2020/04/23 のログ
ご案内:「◆城塞都市「アスピダ」2(イベント開催中)」にティクスさんが現れました。
■ティクス > 占拠を果たしてから。かれこれ暫くの日数が経った。
今はまだ、王都から大規模な派兵等は無いものの。そんな時間は決して長く続かないだろう。
何時終わっても。何時、軍勢が大挙して押し寄せても、おかしくない。
だから少女は砦の城壁に腰掛けて。じっと、外の山野を眺めていた。
「…………………。」
片方きりの、だがそのせいだろうか、普通の倍程にも利く隻眼が。
飽きる事なく王都の方角を眺め続けている。
しっかりと。膝の上に、慣れ親しんだ得物を抱え込みながら。
もし、役目を中断するとすれば、それは。
砦の内側から、誰かに呼ばれた時か……本当に、敵が攻めてくる時となる、筈。
■ティクス > 「…………?」
ぴくん。瞼を震わせる。
今…確かに。視界の片隅で動いた物が有る。
小さな動きは、余程注視して見なければ、獣か何かと勘違いしそうな物だが。だからこそ少女は其方へと目を向けた。
獣なら別に良い。影から影へ、人間の視線を嫌うような動きも、それならば当然なのだから。
だが仮に。獣ではないとすれば。
その上で敢えて、見られる事を避けようとするのなら。間違い無く警戒せねばならない筈。
つまりそれは。隠れるだけの理由と、隠れられるだけの技量とを持った存在。という事なのだから。
「…出来たら。来ないで欲しい…」
ふと零れる呟きは。恐れ故、というよりは。願望のような物。
仮に人影だったとしても。たった一つでしかないのなら。
悪くて斥候。良くて、この都市の現状を知らずに来てしまった者。
後者なのなら尚更に。迂闊に踏み入り、囚われるなり…殺められるなりは。無い方が良い。
だが、前者なら。…それもまた。叶うなら様子見だけで退散して欲しいものだと願いつつ。
それでも万が一に備えるのが、役目。
一方の膝を着き。もう一方の立てた膝を土台に。遠方へと照星を向ける。
…城壁を伝い脇へと逃れていく影を。眼差しは追い掛けて。
■ティクス > 明確な「人の気配」に対して。即座に森の中へと逃げ込むのではない、追尾を嫌い回り込む動き。
…間違い無い。人間だ。
そう把握したからこそ、返って、射撃を躊躇った。
現在は言ってみれば、嵐の前の静けさ。何時破られてもおかしくない均衡の状態。
だからこそ、自分だけの判断で、戦端を開くような真似はしたくなかった…というのが。先ず、一つ目の理由。
二つ目は、そもそもこの城塞が、王国の物であると。分かりきっているから。
相手は既に砦の造りを知り尽くしている。何処からなら忍び込めるか、何処ならば見つかりにくいか。占領中の者達よりずっと詳しいだろう。
だったら、現状再確認されているのであろう外側よりも。此方の手の内、砦の内部。其方に手を加えた方が良い。
そして。
「……分かってる。…やりすぎるの、嫌いだって…言ってた。」
最後の。そして最大の理由は…きっと。斥候なのだろう人影には、知る由もないだろうが。
今、砦を占拠している者達の頭目、かつてこの国にて、騎士団長と呼ばれた男。
その人ならば恐らく。互い本格的な準備も無いまま、徒に傷付け合い、兵力を消耗するような真似を。良しとしない筈だから。
慎重なのか。優しいのか。…ただ、この砦を、王国側を、知り尽くしているからなのか。そこまでは。一兵卒の少女に知る由も無いのだが。
ともかく。そうした幾つかの理由が有る為に。
斥候が、ぐるりと外周を巡るだけで済ますなら。…内側へと入り込む意識さえ、見せないのなら。
こちらから引き金を引く事は無いだろう。
ただ静かに。音もなく。それでも、まるで相手自身の影であるかのように。城壁の上から、絶えず視線は追い掛けてくるが。
■ティクス > やがて。長い長い外壁を、随分と大回りした辺りで。ようやく何者かは一度、動きを止めた。
恐らくは一旦。次の動きを考えているのだろう。次を予測出来ない分、細めた瞳は慎重に。気配の止まった辺りを睨める。
占拠しているのは此方側。しかし、此処は元々相手側の物。どちらにとってもホームグラウンド。
場所柄故の有利や不利に頼る事なく。じっと待っていたのなら…
「……うごいた。」
今度は、はっきり見えた。鎧姿。かなりしっかりとした造りの装備に見えたから。別口の野盗や、食うや食わずの傭兵では有り得ない。
矢張り王国軍の斥候に違いないと確信しつつも。小さく舌打ち。
万が一、強行突入でも図られると。あの装備は非常に厄介だ……全身を覆う重装甲は。そう簡単には射抜けないだろう。
自分自身に関わる理由も加味して。やはり出来れば、このまま退いて欲しい。そう考える。
「何て言ったかな。こういうのを……」
(きっと。互い動き辛いこの状況を。適切に言い表す諺などが。世の中には有るのだろう。
しかし少女は無学で、盗賊団の兵士、それ以外の事を知らず。思い付く事が出来なかった。
結局出来るのは。相手が離れるまで警戒し続ける事と。念には念を入れ、最接近してきた時の為に……射程を犠牲に威力を高めた、大型弓に持ち変える事と。
そして最後は、余計な動きが起きないようにと願う事だけだった。
この少女は。まだ理性的な方であり。少しとはいえ、かつて騎士団だった者達の影響が有るが。
昔から、根っからの盗賊達。再結集した古参の団員等が出て来たら。後先考えずに討って出てしまいかねない。
後は…同じく盗賊らしく。新たな砦の頭の命も無視して、外へと掠奪に出ている者達が。戻って来て、鉢合わせするだとか。
そういう可能性も……決して。皆無ではないだろう。
或いは、それ以外で事が動くとすれば。少女自身の方に声が掛かる事くらい。
交代を申し出る仲間が出て来るか。それとも、少女を少女として…弄ぼうという団員でも訪れるか。
■ティクス > 外壁を離れ木陰へと逃れた、鎧姿の人影は。……それきり、出て来る気配が無い。
ただし遠離っていく様子は見えないから。まだ、その近辺に。木々の影に潜んでいるのだろう。
躊躇してくれているのなら、それでも良い。何れ本格的な攻城戦が行われるのだろうが。それまで、ゴタゴタを起こさずに居てくれるなら。
わざわざ大仰な、両手で携え脚を使ってバネを引かねばならないような、城壁の下からでも充分に窺えるだろう大型の装備を引っ張り出したのも。
相手を退かせる為の示威行為、そんな一面を持っている。
正直を言えば。そんな大型弓を長時間、一点に向け構え続けるのは……非常に厳しい。筋力的にも、集中力的にも。
なので出来れば速やかに。相手には退いて貰いたいのだが。
「…余計に面倒だよね。そういうのって……」
二年前なら。何も考えず、即座に撃っていた。それが当たり前だった。
それが今ではまがりなりにも。無益な殺生は避けたいと願ってしまう。
改めて、今この場所を纏めているのが……自分に影響を与えているのが。この国の騎士だった者なのだと。内心で。
さぁ。後は、我慢比べだ。
相手が退くか。此方が折れるか。或いは、第三者の介入が有るか、だ。