2023/05/09 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にラディエルさんが現れました。
ラディエル > 名は体を表す、とは、よく言ったものだと思う。
それが正式な名称なのか、単なる通り名なのかは知らないが、
こうして今も目の前に、その名を思い出さずにいられない光景が広がっているのだから。

街道を半ばほども塞いで、横倒しになった馬車。
散乱する積み荷の残骸、複数の乱れた靴跡。
半開きになり、蝶番の取れかけた扉の辺りから、
何かがずるずると引き摺られていったような痕跡。
埃じみた匂いの中に、微かに混じる金臭さ。

「―――――…そんなに、時間、経ってないかな」

ひとり街道を辿る途中、偶然そんな場面に行き会って、暫し、立ち尽くした後。
小首を傾げて独りごち、目深にしていたフードを跳ね退けながら、片目をすっと細めて。
くしゃ、と片手で前髪を掻き上げ、溜め息交じりに、一応確かめておくか、と。

「おーい…… 誰か、生きてるか……?」

望み薄だと思いつつ、取り敢えず、行きがかり上。
そんな台詞を投げかけながら、ゆっくりと馬車の残骸へ近づいてゆく。
声が、あるいは物音が返ってくるなら、まあ、応急手当ぐらいはしてやろうと思う。
もちろん、残っているのが無辜の民、哀れな被害者であると決まったものでも無いだろうが―――。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にクロスさんが現れました。
クロス > (横倒しになった馬車の中で頭から血を流し、積み荷の中に紛れて倒れる男の姿があった。
少しづつ回復する思考をフルに使い、何が起こったのか思い返す。

数時間前のこと、ギルドで依頼を受けて山賊街道を馬車に揺られながら訪れていた。
もう少しで目的地という所で襲撃に合い、対処しようとも不意を突かれてしまいリンチされる。
そして、今はその跡地となっていた。)

「・・・。」

(そう思い返しながらも大きな体をごそごそと動かし、脱出しようとする。
何とか腕に当たる積み荷を軽々しくどかし、大きな音を立てて馬車の中から姿を現す。
フラフラとした歩きで外を歩き、流血させて、近くにいる者を見つける。)

「…誰だ…?これ以上、奪うなら…ころ、す…ぞ…。」

(暴行を食らった怪我のせいで片眼が腫れており、視界がぼやけていた。
最低限の威嚇をすればそのまま、前へその巨体を崩して倒れてしまう。)

ラディエル > ―――――ガタ、ゴト。

「……お?」

反応など返ってこない、とほとんど確信していたから、思わず小さな声が出た。
ついでに、近寄ろうとしていた足は止まってしまう。
軽く瞠目した双眸を、二度、三度と瞬かせる間に、物音は大きくなり、
なにやら黒くて大きなものが、馬車の中から姿を見せた。

一見して、襲った側の人間ではない。
まずもって傷だらけであるし、消耗しているようでもあるし、
―――――しかし。

「………いやいやいや。
 いきなり『殺す』とか言われても困るっつの」

襲われたばかりの者にしてみれば、至極真っ当な反応なのかも知れないが、
言われたこちらはついつい、半目にもなるというものだ。
溜め息交じりにぼやきつつも、大股に男の方へ歩み寄る。
前のめりに倒れ込むその長躯を、辛うじて地面と激突する寸前に受け止めたけれど、
さほど膂力に自信の無い身は、抱えた男の身体ごと、その場へ膝をつく羽目に。

「おい、こら、まだ寝るな。
 ほかに仲間は居るのか、それとも、ひとり旅か?」

取り敢えず、一番目立つ傷の辺りへ。
男の目許へ右手を翳し、痛々しく腫れあがったそこの様子を、至近距離で覗き込もうと顔を近づけた。

クロス > (向かっている時には甲冑を身に着けていたが、今は私服のYシャツにズボンの姿だ。
黒い長髪に黒い服装、傷だらけの魔物に一瞬見えるが、耳と尻尾によりミレーであることがすぐにわかるような姿であった。)

「ぅ、ん…。」

(倒れる寸前に受け止められるが、高身長と体重が合わさって些か思く感じるだろう。
息切れしている呼吸を整えるようにしながら、まだ傷が少ない片眼で受け止めた相手を見る。)

「…へぇ…地獄に仏ってのは…このことか…。」

(ぼそりと呟きながら近寄る顔を見る。
まだぼやけているせいか、その綺麗な顔を見て、女性と思い込んでの言葉だろう。
貧民地区で育ち、欲望に忠実ならその言葉も裏のある言葉になるだろう。)

「…俺一人だ…。
ギルドの依頼でここに来たが…襲撃に会ってな…。」

(荒れた荷馬車の後を見ればそう語る。
いくら対面に強かったしても、不意打ちを食らえばすぐに負ける。
ここにきて、自分の弱点が響いてしまったのだった。)

ラディエル > 犬科の獣を思わせる耳が、黒髪の間から覗いている。
抱き止めてから気づいたけれど、どうやら尾まであるようだ。
成る程、これがミレー族というものか、と、頭の片隅で納得しつつ、

「仏、になれるかどうかは、お前さんの運次第だな。
 まあ、見たとこ随分頑丈そうだし、歩けてたってことは骨も……、」

相手がこちらを女だと思っているかどうかなど、さすがに知る由も無い。
ただ、己の能力が、目の前の男を『魔』に属するものではない、と伝えていたから、
己としては、これは純然たる人助けになる、と信じて手を差し伸べるばかりだ。

「そうか、そりゃまた、災難だったな。
 この有り様じゃ、今回の仕事は失敗だ、と報告しなきゃならないだろう。
 けどまあ、死ななきゃ次の機会もあることだしな」

見たところ、積み荷は無事とは言い難い。
可哀想だが男の『仕事』は、今回、ものの見事に失敗したと言わざるをえまい。
しかし、たったひとつの命を失わずに済んだのだから、それで良しとするべきだろう、などと、
淡とした口調で告げながら―――取り敢えず、僧衣の袖口を使って、
男の顔を汚している血を、そっと拭ってやろうかと。

―――顔はともかく、声はさほど高くない。むっちりと柔らかな感触も無い。
男が勘違いに気づくのも、そう遠い先の話でも無いだろう。

クロス > 「ん…。あぁ、肉は痛てぇが…曲げても、骨は痛くねぇ…。」

(日ごろの鍛えのお陰で周りからの暴行を何とか防ぐことに成功したようであり、歩く程度ならば平気だった。
ただ、出血のせいで若干貧血気味であるため、支えがあれば歩けるほどだ。)

「別に…依頼が失敗しようがどうてことはねぇ…。
どうせ、安酒のための仕事だ…気にすることはねぇよ…。」

(人命や土地の貢献で行った依頼ではなく、ただその日の夜に飲む酒のための働きであり、依頼の達成や失敗は深く考えなかった。
ただ、酒が飲めないことについては少々ガッカリ物ではあった。)

(顔を吹かれるとしっかりとその顔が露わになる。
鋭い目つきに無表情な顔、威圧的にあるその顔は普通の人だが、どこか獣の風格を持っている表情をしていた。
血がなくなり、その顔がはっきりと見える時に若干眉間にしわを寄せる。
声や触った体つきで何となくは察するが、今は追及しても仕方ないとした。)

「…ここを少し下っていけば、宿がある…。
悪いが、そこまで連れてってくれねぇか…?」

(九頭龍山脈では山賊や野生の動物、時折来る魔族への対処として冒険者のために宿が作られていた。
休息や観察のためであり、出発前に訪れたため、顔だけで一泊させてもらえるだろう。)

ラディエル > 男の自己申告の真偽を確かめるべく、抱き支えた左の手が滑る。
肩から腕へ、腰から腿へと、腫れ具合やら、出血箇所やらを探るように。
顔から血の痕を拭っていけば、男本来の顔色も窺えて―――――貧血気味か、と、独白めいてひと言洩らし。

「骨までイカレたんでなきゃ、また、すぐ働けるだろう。
 まあ、二、三日は養生しなきゃならないと思うが、……ああ、でも。
 ミレーってのは、傷の治りも早いんだっけ?」

その種族に対する偏見も無い代わり、彼らに関する知識もおぼろだ。
軽口を叩く間にも、さり気無く動く掌が、男の傷の具合をチェックし終えていた。
間近に寄せていた顏に、一瞬だけ、気やすい微笑を浮かべてみせ、

「宿まで連れて行くのは構わないし、なんならお前さんが無事起きられるまで、
 宿代と飯代をおごってやるぐらい、してやってもいいけどな。
 少なくともこの顔の腫れが引くまでぐらい、酒はやめといたほうが良いぞ」

出血があるうちはもちろんのこと、養生している間はやはり、不摂生は避けるべきだろう。
些か説教臭い口調にもなったが、怪我人をあまり鞭打つのも憚られる。
助けがあれば歩ける、というのなら、素直に肩を貸してやろうか、と腰を浮かせて。

クロス > (左手で体を触られる。
所々に衣類の下には何か所か青あざが出来ており、小さな大となっていた。
触れられると思わず体を跳ねて反応させ、眉間に皺を寄せる。)

「…さぁな…。周りからミレーと言われていただけだし、俺もそこまで詳しくわねぇ…。
貧民地区の乱交生まれのガキが…そんなこと知ることもできねぇよ…。」

(素性は話さなかったが親父は確かに獣人であり、何人もの女を相手にしていた。
その中で生まれ自分に教養などなく、そういった知識はなかった。
気安い微笑みとは真逆にこちらは少々不機嫌な顔をしていた。)

「…縋れるもんには縋るさ…。
こんなんじゃ、依頼もまともに行くことができねぇし…。
…酒を飲めねぇのはめんどくせぇしな…。」

(相手からの説教臭いことを言われるもそのことは受け入れることに。
いくら経験を積んでいたとしても負傷状態ではいずれ負ける。
それに、最後の一言がかなり突き刺さったためか手を借りることにした。
腰を浮かせればこちらも立ち上がり、背中を丸めて腕を持ちやすいようにする。
体が痛むが、それでも面倒を見られるのならば十分である。)

ラディエル > 触れる手つきは淡々として、色や思惑とは無縁のもの。
既に痣が出来ているのか、熱っぽく感じられる辺りに触れたとき、
男が顔を顰めたり、身を跳ねさせたりすれば、その都度『済まん』と呟いたけれど、
ひと通り、確認し尽くすまでは止めること無く。

「ふぅん?
 ……ま、自分の生まれだとか素性だとか、
 自分で『そう』だってハッキリ知ってる奴なんか、
 そうそう居ないんじゃないのかね」

低く、微かな笑み交じりに。
語られぬのであれば詮索もしないが、少なくとも己は、
相手がミレーであろうが別のモノであろうが、今更支えた手を引いたりはしないつもりだ。
己よりも上背があり、恐らく体重もあるだろう相手の身体を片腕で支え、
伸ばされた腕を肩へ担ぐ形にして、何とか体勢を整えると。

「そうだそうだ、縋れるものには縋っとけ。
 ラッキーだったな、今日の俺は結構な金持ちだ。
 酒は無理だが、今晩の飯ぐらい、宿で最高のものをおごってやれるぞ。
 この辺りだと、美味いのはやっぱり肉かな?」

相手が難しい顔をしていようと、痛みを堪えて表情を曇らせていようと、
こちらは半ば意図的に、軽く、明るく話しかける。
この場で己に出来ることなど、せいぜい軽口で、相手の気を紛らしてやる程度のことだ。
支えはするが、自力で歩いてもらわなければ、宿まで運んでやるのは無理であるし、
―――まさか見ず知らずの男に、いきなり、多分治ると思うので、
ちょっと、その傷舐めさせてくれますか、とは言えない。

クロス > (一通り確認されるまで止まらない手の動き。
何度も痣を触られたせいで反応し、思わず脂汗が少し出始める。
やっと終われば、気持ちを整えるような呼吸を繰り返す。)

「そういうのは証明になるだろうさ…。
現に貴族なんかはそういった生まれを理解して、ハッキリ知れば胸を張って生きれるんだろうしよ…?」

(皮肉じみた言い方をした。
自分よりも格上の存在ともいえる貴族、その相手に対していい思いをするはずもなく、口はわかりやすくへの字をするように口角が下がる。
相手に支えられれば体重はかけずに自分の足でもバランスを整えて歩き出すことに)

「…スラムの馬鹿舌なんかに良いもの食わせんな…。
とりあえず、魚を食わせろ…。」

(口を開けて舌を出す。
口内の作りも犬に似ており、歯は鋭い犬歯、舌も先が広い形をしていた。
最高のものを奢ってやると言う善意をブラックジョークで返したのだ。
軽口を言われ、返答をするような道中になるだろうが、話していれば時間は過ぎて宿にも到着する。
依頼に失敗し負傷したと店主に話せばそのまま通してもらい、部屋へ入ることができ、しばらくは運んでくれた相手から面倒を見てもらうことになるだろう。)

ラディエル > 触れるだけで痛むところがこれだけあるのなら、一歩、あしを踏み出すのも大変だろう。
己が屈強な男でないことを、取り敢えず、心のうちで詫びておこうか。

「……はは、お貴族様には馴染みが無いなあ。
 あのあたりの方々がナニ考えて生きてるかなんて、
 俺にはわからないし、知りたいと思ったことも無いねぇ」

相手の傷に少しでも障らぬよう、ゆっくりと歩き出しながら。
根無し草という意味では相手と大差の無い身、笑って首を竦めるばかり。
馬鹿舌だなどと言うわりに、この山の中で魚を所望する男の顔を、
わざとらしく目を見開いて見つめ返し――――ふは、と軽く吹き出して、

「この上背、この重さで、魚とかほざきやがるかね。
 いや、まあ、そっちのほうが好きだって言うなら構わないが、
 ……俺ならこんな山の中で、魚、食べたいとは思わないかなぁ」

川魚なら美味いものもあるだろうか、いや、しかし。
文字通り、失った血肉になるのは肉のほうではなかろうか、などと考えつつ、
主に己の膂力不足により、よたよたとした道行きは続く。
あるいは宿に着くまでに、通り名程度は教え合う暇もあっただろうか。
日暮れ間近に辿り着いた宿で、相手を放り出そうと思えば可能だったが、
約束通り、払いは全て己に、と、宿の主に話をつけて。
幾許かの先払いも済ませ、道具を借りて傷の手当てぐらいは、てきぱきしてのけることだろう。
男の手もとが不如意であるなら、王都に戻るまでのかかりについても、
気前よく渡しもした筈で―――――。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からラディエルさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からクロスさんが去りました。