2021/04/10 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山中」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル >  山賊街道、なんて呼ばれるからにはもちろん奴らが出没する。
 し、当然遭遇もしてしまう。

 昼日中、かなり麗らかになった春の明るい日差しの下で図らずも猛ダッシュで街道から山賊に負われ逃げる女が一人。

「もぉおぉー!! だーかーらーイヤなのよここー!!」

 元気に苦情を云いながら藪を突っ切り、大樹を避け、突き出た木の根を飛び越えながら追跡して来る刃毀れした剣を手にした髭面の、いかにも云った風体の男を振り切っていく。

『待てコラー!!』

「むーりー! 待つバカ連れてこいってのー!」
 
 飛んでくる怒声に向かって律儀に返しながらも足は緩めない。
 地の利はどうしたって向こうにあるのだから、こっちは精々この脚力を限界まで発揮してスピードで物を云わせるしかない。
 だからわき目も振らずに道なき山中を駆け抜ける。

 相当走った所で背後から投げつけられていた罵声が途切れていることに気づいては、はあはあと呼吸を乱しながら脚を止めずに振り返った、直後―――

「えっ…?!」

 ず、と踏み込んだ先の足には地面が存在せず――切り立った崖の向こうに浮いていたかと思えばそのまま、大きく前傾し、

「っきゃああぁぁぁあぁぁー!!?」

 悲鳴の尾を引き連れて真っ逆さま。逃げるのに必死な余り、前方の茂みの先が崖になっていることに気づかずに悲劇は起こる――

ティアフェル >  あるべき場、土が、地が、面が、地面が、ない――!

 足場がない場所へと思い切り踏み込んでしまい、咄嗟に重心を切り替えることもできずそのまま転がり落ちていく―――

「あぁぁあぁぁぁぁぁぁー!!」

 悲鳴が下へ向かって一緒に落下していく、その叫び声の先が微かに崖の上に引っ掛かって、しかし刹那に掻き消えやがて崖下の地表に叩きつけられた。
 
 騒がしい悲鳴交じりのどしん、と鈍く低い衝突音の後には、しんと静まり返る一帯。
 崖下で意識を失い、所々に裂傷を負い、頭部から流れる血をべったりと重く土に吸わせながら倒れ伏す一人の女。

 一応息はあるようだが、軽傷とはとても云えない有様。

 一見すると生きているのかどうかすら怪しく映りそうなほどぴくりともしない。

「………………」

 返答がない、ただの屍のようだ。

 そんな雰囲気。近づいてよくよく見ればそれには当てはまらないことが辛うじて判るが。

ご案内:「九頭龍山脈 山中」にトーラスさんが現れました。
トーラス > 王都東部に拡がる険しい山々が連なる九頭龍山脈。
人々に害なす山賊の根城になる麓の街道は同時に冒険者の仕事への需要を産む。
隊商は護衛として傭兵や冒険者を雇い入れ、近隣の街や村落はより直接的に、
山賊退治を依頼として冒険者ギルドに定期的に申し入れる事になるからだ。

中年の冒険者が此の場所を訪れた目的は後者の理由。
周辺の村落での聞き込みで山賊が隠れ家を構えていそうな場所に目途を付けると、
山へと足を踏み入れ、周囲に気を配りながら探索をしていれば、
突然、聞こえてくる絹を裂くような――――とは、言い難いが、人間のモノと思しき悲鳴。

「今の声は、……あっちの方角か?」

類人猿の悲鳴ではない事を祈りながら、藪の中へと足を踏み入れると、
駆け足気味で山中を抜けて、切り立った崖の下へと辿り着き、
周囲を見廻せば、地面に倒れ伏した血だらけの女の姿を見付けて駆け付け。

「こいつは、手遅れだったか? おい、まだ、生きてるか?」

只の屍のように見える女の脇で膝を曲げると負傷の状況を確かめようと触診していき。

ティアフェル >  土で汚れ、崖肌に自生していた枝葉を絡めて、その上に緋色の飛沫を散らして汚し、という一見しただけでは死骸めいた惨状。

 崖の高さは数メートルといったところ。唯一、幸いだったことはと云えば下は秋に降り積もった落ち葉が積もってできた腐葉土で。木々に遮られて日差しで乾かず柔らかに湿っていたことか。
 故に、致命傷や即死するような重症には至っていなかったこと。
 決して軽んじられる状態でもないが――落ちたばかりで気を失って倒れていた女には浅く息があり、確かに胸が上下していた。

 近づき呼びかけられる声、と触れる感触。それは意識を呼び覚ますにはまだ鈍いものだったが。
 痛みだけは深い場所に置かれた意識にも浸透するのか、ぅ゛、と小さく苦し気な呻き声が零れ、ぐっときつく眉間に皺が寄せられ苦悶の色を刻んでいた。

トーラス > 崖の上を仰ぎ見れば、一瞬、人影が見えたような気がしたが、
馬や鹿でも降ろうとは思わないような急な切り立った崖。
好き好んで死体回収に骨折り損をしようとは山賊達も考えなかったのであろう。
人影がさっと姿を消すのを見遣れば、改めて死骸めいた少女を見下ろす。
後頭部から血を流し、方々に擦過傷が見られるが、息をしている状況に双眸を細めれば、
腰のホルダーから細長いガラス瓶を一本、取り出すとコルクの蓋を噛んで抜き、

「見過ごしてやらない、と言っちまったしなぁ。
 この前みたいにギャーギャー喚くなよ、ティアフェル」

偶然にも怪我人は以前に僅かばかりの縁があって見知った女。
その時の対応を思い返すと、眉根を詰め寄らせて苦々しく苦笑しながら、
瓶の中の液体を呷り、女の貌へと顔を寄せると唇同士を重ね合わせる。
強引に舌を差し伸ばして相手の唇を開き、咥内に含んだ回復薬のポーションを少しずつ、
咽喉の奥へと押し流していき、舌同士も深く絡ませながら、女に液体を飲み込ませる。

相手へと飲み込ませたのは怪我に効果のある魔女謹製のポーション。
同時に気付けの効果を含んだ酒精も帯びて、夜のお供にされる事もある、
そんな合法と非合法の境目を往来するが、即効性の高い逸品で。

ティアフェル >  骸のように横たわる様は、覚醒時よりも余程に静かなものだろう。
 黙っていれば、のなんとやら。逆に意識喪失している際の方が淑やかな女子のように見えるかも知れない。

 ――ただし。このまま放置状態を続ければ淑やかな死体がひとつ出来上がってしまう訳だが。
 その前に、それを押し留めるのは善意だけという訳ではなさそうな通りすがりの唇――

「……っ、ん゛……」

 ガラスの小瓶から彼の口内へと流れた液体が、こちらの口内へ唾液や舌先を伴って交換される――
 無意識のようだが、煩悶めいた呻き声が未だ意識のない唇の隙間から零れた。

「―――……んっ……?!」

 そして即効性の液体の効果がざっと体内へ広がりゆけばきつく閉じられていた瞼が震え、口移しをされたままの体勢で瞳が開かれ。
 ぼんやりした視界に映る男性の双眸と感触。デジャヴ過ぎて目が白黒に見開かれ。

 あれ?なんだこれは、夢か――…? とうとうガチで御臨終か…?
 ――いや!違う! 絶対に違うー!!

 瞬時にそう認識すると怪我の痛みも一瞬吹っ飛んで反射的に差し込まれた舌に咬みつく両歯。
 まだ霞んでいる視界ながら開いた双眸は、てめえ、このやろう、とでも云わんばかりの殺気だ。

トーラス > 舌の粘膜同士を絡め合わせる、治療から逸脱した行為に、少しだけ没頭してしまっていたらしい。
即効性を謳う魔女謹製のポーションの効果は思った以上に覿面で、
双眸を見開いた女と目があったのも束の間、相手の歯が己の舌に噛み付き、
表面が傷付いて鉄錆のような味が、己の舌にも相手の舌にも伝わる事だろう。
殺気に満ち溢れる彼女の視線に眉尻を下げると咥内に残った液体を
血液と一緒に彼女の咽喉奥へと注ぎ込んだ後、顔を離していき。

「……流石は魔女仕込みのポーションだ。効果は抜群のようだな」

互いの唇に伝う銀糸を噛み千切りながら、揶揄するように告げて、
自らの咥内に残された回復役の残滓を舌に塗り付けるように舐め取る。
殺気漲る女には両肩を竦めて見せると、やれやれ、と言わんばかりに嘆息して。

「曲がりなりにも、命の恩人に向けて良い視線じゃないな。
 まぁ、いきなり噛み付く程度ならば、余計なお世話で、もう大丈夫か?」

口端に伝う血を手の甲で拭いながら、相手の様子を窺うように双眸を細め。

ティアフェル >  衝撃からの暗転、といった意識を引き戻したのはぬるぬるとした衝撃(?)くそ、やられた、と地団太踏みたいような気持は――咬みついた歯先に伝う柔らかな軟体と、咥内に広がる薬液とはまた異なる血の味に幾分解消された。

 そして、さすがにそれ以上するほど人間の舌は丈夫に出来ていないし、鍛えようのない場所でもあるので痛みはそれなりにあるだろう。撤退していった舌先に、解放された唇は血交じりの唾液を地面に吐き捨て。

「こぉのぉ~……、前回に引き続きまたしてもお世話になり恐縮痛み入る所存です、お陰様で元気に生還! どうも各所で死にかけてて大変申し訳ございませんでしたあぁ!!
 あと、クソムカつくけど、舌出せ、ヒール!」

 がるる、とでも唸りそうな険悪な顔ながらも裏腹に叩きつけるように云った言葉は、しっかり謝辞であった。
 そう聞こえないかも知れないが。

 そして、さすがに舌を出血するほどきつく噛んでしまった件に関しては悔しいが、ヒーラーとしてのギリギリ良心で詫びなのかなんなのかだが、治療しようと傍に転がっていたスタッフを拾い上げてその先を翳し、癒そうと。

トーラス > 噛み千切られなかったのは不幸中の幸いであったらしい。
相手の不貞腐れたような態度を見ながら、次からは気を付けようと、心中に留める。
尤も、早々に死に掛けの女と遭遇する状況も考えられないので、要らぬ注意かも知れないが、
二度あることは三度ある、特に目の前の相手は危険な目に遭遇しそうな顔をしており。

「ははっ、大変申し訳なく思うならば少しは気を付けたら如何なのかね?
 反省だけならば猿でも出来るというが、よもや、猿でもねぇだろう」

謝辞だか、皮肉だか、分からない科白を捲し立てられると、揶揄交じりの気遣いで応酬する。
その言葉が気遣いであると気付くのは、彼女の言葉を解するのと同様に難解かも知れず。
律義に拾い上げたスタッフで此方を癒そうとする素振りを見せれば、
その手首を握り、スタッフの先端で、相手の額を小突く。
後頭部にまで振動が伝われば、ぱっくり割れた傷口が多少なりとも痛みを生じさせる筈で。

「矢張り、猿か、猿以下か?
 他人を如何こうする前に自分の方を心配して処置しろ。
 こんなん舐めときゃ治るが、お前の頭は舐めても治らないぞ」

本心から呆れ果てた様子で女を咎めると、癒しの手を遮って見せて。

ティアフェル >  覚醒した瞬間に咬みついたわたしはとてもグッジョブでしたと、相手から投げかけられるシニカルにまみれた言葉に痛感。
 云わないだけの理性は所持していた19歳ヒーラー。

「うっせ、やっぱり噛み千切っておくべきだったかしらッ。
 あんた年長者なんだったら小娘相手に喧嘩売るんじゃないわよ」

 口を開けばお互いに憎まれ口の応酬である。
 紳士性のカケラも見えない、と憮然とほざくが――淑女のカケラもない立場で云えたものではない。
 苦々しい顔を晒していたが、スタッフの先端で小突かれると異様に痛い、忘れていた痛みが去来した、頭が割れているのだから少し突かれただけでめっちゃ痛い。だらだらと伝う鮮血の生暖かさに――そこでやっと自覚したらしい。
 いったあぁぁ!と悲鳴を上げ、自分の身に何が起こっているのか自覚すると、さーと血の気を引かせつつ。

「自覚したら、死ぬ程、痛い……っか、回復……」

 マジ死ぬレベルで痛い。洒落にならない。魔女の妙薬とやらが思いの外体質に合っていたのか紛れていた痛み。湧き出るような出血にガタガタ、怯えではない振戦で震える手でスタッフの先を己に向け、詠唱を紡ぎだし、普段より苦心し集中が散じてしまいそうになる中、どうにかして術式を編み上げると、回復魔法を発動させ全身の傷を癒していく。
 でも、血が足りずに貧血状態で蒼白気味の顔で蹲ると、この際おっさん――暴言――の血でもいただいとくべきだったかもしれん…と妙な後悔に遠い目をしていた。