2021/05/21 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にタピオカさんが現れました。
タピオカ > 山の天気はころころ変わる。
野営から出発した朝の晴天は、いつのまにか曇天へ。
そして木桶の水をひっくり返したような激しいスコールに見舞われる。

「っはは、……今日は空のご機嫌が悪いみたい」

ダイラスへの歩き旅の途中、褐色肌の冒険者は目深にかぶったマントのフード奥で小さく笑った。
雨に濡れる事も、雨の中歩くのも幼い頃から慣れている。それぐらいじゃ風邪にもならない。
それでも、山中の土砂のぬかるみには足をとられてしまう。
歩幅はどうしたって緩む。

「急に降ってきたから、そのうち急に止むはず。
あの大きな木の影でしばらく雨宿りだね」

周囲を見回せば具合よく枝葉の実る大樹がある。
そのたもとには太い根が地面から浮かび上がって張り巡らされ、座って休んでもお尻が濡れずに済みそうだ。
近づくとそこに腰を降ろし、背負っていた背嚢を脇に置いてくつろぐ。
マントを脱いで水気を軽く払うと、目の前まで伸びている低木の枝にかけて干した。

そのまま頬杖ついて、雨音に耳澄ませ。

タピオカ > 晴れの朝が好きなように、雨の午後も好きだ。
雨を連れてくる雲の、湿り気が大地を覆う気配。
水気を含んだ土と草木の匂いは、この褐色肌の田舎者が都会に出て油から精製した香水を知る前の天然の香水だった。

山の側面に沿った土の小道に雨が流れ、彫刻家が衣服のひだを掘り進むような細かな流れが斜面に向かって走っていく。
旅の砂埃にまみれた片足先をそこに浸せば少し冷たく、あっというまに清められていく。

たまたま流れてきた露濡れの葉を拾い上げると、丸めて口に当てた。
息を吹くと、ぷーっ!ぴゅーっ!
甲高い、おもちゃの兵隊が鳴らす角笛じみた音が出る。

雨脚が弱まりつつある山賊街道。そのどこからか、草笛の音がしばらく響いて――。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からタピオカさんが去りました。