2021/03/07 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山中 竜と湯脈」に燈篭さんが現れました。
■燈篭 > 九頭龍山脈
山中は人も賊も、湯もあり何者が潜んでいるかわからない土地
そんな山の中、鬼が一人いても不思議ではない
頭の側面に生えた一つの角 右の肘に生えた一つの角
鬼と語ればそれは騙るに非ず 真の鬼として見られるに違いない
そんな鬼は背も貌も、まだ幼いままに、酒精を片手に山中の岩場に腰かける
この鬼、訪れた理由はなんてことはない
愛瓢の中へいれる材を手に入れようと山中にやってきた
目的は骨 竜骨酒と呼ばれる漬け酒を味わったのはダイラスにいたころ
なんでも海で見つけた龍の酒という
その酒、鯨竜 海龍 どれであろうと構いはしない
竜と呼ばれる格を持つ骨であることに変わりはなかった
その酒の実に甘く、古臭い味のこと
鬼は世にも珍しい竜の酒に酔いしれた
鬼はならばと、自身の持つ摩訶不思議な瓢箪にもぜひ入れたいと、この山脈へやってくる。
土塊に埋まる竜の骨 化石か 躯か どちらであれ構いはしない
あの瓶詰とは違う その龍の骨が最後まで愛溶かされた酒はどれほどのものか
しかし山の中 賊がいる
鬼が鬼と隠さぬその異形
あの幼子ならば、捕らえられまいか
高く売れるぞ ダイラスならばすぐだ
賊が鬼と認め踏み切った末は悲惨な者
辺りに広がる躯は砕け、没し、捻られる
「あーぁ……なんて安っぽい味だ。
竜の酒の手前だと呑んだはいいものの、これじゃあ舌が易くなってしまう。」
賊を吸い込んだ瓢箪 酒と溶けて消えたはいいものの、塩辛い酒だと、その命
恐れ 生き汚さ 悲鳴 命の味がやけひ響くだけ。
「やはり竜だな、竜がいい。」
躯がすべて酒へ吸われてしまうころ
だっぷんと揺れる中の音を聞きながら、ひっくっ♪と酒の音頭が喉で鳴る。
■燈篭 > 手に持つ大ぶりの瓢箪を手にするままに、鬼はその腰を下ろす岩から滑る様にやっと降りた
もしくは酒で揺れる体が自然とずれただけかもしれぬ
しかし両脚 地面へと突くならば、酒を求める体は自然と前へ進むだろう
酒気が体から香る中、さてどこでならば骨に出会える?
鬼は顎を撫で、息長い経験から頭をひねった
歩く先、途中で見かける野良の湯溜まり 獣湯 温かい沼
そんな野生の湯を眺め、指を鳴らすまではほんの瞬き三度の時間。
「嗚呼、土だ 深い土を探そう。」
湯という沼という底が没したその形
土の重なりならばきっと出会える
鬼はひらめいたままに、手をかざす。
枯れた場所を探すなど鬼のすることではない
枯れさせればいいだけのこと
湯を前に腰を下ろせば、右の手が宙へあがる。
手指その五指 広げきれば手の管に走る血の筋
盛り上がる肉の膨らみ
「跳べ。」
―――“ っ!!!”―――
いうや、鬼、思い切り振り上げたそれは湯の悲鳴という珍しいものを響かせた。
音 張り 飛沫 上へと上がった霧の湯と、一時流れる湯の雨飛沫
耳に聞こえる 頭に当たる湯の雫の群れ 熱いそれを浴びても、鬼の気にすることは全くない。
「よぉしよし。枯れた枯れた。」
頬を酒に染め、辛い賊の酒が喉を鳴らす
酒臭い息が小さな胸の内側で噴出されれば、その其処へと脚は下りた。
そのぬかるんだ場、やや広い底。
大熊が数頭寝そべれどまだ広いに違いない。
「骨ぇ、骨ぇ、と。」
骨はどこだ。
まさか鬼が骨を探すなど。
海ならばいざ知らず、土の中では恐れる竜は静かに眠りについているはず。
それが掘り起こされようとしている 最も、見つかればの話だが。
■燈篭 > 湯の底
それは鬼の目利きの通り地層が存在した
崖へいけばよかったものを しかし崖と導き出したところで、この鬼
拳一つで端を砕いて無理やりにでも作りかねない部分があった
罪 山脈の乱れ そんなものを鬼が気にするはずもない
故にまだマシといえたこの状況 裸足で歩くぬかるみと岩の混じる地層の桶
しかし湯沼というものは、湧くものあってこその湯沼である
その穴と呼ぶべきものはといえば。
「骨ぇーい どこだぁー。」
うぃっくっ と一声と共に、ふらふらと探し回る鬼の声 横穴の空いたその童子丈がすっぽり潜れる場所へと入ってしまう
人が見れば湯沼の穴にしてはやけに流れも乏しい穴だと首をかしげてしまうだろう
それもそのはず 答えはすぐに鬼が持ち出した
「ぉ?」
横穴の半ばで聞こえる鬼の声
少し響いた声の先から、何かを引きずる音がする。
「ふんっ……!
ふんぬっ……!」
鬼がなにやら力んでいる
鬼が力むほどのものがあるというのか
どうやら、ぬかるみに足を取られ、力を込めても踏ん張りが効かない様子である
「んんんだぼっ」
ずるぅりと引き出されたそれ
巨大な蛇か 竜か
巨大な鱗に覆われ、今まで湯につかり続けていたというのかまだ眠たげな眼をしている
何者かもわからない巨大な長さ。
勢いをつけた鬼が膝まで既に届いていた湯の中で、足を滑らせ顔をつける。
「ぺっぺっぺっ!
なんだまったく 酔いが冷めちまうじゃないか。」
酒を片手に、追加だ追加だと、酒精中毒も真っ青な飲みっぷり。
湯で全身を濡らし、前髪を掻き上げると、そこにいた眠たげな湯沼の主を見ては、お?と酔いどれ瞳も瞼を持ち上げる。
「ぉ?」
近づく鬼が、平手を数度、その表皮の口元を叩く。
「なんだってんだ。」
腰に手を付け、鬼は不満と顔に出す。
「生きてるのなんか用はないんだよ。」
人が見れば恐れ 生物が見れば仰ぐはずかもしれないなにかが目の前にいるとうのに
なぜ生きているとまずは文句を垂らす
骨が欲しかったというのに、それも長く眠りについた骨の味が欲しかった
生きている龍?なんぞに用はない、とベシンッとまた叩く。
■燈篭 > 後に、眠っていたその大ぶりな主 鬼は腰を下ろして酒を片手に語り合ったらしい
湯が深まり始め、鬼の口元までくるなれば、もはやただの濁った音を発するのみ
溺音の言葉で会話をしながら、パクリと呑まれるなど、決まり切っていた話
後に奥へと引っ込み、その湯沼は元通りになったとか
しかし、その日山中では土の中で確かな衝撃の音が数度鳴り響き、揺れ動いたという
山の主のお怒りだという者もいれば、誰ぞ山で眠る何かが暴れているのかなどと言われたそうな
ご案内:「九頭龍山脈 山中 竜と湯脈」から燈篭さんが去りました。