2023/07/27 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道途中」にリセさんが現れました。
■リセ > 「………どう、しましょう……」
コクマーラジエル学院、課外授業で教師に引率され泊まり掛けで王都を離れた遠征が行われている、その往路のこと。
遠征とは云え、一応は貴族学級の内容なので教師だけではなく別個でしっかりと充分に精鋭な護衛が配備されて。なんなら個人で従者を連れることも自家用馬車を使用することも許可されておりかなり大人数での移動の最中。
しかし、やたらに人数が多いことも災いして、専属の従者を連れる余裕もない下級貴族の末娘が群れに逸れて途方に暮れていた。
基本的に上級貴族や目立つ生徒にばかり集中してしまう教師の目。
本来なら目立たず、従者もいない生徒に目をかけて点呼をきっちりと行うべきではあるが。
――この強い暑気のために張り詰めているばかりの教師の神経が参っていたのも要因のひとつで、親しい友人もなく存在感のない女子生徒は忘れ去られて、街道の片隅で独りきり。
街道沿いに聳える大樹の木陰にぽつりと泣きそうな顔で蹲っていた。
そこは街道でも東西にそれぞれ伸びる別れ道。どちらに行くのが正しいのか把握していない逸れ女生徒はとにかくどちらかに進むという判断もできず、動けなくなってしまって。ただただ日差しを避けて枝葉の作る涼しい木陰の下でじっと誰かが気づいて探しに来てくれるのを待つばかり。
「誰か……気づいてくれるでしょうか……そもそもいないことにすら気づかれなくて行ってしまったのに……」
今日の目的地である宿場町に着くまで、気づかれないかも知れない。
夕方、ようやく生徒がひとりいないことに気づかれても正直手遅れな可能性が高い。
そこまで、無力な女子生徒一人が山賊すら出没するという街道の真ん中で無事でいられるかどうか。
そんなことは当人にも把握できていて、不安と孤独と恐怖に押し潰されそうになりながら、場違いな制服姿で山賊街道の途中、取り敢えずは無暗に歩き回って体力を削らないようにじっと木陰で待機していた。
■リセ > 正しい道順を知っていて合流しようと歩いたとしても、普段体育の授業でしか運動しない甘やかされた貴族の足では追いつけるはずもない。
だから、待つしかできなかった。
たとえ、いつまで待っても迎えなど来ないとしても。
どんなに心細くとも。
「………わたし……ここまで、なのでしょうか……」
明るく強い日差しの下では影も濃い。枝葉の形にまだらに作られた木陰の下昏い想像を巡らせる。
水筒や救急道具など数少なく最低限の品物が詰まった小さなバッグをぎゅ…と身体の前で縋るように握りしめながら。
こんなことならもっとあれをしておけば、これをしておけば、と17年の人生に悔いを感じ、
「……お友達……欲しかったです……」
そうすれば独り置いてけぼりにもならなかったかも知れないけれど、それよりも孤独のまま道の途中で果ててしまうのが堪らない。
なんだか、どこにも辿り着けなかった一生のように思えて堪らず、蹲って両手で顔を覆う。
癖のない銀の髪が簾のように流れていた。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道途中」にパンナさんが現れました。
■パンナ > 「あー、いい湯だったぜ」
山脈の道中にある温泉宿で汗を流した帰り。
蒸し暑さで体温は未だ温まったままだが、スッキリして気分は快調。
大斧を担ぎながら鼻歌混じりに歩いて行く兎耳の女。
「…………あん??」
王都に戻って、適当に依頼を探すなり飲むなりするか……そう上機嫌で進み続けていると、
何処かから聞こえてくるか細く、悲しげな声に巨大な兎耳がぴこん と動いて反応する。
「何やってんだあのチビッ子。ブチ犯されちまうぞ」
人間と違う故の優れた聴力は、木陰で嘆く声を聞き逃さなかった。
弱弱しい、若い女の声が気になってみれば、ガサガサと草を踏んで掻き分けながら歩いて行く。
しばらく進めば、顔を覆って何やらひどく落ち込んでる様子の少女……制服らしき装いの清楚な子が視界に移る。
嘆く貴女のもとに、力強い足音と「おーい」と呑気に語り掛ける声が近づきつつある。
一際目立つ黒い兎耳をぴこぴこさせながら、貴女と打って変わって非常に陽気な声を何度も聞かせながら。
■リセ > 湯上りでさっぱりとしたとある女性冒険者。野性的でありながらかわいらしいうさぎの耳といった特徴を持つ彼女に。
街道の木陰で嘆く声が届いたとは知らず。
悲観と絶望のどん底でさめざめとしていたが。
やがて、こちらに気づいて近づいてくる足音に、反応して。
「………?」
人、動物……? 何だろうか、と覆っていた顔を上げると、
「………!!」
いよいよはっきりと傍で聞こえ始める足音と、呑気そうに響く声にそちらを向いた瞬間、びくぅ、と肩を跳ねさせ。
「ぁ……ぁ、の、あ……g…ご。機嫌、よぅ……」
てっきり群れから逸れた生徒を教師か護衛辺りが気づいて迎えに来たのかと思った目は、想像とは違う女性の姿を映して真ん丸く見開かれ。
こちらの方がよほどうさぎかネズミのような非力な小動物のごとく、ふるふると微かに震えながらも、どうにかこうにか絞り出すような小さな声で挨拶の言葉を返した。
■パンナ > 何故このような場所に学生が一人でしょぼくれていたのかは見当がつかない。
だが、こんな危険の多い場所で少女が一人でいる事自体が看過できない事態だ。
相手の素性がなんであれ、興味本位でひとまず声をかける事にした兎耳の女は、
視線の先にいる貴女がこちらに気付いたなら、「よっ」と空いた手で軽く手を振る。
そしてそのまま、震える少女に遠慮なく馴れ馴れしく隣へ腰かけ、得物の大斧を地面へズシンと
突き刺せば、にっと笑って不安そうな少女の顔を覗き込む。
「よぉ、なんかしょぼくれた顔してるな」
少女と打って変わって無遠慮で図々しい女は、肩を軽くポンポンと叩いて「ビビるなビビるな」と笑ってささやく。
全く面識がないのに距離感ゼロのままご機嫌そうに声をかける女は、そのまま道具袋から水筒を取り出し、ごくごくと水を飲みはじめた。
「こんなとこで独りぼっちは危ねぇぞ?山賊っつって山ん中で過ごしてるきったねぇ大人どもに見つかったら、
女相手でもアイツ等全く手加減なしだからなっ。……何してたかアタシに聞かせてくんね?」
この地には場違いな雰囲気を持つ少女には、この地の危険性を改めて伝えた後「飲む?」と口をつけた水筒を見せて。
■リセ > 内心、山賊街道という特殊な場所で、ミレー族?に見える女性冒険者との出会いは心臓がばくばくと早鐘を打って緊張感が漲った。
普段ほぼ接触のない業種でしかも年上で、その上ミレー?のようで、さらに云えばとても気さくで親し気だ。
基本的にどうしていいか解らないタイプのお方。
それが、自然な所作で手を振って、なんとお隣にお座り遊ばした。
大きな戦斧が置かれて座していた地面から振動が伝わると、またしてもびくんっ、と肩を跳ね上げて。
覗き込むワイルドだが美人な年上女性の笑顔に、目をぐるぐると渦巻き状にして、さらにじわりと潤ませ。
「す、すみ、すみません……わ、わたし、わた……」
しょぼくれた面の女生徒は無意味に謝罪しながら何と云っていいか解らずへどもどと口ごもって。肩を叩いて落ち着かせようとする所作を受けて、無為に警戒するのはとても無礼であると、はー。ふー。と胸に手を当てて深呼吸をして飲水する横顔を窺うように見つめ。
「さ、さ、ん、ぞ、k……
あ、あの、わ、たし……実は……学院の課外授業で……先生やクラスメイト…その護衛の方々と一緒に……遠征して来たのですが……一人で逸れてしまい……
一行に追いつくのも難しく……ただひたすら途方に暮れている、真っ最中、で……」
山賊と聴いて、危険地帯であることは判っていたが改めて念を押されて恐ろし気に身を縮めつつ。
ややたどたどしいながら現状を伝え。
勧められた水筒を、少し逡巡した後、ご厚意はありがたく頂戴せねば、と頭を下げて「いただきます」と手を差し伸べて受け取ろうと。
■パンナ > か弱さが一挙一動から滲み出る少女は相変わらず不安や緊張で堅苦しさが抜けない様子。
こんなに気弱なのに、よくこんな物騒なとこにいるものだと不思議に感じていた。
一目散に逃げだしたりせず、ひとまず口を利いてもらえたので内心はほっとしている女。
相手の心の機微には基本的に無頓着だが、何度も口ごもって言葉に迷う少女には変わらぬ笑顔で最後まで聞き続ける。
こちらのアドバイスを真剣に聞いていた様子の少女から、ゆっくりではあるが徐々に語られる内容。
学院の課外授業 と口にすれば「お?」と目を丸くし、続けて他の者と一緒に遠征に来たと語る少女の説明に
合点がいった女は「あぁ~~~」と納得した様子で大きく口を開けて間抜けな声をあげた。
「ははーん、迷子か!お前やっちまったなぁ」
与えた水を口にする少女に対してデリカシー皆無の言葉を軽く言い放つ。
少女にとっては深刻な問題なのかもしれないが、事情を聞けば何をしてやればよいのか概ね見当がついた兎耳の女。
気を付けろよ~ と茶化せば、キョロキョロ辺りを見回しながら耳をぴこぴこ動かして軽く音を探ってみる。
「どれくらい前に来たのかと、人数を覚えてる限りでいいから教えてくれ。
来てそんなに経ってないなら諦めるのは早いかもしんねぇからさ?」
集団からはぐれた不安感や責任を知らない訳ではない。
己の五感を駆使して、少女を元の集団に合流させてやれるならばと、軽く聞いてみる。
「ここに一人はマズいな。学校なら、……一緒に組む奴等とかいるだろ?」
少女が友達の存在を渇望しているとも知らず、無神経な言葉を悪気なく言い放ってしまう女だった。
■リセ > 驚いて逃げ出そうにもちょっと腰が抜け気味だったのもあるが――、そもそも存分に平和ボケした貴族階級の娘。
危害を加えるでもなくただまっとうに声をかけて来た相手に背を向けるという考え自体が欠如していて。
その上悪意どころか善意すら感じる程気さくな笑顔を向けて話を聞いてくれる女性に少しは落ち着きを取り戻し。
どうにか事情を説明して、受け取った水筒の水をゆっくり少しだけこくり、と喉に通したところで。
「っふ……」
けほっ、とやっちゃった女生徒は、相手からの情け容赦ない事実に咳き込んだ。
まったく面目ない限りです、と茶化す声にどよーんと肩を落として力なく肯き。こく、ともう一口二口補水させていただいては、ありがとうございましたと水筒の口を取り出したハンカチで丁寧に拭って蓋を閉めて返却し。
「え、と……ここで一人になって…小一時間ほどは……経ちます……人数、は……大所帯で……個人で従者や護衛を連れた生徒もいたので、何人くらいかまでは良く分からないのですが、馬車も何台か出ていて……一小隊くらいはあったかも知れません……」
時間は追いつけるか難しいところまで経過していて。
人数に至っては充分に目立つし不逞の輩が手を出しづらい一団。
解る限り説明したところで、彼女の何気ない一言が、ぐさ、と胸に突き刺さった。
「……ぃ、いま、せん……いわゆるぼっち、ですので……わたし……」
どんより、と翳が差したかのような昏い横顔で呟いた。
■パンナ > 少女の声調や表情に少しずつではあるが元気が戻ったように思えた女は終始にこやかだった。
飲みかけではあるが、水を受け取って飲む姿を見ればちょっとは不安を解けたかなと思っていたが、
己の言葉に思わず咳込むのを見て、ハハハと軽く笑った。
「ん、ちょっとは顔に元気戻ったな」
頬を指でぷに と慣れ慣れしく突けば、返される水筒を上機嫌に受け取って道具袋にしまう。
丁寧な所作から、さぞや良い育ちなのだろうかと少女の出生を想像しながら、課外授業に訪れた少女たちについて
説明を受ければ、うーん と首をかしげて一考。
さらに手がかりを得ようと、パートナーやバディの存在を問うてみたが……
返ってきた言葉は無情な現実。……女が想像していたような相手がいなかったようだ。
「あ"!!ゴメーン!!!マジで!悪気ねぇから!」
己の言葉が少女を傷つけてしまったようだ。悲哀が漂う少女の横顔に、冷や汗をかけば慌てて肩をぱしぱし叩いて
必死に詫びる。
ヤバいどうしよう 慰めるつもりが傷に塩を塗る真似をしてしまったようだ。
頭の中が真っ白になった女はしばしの沈黙の末……
「アタシがお前の相棒!パートナーだから!!友達みたいなもんだから落ち込むなって~~~!!」
雑に頭をくしゃくしゃ撫で、おーよしよしと大袈裟に抱き着いてベタベタと少女の背中やらを擦れば
勢いでそんな言葉を並べていく。
■リセ > 冒険者という方にもミレー族…みたいな方とも普段接触がないものでどういう態度でいればいいのか考えあぐねていたが、相手はそんな垣根など端からないように非常に気さくで親しみやすい。
だから、ともかく無理をせずにいよう…と心がけていたが。
「ぁ、か、顔……? あ、は、はぃっ……あの、お陰、様、で……だい、じょうぶです…っ」
頬を指でつつかれては、思わずまた目が真ん丸になったが。
慌ててぺこりと会釈をして。
気を遣わせていただろうかと感じるとやや下がり眉ながらも笑みに表情を形作って見せ。
彼女が何の悪気もなく口にした言葉は抉り込むようにぼっちの心に刺さったが。
悪いのは友人の一人も作れない雑魚コミュ力にある……つまり自分のせいと反省したように項垂れ。
「い、いえ……いい、んです……もう学院生活の途中で孤高のぼっち街道をひた走る覚悟は……できていましたので……」
なんだか訳の分からない自論を口にするが、しかし、悲観に沈んだ表情はなかなか戻らない。
肩を叩く掌に、大層力ない笑みで応じて、大丈夫です…と全く大丈夫じゃない口調で。
「えっ……? え、あ、あ、の…? あいぼぅ…? パー……トナー……お、友達、みたい、な……??」
きょとんとした顔で髪を混ぜるように褐色の手でされるがまま撫でられ、さらに抱擁を受けて幼子にするかのように背を擦って慰めてもらえばぱちぱちと何度も瞬きをし。
抱擁の体勢は彼女の豊満な肢体を真っ向から感じられて、お胸が、お胸が、と豊胸の弾力に目を回すも。
「……っ、ふふ……お優しいん、ですね……ありがとうございます、元気、でました」
元気づけてくれようとしているのは充分に感じられて、嬉しそうに、今度は自然な笑みを浮かべて腕の中で見上げるように、にこりと。
■パンナ > 不安や孤独感に理解がないワケではない。
全部を理解してやれる程察しがよい女ではなかったが、せいぜい「取り残さない」ぐらいが最善の優しさか。
間近で一方的に声をかけてみれば、それなりに返事は返してくれる少女に若干の手ごたえを感じる女だった。
「アタシが見つけた時のお前、何するか分かんないぐらいすげぇ雰囲気だったからな。
よーしよし、お前そういう顔してる方がよっぽど似合ってるぞ!」
ようやく、ぎこちないながらも笑顔を見る事が出来た。
……少なくとも、全てに絶望しきった見ていられないあの姿に比べればずっと晴れ晴れしている。
だが、一時のその笑顔を自らの言葉が再び悲しみへ突き落す結果になってしまうのはなんと無情な話か。
この女は元来、他人との距離を特に意識せず一緒に冒険したり何かを共有すればとりあえず遠慮せず
距離を詰める性分だ。わざわざ他と距離を詰められない事に悩んだ事もなく、本質的なところでは
少女の苦しみを何ら分かってやれないタイプだった。
「だろ~?そういう事だから、んな悲しい事言うもんじゃないぜ!
アタシ、学校行ってねーからお前の普段の事よく分かんねーけど」
ぎゅー と馴れ馴れしく少女を抱えたまま、はつらつとした笑顔を向ける。
友達 と呼ぶにはちょっと性急かもしれないが、ゼロでなくなるだけできっと大きな救いになるだろうと確信して。
勢いで言った言葉だが、少女の心には響いたようで、今度こそ本心で作られたであろう穏やかな笑顔に更なる喜びを見せる女。
見せた笑顔の愛らしさに、よーしよしと調子に乗って人形を愛でるように頭を懲りずに撫で続けるが、ふと我に返り
「あ、いっけね。課外授業がどうこうって話だったよな。
合流きつそうなら、山降りて王都に帰るか?冒険者目指してるなら、アタシが色々教えてやるぜ?
ホントの冒険者になったら授業通りの事なんてほとんど無いからな!」
冒険者ギルドなら、学院との提携もよく行っている。
事情を知れば悪いようには扱わないだろう。
戻ったとして、一人きりで居心地に難があるならいっそ王都の冒険者ギルドまで保護の名目で連れて帰ってやった方が良いのではと考えて。
■リセ > 道端で出くわしただけの相手なのに、随分と親切に接してくれる大人の冒険者がなんだか眩しく映った。
強くて優しい、と憧憬にも似た感情を眸に宿して見つめ。
しかし、何するか分かんないすげぇ雰囲気……とは、とその言葉に思わず真顔になり。
「え……わ、わたし……ひょっとして、やばい人、みたいでした……? さ、サイコパス的な……? それとも自殺志願者的な……?」
ぎこちない笑顔が一層ぎこちなさを増した。
思ったより他者の目にやばそ気に見えていたらしいと思い知ってどういう顔をすればいいのか見失った。
もともとの性分が余りにも違い過ぎる二人。
気にしいな性質なのか、だから友人ができないというのか。踏み込んだ一言に落ち込んで……る暇もなく、うじうじとした空気を晴らすように抱擁で慰めてくれたり言葉をかけてくれるうさ耳冒険者に、
「そ……ですね、今は元気づけて下さる方がいらっしゃるので、大丈夫です。……普段の学院生活のことは……忘れます……」
優しくしていただくと心の雲が晴れるようで。まるで太陽のような快活な笑顔をやはり、眩しいもののように見つめ。
おずおずと、伸ばした生っ白い手はぎゅ……と相手の背に回って抱擁を返し。
たとえ、今この場を凌ぐための発言だったとしても、相棒とかパートナーとか友達とか、そんな風に云ってもらえることは励みになって。
そのまま頭を撫で続けてくれる褐色の手に、擽ったそうな、幼子のような笑気をくすくすと漏らし。
「あ……そぅ、ですね……あの、そちらは王都にお戻りになる途中、なのでしょうか?
でしたら、ご同行させていただければ……。
ぼ、冒険者、ですか…ご教授願えるとのお言葉……ありがとうございます。で、でも…ぼ、冒険、者……になるのは難しい、のですが……」
何分戦闘能力は皆無。唯一使えそうな点は魔力を一切合切弾いてしまう体質だけれど、魔法が発動されない限りは無価値であるし、逆に有益な魔法も効かないので使い勝手は大変に悪い。
荒っぽい職業は生来向いてなさそうな女生徒であったが、冒険者の生活を見学するのは後学のためにはなりそうだし、興味もある。同行を許可していただけるなら甘えようと判断し。
「あ…申し遅れました、わたしは、リセアリアと申します。リセ、とお呼びください」
改めて名乗ると深々と頭を下げた。
■パンナ > 「サイコ……うーん?いや、そんな感じはしねーけど、自殺志願……そこまではいかねぇけど……んん??」
冒険者の中には本物の異常者だっている。それに比べ目の前の少女はと言えばなんと可愛らしいことか。
他人に害を与えるなど極めて難しそうに思える程……。
だが、希望を失った者は思いもよらぬ行動に出る事も多い。
首をかしげながら考える女だったが、自分で言っておきながら具体的な喩えが見つからない。
「今のお前は全然大丈夫だから、まぁ気にすんな!」
元気の戻った少女にとっては少し前までの話だからと、無理やり忘れさせようと笑い飛ばす。
話してみれば、思いのほか心根は暗いワケでもなさそうだ。
気が付けば、己の背にそっと少女の手の感触が与えられる事に気付けば、「おっ」と嬉しそうに声が出る。
「な!!大丈夫だもんなっ!」
己を抱き返す少女には、その意気だと言わんばかりにぽんぽんと優しく背中を掌で軽くたたいて。
流石に己ほどの積極性はなかったにせよ、抱き合えるほどに打ち解けたなら心底嬉しそうに豪快な笑顔と共に何度も相槌を打った。
「そうそう、この辺りには温泉宿があってさ。そこでひとっ風呂した帰り。
気になるなら連れてってもいいけど……夜はもーっと物騒だからな??」
なんてな とウィンクを飛ばして、くすくす笑う少女にはもう一度ほっぺをつついてからかった。
可愛らしい少女なので、女ながらに妙な気も起こらない訳ではなかったが……己の身体を見ればきっと驚くだろうから冗談に留めておいた。
冒険者は難しそう と告げる少女には、あちゃ~ と苦笑いしながら顔を手で覆う女だった。ザンネン!
「リセ!よろしくな~~!!アタシはパンナって言うんだぜ。
冒険者は無理でも、困ったり会いたくなれば冒険者ギルドに顔寄越してみな!アタシがいるかもしれねぇし、
いなくてもお前の伝言聞いたらすっ飛んで行ってやるからよっ♪」
軽快なノリで、名乗られた名を口にして自らも”パートナー”に名を伝える。
しばし抱き合ってたが、少女の両肩を掴んで、よいしょっと立ち上がれば「歩けるか?」と気にかけて。
得物の大斧も担いでいく為、もしも少女の脚力が限界なら肩へ担ぐ大胆な連れ方になってしまうのだが。
それはそれで、冒険者の荒々しさを垣間見るには丁度よい体験になるだろう―――
■リセ > 「で、では、……捨て鉢、でしょうか……?」
我ながら心境的にはそんなところで。
小首を傾げつつ、一体どんな風に見えていたのやらと頭が痛くなるようだったが。
そんな気分もやはり払拭してくれるような目の前の明るく生命力に満ちた女性に、マイナスな思考は追いやられ。
「はい、だいじょぶ、です。なんだか、お話ししていると悩みが吹き飛ぶようですよ」
気にしないようにと云ってくれる言葉に、ほわ、と和むような笑みを浮かべて大きく肯いて。
この女性冒険者の前では暗くなっているのがもったいなくも思えては、懐いたようにきゅ、と抱擁して。
「ええ、もうすっかり、元気、ですよ。……なんだか本当のお姉さまみたいな方ですね」
泣く子も笑うとはこのことかも知れない。優しい姉のように接してくれる彼女に背を優しく叩かれて、さっぱりとしてて真っ直ぐな気性に憧れるように赤い瞳を目を細くして見つめ。
「温泉……あ、なんだか石鹸のいい匂いがすると思いました……
物騒、ですか……甚だ自信はありませんが……ご一緒してくださるなら大丈夫な気もします」
頬をつつく指にやはり擽った気に肩を揺らし。物騒の意味をはき違えて理解したのか不逞の輩は容易く追っ払ってくれそうな頼りがいのある冒険者を見上げて。
「パンナさん。こちらこそ、よろしくお願いしますね。
いいん、ですか……? じゃ、じゃあ……お訪ね、してみます、ね……ゆ、勇気が出た時に……」
荒くれた方が多いという冒険者ギルドの敷居を跨ぐのはコミュ障ぼっちには相応に勇気と度胸が要りそうで、簡単には訪問できそうにないが、飛んできてくれるという言葉には嬉しそうに、「はい…っ」と大きく首肯して。
立ち上がる彼女の重みを両肩で感じながら視線で鷹揚にそちらを仰ぎ、こくり、と首を縦にして手にしていた小さな鞄を背負うと立ち上がって、歩き出すけれど。
滅茶苦茶歩調は遅いし、すぐに限界を迎えて歩けなくなる為、肩に担ぎあげていただいて運ばれるようにお連れいただくことになったやも知れない。
そんな運ばれ方をしたのは勿論生まれて初めてだったので目を白黒させていたが、人生経験のひとつにはなったはずで。
優しく頼もしい上に美人な同行者のお陰で無事に王都まで帰還することが叶ったことであろう。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道途中」からパンナさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道途中」からリセさんが去りました。