す能力もない。
だから誰かが近づいてくれば、見つけるのは簡単だろう。
見つける者が良いひとか、悪いひとか――――それは、まだ誰にもわからない。

ご案内:「ミレーの隠れ里」にトーラスさんが現れました。
トーラス > 善人か、悪人か。それを定義するのは中々に難しい。
善悪は主体によってはじめて成立するが、主体は世界に属さない。
誰にとっての善悪か、その誰が変われば答えは180度異なってしまう。
王国にして見れば、彼は正しく善人であり、ミレー族から見れば、彼は紛れもない悪人だっただろう。

九頭龍山脈の奥地、ミレー族が結界を張り巡らせて棲む隠里の森に火の手が上がる。
数日前、何らかの原因で隠形の術が綻び、魔術師の感知魔法に引っ掛かりを見せた隠里に、
この日、マグメールから大掛かりなミレー狩りの部隊が組織されて派遣された。
集まったのは奴隷商が雇った傭兵に、王国貴族の私兵部隊、そして、儲け話に乗じた冒険者達。
彼等はミレー族の隠里に火を付け、抵抗する戦士と斬り合い、屈強な男や見目の良い女を捕まえ、
そして、役に立たない老いた者や病の者は無情にも手に掛けられた。

基本的に儲けを得るのは前者から、一番最後の冒険者には賃金のみが支払われ、
奴隷商や貴族の配下が一番乗りで奴隷として攫った後に、余り物の略奪が許される。
尤も、残り物に福がある等とは夢物語に過ぎず、冒険者が何かを得られる可能性は限りなく低く。

「はぁ、目ぼしい連中は既に捕まってるよな。……ちと、小便に行ってくる」

血眼で仲間達がおこぼれに預かろうとする中で、早々に見切りを付けたやる気のない中年が一人。
返り血に濡れた長剣を片手に人気のない里の外れにまで歩いていけば、偶然見つけた洞のある大木へと近付き。
腰帯を解き、下衣を脱いで、逸物を晒すと木の根へと小用を足していき。

ルッカ > 良いひと、悪いひと、仔ウサギは自分でも気づかないうちに、
この里にとって、とても悪いひと、になってしまっていた。
当の仔ウサギも、襲われた里の人々も、誰ひとりその事実に気づいていないことは、
幸いと呼ぶべきなのか、それとも。

ともあれ、もう少し黙って隠れていれば、ウサギ自身は助かるはず。
さっきまでよりもずいぶんと、静かになってきているし。
きっと悪いひとたちは怖いことを連れて、そろそろいなくなるはずだ。

なのに、誰かの足音が近づいてくる。
危ういところで声を殺して、きゅっと身を縮こまらせたウサギの前に、
大きくて、血のにおいのする、怖いひと、が現れた。
見つかってはいけない、静かにしていなければいけない。
その程度の判断は、仔ウサギだって、していたのだけれど。

「ひゃ………!」

保護色めいたマントに隠れて、かたずを飲んで見守っていたら。
目の前で下衣を解いたそのひとが、急に、おしっこをするものだから。
独特のにおいがするあたたかい液体を、マントの上から、とはいえ浴びせられて、
思わず短い悲鳴をあげてしまった。
次の瞬間には、しまった、と身を硬くして黙り込んだが、
うろの中で蠢くものに、相手は気づいてしまうか、どうか。

トーラス > 戦場であろうとも、生理的欲求は沸き起こるもの。
こればかりは生き物である以上は致し方ない事であろう。
そういう訳で木の根から洞へと湯気の立つ小便を、相当に我慢していたのか、
勢い良く浴びせ掛けていれば、突然、響き渡る悲鳴に、肉棒がびくんと反応して、
それまでは勢い良かった小便が止まってしまう。

「――――誰だ!?」

思わず、そのように誰何の言葉を掛けたものの、傍から見れば随分と間抜けな姿であっただろう。
何しろ、今の彼はズボンの前を寛がせて下着を下げて、逸物を外気に晒した儘の状況である。
とは言っても、今は身繕いをしている暇すら惜しく、
血の付いた剣の切っ先を声が零れ落ちた方、木の洞に向けると、
慎重に左右へと剣先を振りながら、中の様子を窺うように双眸を細めて覗き込み。
剣先が不意に何かに引っ掛かりを覚えると、その布地を絡め取るように剥ぎ取り、

「ん……、ミレー族の子供、か? こんな場所に隠れていたのか。
 おい、……其処から出てきて、立ってみろ」

憐れな仔ウサギの姿を視界に収めると、剣を突き立てながら声高に命令する。
昏い洞の中では分からない、相手の姿を月明かりの下で検分しようと試みて。

ルッカ > そのひとが声を放った瞬間、仔ウサギはますます身を縮こまらせた。
だってとても低くて、怖い声に聞こえたからだ。
それはもう、相手の格好がちょっとアレだとか、そんなこと考えつかないくらいに。
当然、声なんか返すはずもない。

―――――が。

「……ひゃん、っ……!」

ふいに、隠れみのにしていたマントが引っ張られ、奪われてしまう。
そうなるとどんなに縮こまっていても、白いウサギは夜目にも目立つ。
真っ赤な瞳がおどおどと、うろの中から相手を見あげて。

「ふ、え……っ、出るよぉ、出る、から…ぁ、怖いの、しまって……?
 グサッ、とか、しちゃ、やです、よぉ……?」

仔ウサギが言う、怖いの、というのは血まみれの、よく切れそうな剣のこと。
血曇りも生々しい切っ先をちらちら見やりながら、そろり、そろりと這い出して立ち上がり、
白く長いウサギの耳を露出したままの、ちいさな身体を月夜に晒した。

ご案内:「ミレーの隠れ里」からトーラスさんが去りました。
ご案内:「ミレーの隠れ里」からルッカさんが去りました。