2022/02/19 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にカーレルさんが現れました。
カーレル > 山道の脇の吹き溜まりには降雪の跡が残り、空気はこの世の終わりみたいに冷たく肌を刺す
街道から少し入った山道で不意に脇から現れた人影と見つめ合うことしばし
その瞳に生気はなく頬は既にげっそりと削げ言葉にならぬうめき声を繰り返すばかりである
毛髪の一部も抜け落ち、見るに手の指も幾らか欠損しており長さがチグハグであった
その人影が此方に気がついた迫ってくるが、ゆっくりと後ずさるだけで互いの距離は一向に縮まらない
自分も仕事柄、魔物に行き合う事は度々あったが、生ける屍(リビングデッド)は初見であった
…初見であったからこそ、ついつい、見入ってしまった。何となく、
昔、子供の頃に見た旅芸人が披露した糸で吊られた人形の寸劇を思い起こした
操り人形もこれほど、不出来な見た目ではなかったけれど

「…冒険者か…いや、遭難か?
 もう、衣服がボロボロで元が何だったかなんて判らねえな…」

自分が聖職者か何かであったらばその彷徨える魂を解き放ってやることも出来たであろうが、
こちとらただのしがないなんでも屋である。なんでも屋であれば、と思われるかもしれないが、
信仰心であったりとか、休息日に教会に出向くような敬虔さはとっくの昔に品切れ状態である

何かに躓きでもしたか、ぐらり、と揺れた屍の身体が場たりと倒れて吹き溜まりに
溜まった汚れた雪に突っ込み倒れた。ドサドサと樹の上に溜まっていた雪に埋もれて足掻いている
何やら物悲しい光景であったからか、尽きかけていたはずの善意の泉に
一雫程の善意がジワリと滲んできたような、そんな気がしないでもなかった

カーレル > 「…とりあえず、火葬で良いか…」

ベルトのポーチから油と可燃性の鉱物の粉末を混ぜた燃焼剤を取り出す
錬金術師に作ってもらったものであるのだが、これが結構する…どんな環境でも火を付けることが出来る!
…と錬金術師は言っていた、普通に良い酒、良い食事をしてお釣りが来る程度には値段が張る
今回、山中で行方知れずになった冒険者一行を探しに行く仕事であったから持ってきたが、
恐らくくたばっているであろう冒険者たちより先に縁もゆかりも無い生ける屍に使うとは
思いもよらぬことであったが…効果を試しておくのも良いだろう、と言い聞かせる

「通りかかったのが僧侶だの司祭だのじゃなかったのが、運の尽きだな…
 いや、死んじまっちゃあ、運も何もないか…」

雪の下であがく屍がようやく雪の中から這い出てくる
相変わらず囁くような唸り声とヒューヒューと肺病でも患ったような呼吸音だけを繰り返している
ひょい、と燃焼剤の満たされた瓶を投げつければ、雪と泥と燃焼剤とで屍は汚れていく
それでも立ち上がろうと足掻く姿はやはり物悲しい…余程の未練があったのかもしれない

「いやはや、あんたはよくやった
 もう楽になっても誰も怒りゃしないって…」

語りかけながら懐から取り出した煙草を咥え、火を付けた
す、と一度きり深く吸い込み、しっかりと煙草の先に火を灯せば、
指で弾くように未だに藻掻く屍に投げてやる
炎に包まれた屍は初めのうち、やはり藻掻いていたが、やがて動かなくなり燃え続けた

しばらく待ち、燃えカスの中から小さな骨片を拾い上げればポケットにしまい込みその場を離れる
未だ、行方知れずの冒険者一行を見つけることは出来ていない

「…あーなっとるとは、限らんがあと何回か似たような事、
 せにゃならんのかもしれないのか…」

暗澹たる気持ちになりかけたが、報酬の事を思いつつ未だ雪の残る山中深くに踏み込んでいくのであった―――

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からカーレルさんが去りました。