2021/08/16 のログ
ジギィ > 「!っゎ…」

びりびりびり、と文字通り空気を震わせた声は、樹々に溜まった雫もざあっと音立てて落ちる程だった。流石に遠ざかる隊にも届いたそれで、また何人かが足を滑らせる。

『―――…』

隊長が足を止めたらしい、進行がまた止んで、ざわざわと隊に動揺が走る。
…掛けられた誘いに侮辱を感じたものは隊長へと進行を続けるように声を上げ、他のものは迷い……
結果

「――えぇ?わたしぃ?」

女エルフの頓狂な声が上がる。
曰く
ああいう事を言う輩は女に対して殊更親切であろうと。
付け加えて、何かあった際の逃げ足も兼ね備えているのは、恐らく女エルフであろうと。

せめて同行者を付けてくれ、と言ったが断わられた。
この状態の中、まだ身軽に動けるものは貴重な戦力だ。

「ひっど……」

ぶうぶう言いながら、女エルフは湯煙に向かう。
ひょいひょいと岩を伝って、繁みを抜けて
最早潜む理由も無いので、赤黒い姿の人物とは、正面きって向かい合うことになろうか。

「あー…ん、えっと。はじめまして?
……お湯借りていいって、本当?」

相手の姿からすると、隊に居る誰もが万全の調子の時でさえ張り合うことはできないだろう。
それを視線でしっかり確認しつつ、いちおうゴマすりのつもりで、言葉の跡に両手を合わせて頬に当てて、ぶりっこポーズ。
相手がもし不意に突進して来たら逃げられるように、抜け目なく樹々の配置は記憶済みだ…

カザン > 声を上げた後、腕を組んで鬼は待つ
じ、と木々を透かすように隊を観察すれば、なにやら戸惑っている様子が見て取れ

「ふむ?迷うか。しっかりしとるなァ」

短絡的な隊なら、撤退を続けるかこちらに全員で来るか、という一辺倒な対応しかできないだろう
疲弊していても、複数の案を検討できるというのは中々根性があるように見えた
そうして、少しすると岩肌を登ってくるエルフの姿が確認できた
近づくにつれ、温泉独特の香りも強くなってくるだろう

鬼から見れば…エルフもまた身のこなしと間の取り方が良く、例え攻撃したとしても初撃は確実に躱されるであろう距離と運動能力と思えた
ただ、鬼の目的は相手を害することではない
あの人数の人間が森で死ねば面倒、かつ、助けられるなら助けた方がいいと思ったからだ
それ故に、エルフと相対する鬼の表情は精一杯柔らかい
それでも、その巨躯と筋肉は警戒されるだろうが、それはもう仕方ない

「応。はじめまして、だ。
ははは、緊張するな、と言っても無理だろうが…聞いたとおりだ
何人かずつしか入れんが、好きに使え。どうせ俺は他にも温泉を見つけているのでな」

別にここを使われても困らないことを示しつつ、笑いかけよう
本当なら勇敢な斥候を撫でるなどして労いたいところだが、今は余計に怖がらせるだけかと思いとどまり

「ああ、そうだ。俺はカザン。この鬼に住む鬼だ。勇気ある優秀なエルフ。お前の名は?」

一先ずは、友好を示すなら自身の名を示すことだろうと名を告げる
エルフから近寄らない限り鬼から近寄りはせず、ただ自然体で立ったまま話しをしようとしていて

ジギィ > 相手が精一杯友好にしようとしている雰囲気は伝わって来る。それも、何か裏があるわけでもなしに、だ。
女エルフは念のためぶりっ子ポーズを続けようか一瞬迷って、己の尊厳のために止めることにする。
その代わりに、こちらも敵意が無い事を示すように肩を竦めて両手を上げて見せて

「そりゃ緊張するよ…見たことないもの、アナタみたいなヒト。
 ありがとう、カザン。
 勇気あるっていうか、貧乏くじだけど…私は『ジギィ』って呼んで」

あはは、と屈託なく笑うと隊列の方へ振り返って大きく手を振って見せる。
やがて、隊列も聊か鈍い足取りではあるが此方へと近付いて来る。
一等先に辿り着いた隊長―――赤黒いよりは流石に小柄だが、ヒトとしてはかなり大柄なほうの男が進み出て、招いてくれた彼に礼を告げるだろう。
彼を眼にした他の隊員には少なからず動揺が走るが、それよりも温泉の香りと、それが彷彿とさせる安らぎには敵わなかったようで
隊長の指示のもと、幾人かが温泉に浸かろうと服を脱ぎ始めるだろう。
みたところ、男女半々、といったところか。
今この現場に恥じらいを持つものも求める者もいないらしく、淡々と湯に浸かっては安堵の吐息を漏らしている。

「――――…」

さて、貧乏くじを引いた女エルフは元気な方の類なので、当然温泉にありつけていない。大きな樹の下で幹に来よりかかり、落ちる雫を物憂げに見ていたけれど
ふと招いてくれた主のほうへと、木陰の下雨の雫を器用に避けてひょいひょい近付いて行く。

「ねえ、邪魔しちゃった?」

ちゃんと相手に興味のある声音で、異様の彼に話しかけてみよう。

カザン > ぶりっこポーズを馬鹿にすることもまたしない
それが、精一杯エルフの生存確率を上げようとするポーズだと察したからだ

「お前の足なら逃げる事も出来たろう。ああ、だが人間はそれを良しとしないか
…ジギィか。覚えておこう」

そう言った後は、やはりその場から動かずに隊の者たちが来るのを待っている
隊長が礼を告げた時には「良い良い」などと軽く流して気安くひらひらと手を振る
余計な警戒を抱かせないため、あまり視線も動かさず、ある種彫像のように佇んでいて

ただ、温泉の側から聞こえてくる吐息に鬼の口角が穏やかに上がる
脱衣所などは無いが、少し熱い湯は隊員の冷えた体を癒していくことだろう

そうして、休息が終わるまでは呆けておくか…などと考えていた鬼だったが
エルフが近寄ってくれば、そちらに視線を向けてまた笑う
鬼の身体は雨雫に撃たれているが、熱い筋肉の身体は冷めることなく熱量を放っていて

「ん?ジギィか。
ははは、邪魔なら招いてなどおらん。
こうしてジギィらのような者と交流するのも、楽しみの一つだからな
同じような事をしても、逃げられることが多いのが困りどころだが。
…ところで、ジギィらは、何故このような天候の時に行軍していた?余程の大事か?」

か、か、か、と大きく大袈裟に笑う
確かに異様な、人間ではない筋肉に覆われているその体は恐怖の対象ではあろう
その眼は優しい光を灯してはいるが、外見は如何ともしがたい

身長差から当然上から見下ろす形になるが、声音も穏やかに話を続ける

ジギィ > 温泉に浸かった者たちからは次々に安堵の声、時折、カザンへと大声で礼を直接言う元気ものも居るだろう。

女エルフはそんな仲間を眼の端で羨ましそうには見るけれど、自身は入るつもりはないらしい。
取り敢えず目の前の彼にまた視線を戻して、髪に溜まった雫を払う。

「へーえ、余裕ねえ。まあ見た所何かを恐れる必要なさそうだもんね。魔法とかにも強そう。
 ―――わたしたち?ああ…
 大事ではなかったんだけどね、たまにある山賊狩り。ちょーっと隊長が焦った結果かなぁ。悪い人じゃないんだけど、運悪いみたい」

女エルフは視線で、やはりこちらも温泉に浸かる様子の無い隊長を見遣り、あはは、と笑って見せる。それからすっかり濡れそぼった狼の毛皮を肩から取ると、一度雫を払って

「カザンみたいな人って、この山結構居たりするの?隠れ里があったりとか…
 というか、温泉掘り趣味かなにか?いくつかあるって、どこら辺に?」

また肩に毛皮のマントを羽織るまでに矢継ぎ早に質問をする。
温泉には次のグループが浸かり始めて、心地よさにまた歓声めいた吐息が、雨の中こちらまで聞こえて来るだろう。

カザン > 礼には、片手を上げて答えていく
声を発して会話するよりも、温泉を味わってほしいからだ
そしてやはりエルフというのは美麗だな、と視線を巡らせつつ

「まァ…そうだな。
その気は無いが、お前たちで一斉に俺にかかっても徒労になるだろうな
隠し玉があるなら別かもしれんが。
ははは、それは運が悪い。山賊程度で天に身体を冷やされてはたまったものではないな」

快活に笑ってから、矢継ぎ早の質問に少し驚く
確かに招いたのは招いたが、中々慣れるのが早いな、と

「待て待て。ゆっくり答える
まず、この山に居るのは…というより、俺は人ではないが…住んでいるのは俺一人だ。あの辺の洞窟に住んでいる。
もう一人、恐らくこの山のどこかにこれくらいの女鬼が居るが…
力のない者があれと会ったなら、酒を差し出すか、逃げた方がいいだろうなァ」

自分の住処を大体で伝えつつ、難しそうな顔をする鬼
どうやら、少し注意すべき鬼も居ることを告げて
大体の背丈…男鬼よりかなり小さい背丈を示す

「温泉は、趣味といえば趣味だ。俺も湯に浸かるのは心地いいものでな
湯の気配を感じては、適当に掘って放置している。
この近くで言うならこの山の裏側や俺の住処の近くにもあるぞ」

これもまた大体だが、太い指で方向を示していく
そして歓声を聞けば、く、く、と笑って

「いやいや、これほど喜んでくれるなら暇つぶしの趣味も良いものよな
まァ、時間が許す限りはゆっくりしていくといい。ジギィも、あの隊長もな。後であれば、元気な者が浸かっても文句は言われんだろう」

疲弊のほども察しているのかそう言って
つい、といった調子で太い腕を伸ばし、エルフの頭を撫ぜようとする

ジギィ > 「まァそうよだよねえ…取り敢えず今の部隊だと絶対無理だね。
 もし本当にするなら相当準備して、周囲も調査して……それでも被害出そう。
 ――――あ、勿論ほんとうにそんなことしようとは思ってないけどね?」

一瞬真面目な顔で脳内でシミュレーションをしてみる。本気でやるなら、あれとあれとあれと…と数え上げるだけでも相当な準備と人員が必要そうだ。しかもそれでも、この地の利もある相手に取ってはお遊び程度にあしらわれる気がする。

「あ、そうなの。たくさん居るなら子供も居るんだろうから、カザンの小さいのとか可愛いと思ったのになー。
 えー…ふーん………」

他にもいないではないが、どうやら彼と違って友好的では無いらしい。酒を携帯しているモノなど知れよう―――少なくとも女エルフは携帯しない―――から、出逢ってしまったら逃げろ、と冒険者ギルドのほうにでも伝言しておこう。

女エルフは話を聞きながら、また近くの幹に背を預けて寄り掛かる。伝ってくる雫が身体をまた濡らすけど、もう今更だ。

「へえ、そこそこあちこちにあるのね。じゃあ結構山賊とかわたしたちみたいなのにも勝手に借りられてるかもね?
 ――――靴の妖精、ならぬ温泉の妖精ってとこ?」

ガラじゃないね!とけらっと笑う。若干失礼な言い様ではあろうが、彼だってべつに妖精に憧れ等はないだろうからとふんでの事だ。もしあったら、フォローするつもりも一応ある。

「ありがとう、でも私は混浴はちょっとぉ…」

口元に手を当てて、ふたたびぶりっこの振り。それから手をひらひらと振ってまたあはは、と笑う。

「ま、もしかして今夜野営ってことになったら、後で借りに来るかも。
 …?」

伸ばされた大きな手。エルフのどんぐりまなこがその行方を追って上を指すのは、ちょっと滑稽に映るかもしれない。
触れればぬれそぼったくせ毛が彼の手に触れるだろう。

「…やーね、私に角はないよ?」

頭に触れた彼の手に触れて、けらっと笑う。

カザン > 「はは、わかっている。力を試したいなら付き合ってやるがな
怯えもせず、本気だとわかれば、俺も手を抜くのは無礼故に」

つまりは、訓練などには手加減するが本気を察すればこちらも本気で――と言ったところだ
例え弱い者相手であっても、心意気には応える主義らしい

「そもそも嫁となる者が居らんからなァ。
おう、借りても別にぐちぐち言ったりはせん。好きに使え
…かかか!その通りだ。俺が妖精を名乗るなど、それこそ奴らへの侮辱だろうさ」

冗談には少し上を向いて豪快に笑う
失礼ともとっておらず、むしろこの筋肉の塊を妖精と例えた事がツボに入ったようで
笑いを浮かべたまま、また視線をエルフに戻す

「ほほう。やはりエルフはそうそう肌を晒したりはしないか?
であれば野営するその時は…俺の住処近くの温泉まで来ると良い。ここよりは立派な屋根を作っている」

冗談らしきぶりっこポーズにも敢えて真面目に答えていく
頭に触れればそのままぽふぽふと努めて軽く撫でていき

「いや何、いい仕事を見せたジギィを労っただけだ
先程の間の取り方、攻撃を受けないようにする仕草は良いものだったぞ」

何度か撫でてから、手を離す
どうしても多少乱暴にはなってしまうから、癖毛が酷くなってしまうかもしれないが

「ジギィはそれほど恐れぬのだな。
いくら言っても怖がる者が多いのだが。俺のような者と関わることに慣れているのか?」

それを言えば部隊の者もそうだが
先程の矢継ぎ早の質問と良い、慣れるのが非常に速い気がしたための質問だ

ジギィ > 「あは、そんなこと言うと王国の腕自慢達に伝えてきちゃうよ?
 カザン、忙しくなるかも」

大分荒んだような雰囲気があるように感じる王都だが、中には真面目に腕を上げたいものも居るだろう。そんな輩は決して多くはなかろうが、性根の良さそうな者になら、彼の事を伝えてあげてもいいかもしれない。
少々人の悪い笑みをにまーっと浮かべて、また冗談だというように片手をひらひらと振る。その合間にもぽたぽたと雫は落ちて、温泉の香と樹々の香りが混じるようにも感じられる。

「まーそんな勿体ぶるもんでもないけど…カザンの家ってここから近いの?
 ヤダぁ、独り占めなんてわるいわあ」

また口元に拳を当てて言いつつ、しっかりと温泉の場所は聞き取って行くだろう。まあこの温泉に戻ってきてもいいのだが、同じ隊の泥まみれの後よりは…断然俄然、魅力的なお誘いだった。

「ちょっとー、子ども扱いしないでよ。私そこそこ年いってるよ?
 まあわたしみたいなのはカザンに一発貰ったら終わりだからね。そこは流石に注意はしたよ」

女エルフは撫でる手の下でぶすっとした顔をする。その時点でやや年上っぽくはないが、抗議はしておきべきだと思ったらしい。多少乱れたくせ毛を指先でくるくると弄ぶ。そこからぽたりとまた雫が落ちていく。

「まさか!流石にカザンみたいなひとは滅多に合わないよ。最初は隊長だって撤退しようとしてたんだから、すっごくおっかなかった。
 この隊が割と寄せ集めなせいもあるかな。皆わかってるのよ、『相手に信頼してほしかったら、まず自分から』って。
 …多少の線引きはあるけど、まあ、そんなとこ?」

あとは、カン?と付け足して。
あははっと笑って揶揄う視線を彼に向ける。

「まーじゃあ今度、可愛い女の子の冒険者でも送り込んであげよっか?
カザン、モテモテになっちゃうかもー」

カザン > 「暇よりは、そういった骨のあるやつらと訓練する方がいいからな
呼んでも構わないぞ」

あっさりと真面目にそう言ってふん、と鼻を鳴らす鬼
今は温泉を掘り、畑を耕し、昼寝をする生活だ。そこに多少人間が来たところで大きく変わるとは思えない

「思ってもない事を。眼が輝いているぞ
まァ、独り占めが悪いというなら、俺も共に浸かろうか」

相手の言葉に乗って、く、く、と笑う
面白い相手ではあるが、やはり襲うなどという選択肢はない
場所を聞かれれば快く目印となる特徴的な木や岩などを教えていく

「それは済まない。年がいっているとは思えない愛らしさだった故にな
エルフというのはやはり、見た目ではわからんものだ」

改めてじい、と相手を見るがやはり見た目ではわからない
ある程度の実力や状態はわかる鬼だが、若々しい肉体を維持していれば年齢を察すことは難しい

「なるほどな。その寄せ集めをまとめ上げるとは、あの隊長は大した奴だ
飲めるなら、酒でも奢ってやるか。それで、俺が信頼足りえる行いをしたからこそ、こうして馴染んでいるわけか」

後ろの歓声も大分鎮まってきた
あとに聞こえてくるのは、安らいだ話し声や装備を付け直す音などだろう

「ははは。お前の目なら信頼はできるが、どうせなら暇なときにジギィが訪ねて来てくれ
俺はこの辺りには少々詳しい。ほとんどの時間、歩き回っているからな。…この辺の地形を知ることは、斥候にとって重要な事だろう」

せっかく知り合ったのだから、話し相手とするなら
見知らぬ相手からモテモテ、というよりも…見知った相手と話したいと告げて
一応のメリットを提示しつつ、伸びをする
巨大さ故か、木の枝にあたり、軽く雨のように雫が降ってくるだろう

ジギィ > 「そう?じゃあ有難く伝言しとく」

強敵を相手にしたい、というなら魔族を相手にすれば事欠かないだろうが、いちいち死線を掻い潜るとなっては学ぶことも歪む。彼のような存在は貴重で、その存在の情報も貴重だ。
温泉だけではなく、色々得るものがあったな、と指先で髪を弄びながら思う。

「あら、バレた?
 いやん、カザンのえっちー」

届くなら、笑う彼の腕をぺちーんとはたいてみようか。彼に取っては撫でられたとも感じられないかもしれないが。
彼の言う目印は、森に本拠を置き植生にも通じるエルフには地図にも等しい情報だった。あそこら辺かな?とまだ見ぬ場所を脳裏に描いて、うふーと口元を緩める。温泉は割と、結構、かなり好きだ。

「そおよー、こう見えてもにじゅ…120くらいは生きてるからね。カザンは幾つくらい?
 あはは、隊長、お酒誘ったらきっと喜ぶよ。体格もちょっと似てるし、もしかしたら話も合うんじゃない?」

じい、と見る視線に女エルフはくねっとシナを作って見せる。まあ、それで誘われる相手でもないだろうから出来ることだ。正直体格で言ったら大人と子供くらいほどにも違うだろう。
きっと、もっと豊満な方が好みだろうなーと、何となく思ったりして。

「うわ、ぷ……
 あら、私でいいの?なら温泉巡りに来ちゃおうかなあー。あ、季節が変わったら紅葉が奇麗な場所も教えてよ!知ってるでしょ?」

彼の腕に当たって落ちた雫はまともにエルフに降りかかる。
既に濡れそぼっているので今更ではあるが、更に顔に伝う雫に何だか笑ってしまう。女エルフは、新しい出会いに気をよくしている部分もあってだろう、額に貼りついた髪の毛を掻き上げて、ずうずうしくも更に情報を強請る。

そうこうしていると、隊長がこちらへやって来る。
曰く、今夜はこの辺りで野営をするつもりであること。
よければ、少ない食料と酒ではあるがささやかなもてなしをさせて欲しいとのこと。
彼が了承するか断るか、何れにせよ隊は粛々と野営の準備を始めるだろう。

そうしてその夜。雨の中へとへとに疲れきって居たはずの隊は、明日の英気を十分に養う事ができたろう。
彼が留まったのならば、夜遅くまで
『山賊街道』には似つかわしくない、和やかな喧噪が森を騒がした筈で…

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からジギィさんが去りました。
カザン > 「応。歳を取っているとはいえ、ジギィの身体では壊れちまうだろうからなァ
流石に、そんな相手に襲い掛かったりはせんよ」

伝言する、という言葉には肯定的に頷いて
えっち、であることは否定はしない。己とて、受肉した生物であるのだから相応の欲はある
ただ、鍛えられているのではあろうが、相手に自分を受け止められる気はしないからこそ、興奮まではせず
ぺちん、と叩かれれば笑いながらそれを受けて

豊満が好き、というよりは相手の身体が己に耐えきれるかどうか、が重要だ

そしてエルフがこの後、『地図』を頼りに進んでいけば、そこには幾分か整えられた温泉と彼の住処である洞窟があるだろう

「俺はわからん。が、覚えきれぬほど、季節の移り変わりは見たな
はは、豪気で話の分かる男は好きだ。後で話してみるとしよう。
…いいとも。もしジギィの足が届かぬ場所なら、俺が担いでいってやろう」

追加の情報を強請られても、別に隠す必要はない
険しい山の上などから見る景色はまた格別だろうから
ヒトに近しい者には登れない崖の上すら、鬼は案内できるだろう

のんびりと話していると、話題に上がった隊長から話を聞く
宴も相応に好みであるため、快く了承して
少ない食料を分け与えると知れば、激烈に辛い酒や、喰える肉を提供するだろう
更には、彼が叫んだことによって魔獣も寄っては来ない宴会となり

鬼は人の輪にどっかりと加わり、酒を煽る
中には鬼に腕相撲などを挑んだり、飲み比べをする者も居るだろう
退屈だった山中に、夜遅くまでその喧騒は絶えず響き渡っていたことだろう――

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からカザンさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山中 忘れられた霊廟」にシュティレさんが現れました。
シュティレ > 九頭龍山脈の一部に、遥か昔に打ち捨てられたと思わしき場所、今は誰も来ることの無いでしょう霊廟があります。
何時時代の物なのか、何があったのか、何もわかりませんが、此処には墓地があるのが判ります。
盗賊たちも来ない場所なので、荒れ放題放置されたままの底は、黒御影石に苔がびっしり張り付いていて、誰の眠る場所化も判らないその場所です。
私は偶々散策をしていました、気が向いて普段は足を運ばない所に向かい歩いていたところ、此処を見つけたのです。
ふらふらとしてみるものですね、と一人静かに感心をしながらも、私の足は止まることなく、霊廟の中へ。
ふわりふわり漂うは、ゴースト達で、恐らく自分の眠る場所が打ち捨てられていることを嘆いているように見えます。
話をするには、彼らの意志が低く会話が出来るほどの知性を残しているようにも見えないので声は掛けないことにします。
私が上位の存在と、彼らも判って居るのか此方の方に寄ってくる様子はなく、遠巻きに見ているようです。
それで良いので、私は、コツり、コツり、と石畳を進みます、静寂の空間だからか、ヒールの音が少し響きます。
漆黒のドレスは彼らにとっての喪服に見えるのでしょうか、近寄らずとも一定の距離を保ったままに、浮いております。

「お祈りをした方が、良いのでしょうか。」

彼らは静かに眠って居たかった、何かしらの心残りがあり、幽霊となり、自分の墓が朽ちていく様を眺めているだけしかないだけ。
私は聖職者ではありませんが、祈りをするべきなのでしょうか。
彼らの痛み、悲しみに寄り添うことは出来ませんは、慰めになるのでしょうか、沢山の―――一つの町位の数のある墓地。
この辺には町などはないと思って居ます。周囲は鬱蒼と生い茂る森に、足場の悪い斜面の山の中。
墓地はどちらかと言えば公共の墓地のような気がします、上流階級の墓、とは思えないこの場所を、私は進んでいきます。
恐らく、軽く魔力を流せば、アンデッドの軍団なんて作れるのでしょうね、等と他人事のように私は考えます。
別に、軍団が欲しいわけではありません、から。
私は、彼らの事を、どう扱うか、如何、扱わないかに、思考を這わせてみました。
彼らから見れば、不死の一族、貴族である血族が居るのですから。
何かできることがあるかどうかを考えるのは、仕事、なのだ、と私は思うのです。

シュティレ > 静寂の中、石畳を踏みしめる音が響き渡ります、この場所は静かだというだけではなく、広大なのです。町一つが墓地になった、とそう言うイメージを抱いてしまう位に広く、そして、屹度その下には沢山の亡骸があるのでしょう。
元々は、恐らく綺麗だったのでしょう、ヒトが居なくなり、手入れする人が無くなり、忘れられて、今は静寂の中。
何故、を聞きたくもあります、このように広い所を使うと言うのはそれなりの繁栄も有ったのでしょう、何故、それがこのように忘れられるような場所となるのか、と。

歴史という物には、興味があります、ヒトと言うのは、過去を継承し、昇華し、未来を生きる存在です。
継承の方法は、歴史という、過去の編纂、切り取り、有用なものを救い上げる行為だと、私は認識しています。
血族も、過去を編纂などはしますが、ヒトとは寿命が違うので、其れこそ、緩やか、です、己の事だけでいっぱいなのです。
他人の事も含めての編纂などは、本当に、気まぐれ、若しくは変人と呼ばれるものしかしません。
その理論ですと、私も変人になりますね。

閑話休題。

様々な国を歩き、様々な知識、ヒトに触れて学んだ、と言う事にしましょう。
流石に、色々な事を耐えることの出来る私ですが、変人とされるのは少しばかり嫌なのです。
周囲の風景を眺め、相も変わらずの、鬱蒼とした森と、木と、土と、墓。
逢瀬するにも、余りいい雰囲気の場所ではありません、そう思って居ます。
其れでもここを歩くのは、もしかしたら、墓守がいるかもしれない、というとても、とても――身勝手な願い。
そう言った存在は、居ないのでしょう、最早。
墓守のあるべき小屋を探し、私は、更に広い墓地を進みます。