2023/06/02 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にセリカさんが現れました。
セリカ > ――――――街道を真正直に辿るのは、どう考えても得策ではない。

その程度の判断は、情交の名残が燻る頭でも可能だった。
だから、態と踏み固められた道を避け、草叢を掻き分け進んでいる。
然程方角は狂っていない筈、街道にさえ出られれば、あとはもう。
昼の日差しを避け、宵闇に紛れ、少しずつ少しずつ辿ってゆけば―――いずれは、街に。

初めはもっと、楽な旅を志していたのだ。
王都へ向かうといった己に、偶然、俺も今日発つから、と言ってきた男の顔。
あのにやけた顔を、好色な眼差しを、安易に信じた訳では無かったのだが。
途中、何度か躰を求められる事ぐらい、覚悟していたから―――――しかし。

『あの女、アンタの奴隷なのかい?』

気を失うまで玩ばれて、夢うつつに聞いた会話。
宿の主と思しき男と、仮初めの連れとなった男との。
問われた男は笑っていた。そして、こう言ったのだ。

『いや、取り敢えずバフート辺りまではな。
 そこまで行く間にたっぷり楽しんだら、適当に金に換えてやるさ』




―――――金に換えられてやる義理は無い。
だから、女は逃げ出した。
したたか酔って、良い気分で寝転がる男をおいて、
薄汚れたマントを一枚失敬し、素足をいためる覚悟で。
とにかく、どんなに時間をかけても、王都へ戻れれば良いのだ。
そればかりを考えて、訥々と足を動かしていた。

セリカ > ぽつ、――――――…

ふと、鼻先に落ちる雫。
軽く双眸を瞬かせ、枝間から覗く空を仰ぎ見る。

困ったことに、天候が崩れ始めているようだ。
けれど、ポジティブに考えるなら、追手がかかりにくくなるということだ。
痛む足を叱咤するよう、ぶん、と頭をひと振りして、再び歩き始めた。
旅慣れているとは言えない女の足、しかも履物も無い。
無事逃げ果せるかどうかは、あまり分の良くない賭けだが、
足を止めるつもりは、さらさら無かった――――――。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からセリカさんが去りました。