2018/09/13 のログ
ご案内:「ミレーの隠れ里」に光流さんが現れました。
■光流 > 娯楽の少ない里の夜は早く、この時間に明かりが灯っている家はほとんど無い。
そんな時刻、里の平穏を守る為に滞在している鬼がランタンを持ち、歩いていた。
ここの里も例に漏れず結界を張ることにより、入り口をわかりにくくしている。
わかりにくく――といっても、わからないわけでは無い。
例えるならここへ至る道を迷い易くするもので、悪意が無くとも
偶然に迷い込む者がいたり、高度な魔術を扱う者には効き目が薄いなど、効果は様々。
とにかく結界がこの里を護る一端を担っていることは間違い無い。
「……結界に穴が有るな。術式変えた方がよさそうだ。明日長老に報告するか。」
結界を張る技術は持ち合わせていない東方の鬼であったが、その程度は感じる。
ひと気の無い森へと繋がる入り口付近にて、結界の発露を担う魔晶石を手に取りながら呟いた。
視線を夜の森へと向ける。
昼間は長閑で果実もよく収穫できる、よい森なのだが、日没後は薄気味悪く見えるから不思議である。
ご案内:「ミレーの隠れ里」にエズラさんが現れました。
■エズラ > 「うう~……む、おかしいな、こりゃ――」
夜の森――ふよふよと小さな灯明が動く。
ランタンを提げた軽い旅装の男である。
普段は戦場を仕事の場としており、街に滞在している時は酒場や娼館の用心棒を担っていたが――
そういう仕事もないときは、山に海に川――野外に繰り出し自然と共に過ごすことを好んでいた。
今日もいつものように森に入ったが――どうも、方向感覚がおかしい。
男は、少し前にとある精霊の加護を受け、これまでに比してはるかに高度な魔術的素養に習熟したのであるが、未だその実感がなかった。
それ故に、普段は気付くことすらなかった「結界」の気配に、いわば体内の方位磁石を狂わされている状態なのである。
「こんな場所で迷ったことなんざ、これまでなかったってのに……おまけに――」
まだわずかではあったが、しくしくと頭の奥が痛む。
これもまた、肉体が結界に対して過剰に反応しているのであるが、そういう実感もまだない――
そして、野性的本能でもって、男の足取りは自然と――その結界の影響の薄い「穴」へと向かっているのである。
■光流 > 森を見ていた鬼の表情が、ふと険しくなる。
――――誰かこちらに近づいている。
里の者が全員揃っていることは確認しており、来訪者が訪れるとの報告も受けていない。
となれば、ミレー狩りなど不届き者の可能性も有るだろう。
鬼はランタンの灯りを消し、魔晶石と合わせてその場に置くと、ゆっくりゆっくり森へ進んでいく。
目的地とするのは、男が向かうのと同じ結界に生まれた穴。
正常であれば、結界に触れた途端に森を彷徨うこととなるのだが、
そこから通れば一本道で里へと辿り着いてしまう。
息を止め、気配を殺して近づく鬼は、穴の近くに生える大木に上ると、見下ろす形で観察する。
その姿が見えれば、誰であろうと木から背後へと降り立ち、首筋に手刀を喰らわしてやろうとする筈。
とりあえず気絶させておこう。
もしも里の出入りを許可されている者だったら、後で謝ろう。
そんな脳筋な考えでの行動だが、結果は如何に。
■エズラ > 心なしか、頭の痛みが引いていく。
相変わらず歩いている場所に覚えはなかったが、不思議とこのまま行けばこの不可解な状態から脱することができる――そのような予感があった。
やがて、一際巨大な大樹のあたりまで来たところで――
「……――」
男の呼吸が、それまでと裏腹に、静かで緩やかなものへと変わる。
狩猟の経験のある者であれば、男の変化を感じ取ることができたであろう――狙われる獲物が、警戒の度合いを高めた時の反応であった。
背後に何かが降り立った瞬間――
「――しェえあッ!」
振り向くと同時に腕を上げ、手刀を防御し、同時に腰から抜き放っていた狩猟用ナイフの切っ先を相手の首筋に突き立てようとして――
失敗する。
受け止めた手力の威力が、桁外れの重さであったから――
「おわっ……――!?」
態勢を崩され、ナイフは空を切り――一足飛びに、後退――
ランタンの明かりをその何者かに向け――吠える。
「なにもんだっ……!」
■光流 > 空を切ったナイフの切っ先は逸れ、鬼の赤い髪を2センチほどかすった。
「チッ」
予想外に速く鋭い反応に、忌々しそうに舌打ち。
手練れのようだ。距離をとられれば、そう気楽に詰めるのも危なかろう。
明かりに照らされた鬼の貌が、ぼんやりと夜の森に浮かぶ。
赤い短い髪、褐色の肌、東方の衣服。
ランタンの灯りでは、さすがに頭の天辺からつま先までというのは
難しいだろうが、それなりに明かりが届くことだろう。
対して、鬼には何者かの姿がよく見えなかった。
しかし自分よりかなり大柄な男だというのはわかる。
骨格がしっかりしており、鍛え上げられたものだということも。
これは少々骨が折れそうだ。
「こっから先はオレの縄張りだ。ケガしたくねぇなら戻れ。」
さすがにミレー族の里が有るなどと言えない。山賊か何かに間違えればそれでいい。
乱暴に告げると、枯葉を踏むように1歩進む。
ランタンの灯りが、それでもう少し深く鬼の貌に差し込むことになるだろう。
■エズラ > 男のものとも女のものとも思えるような声――しかし、人の形をしている。
その背丈は自分より幾分小柄であるが、先ほどかろうじて払った手刀を生み出す膂力は驚異である。
「オイ、そういきり立つんじゃねぇ、ここへは迷い込んじまっただけで――ん?」
相手がこちらへ一歩進み、こちらもさらに高くランタンを掲げたので――容貌がしっかりと確認できた。
確認できたその時から――男の身体から、急速に警戒が解けていく。
「お、おいお前――うん、間違いねぇ!」
今度は明かりを自分の方へと寄せ、相手に顔を見せる。
「オレだよ、ええと――憶えてねぇか、ほら――」
そう、まだ名前すらも知らなかったが――知っていることも、多々ある相手であった。
酒場で会った時は互いにさんざんぱら酔っ払っており、ふにゃけた顔を突き合わせていた。
それに比して今の相手の表情は、正しく鬼気迫るものであったが――そうではない表情も、知っているのである――
男にとっては、夢のような記憶であったが――相手にとってはどうであろうか。