2020/09/02 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山中」に影時さんが現れました。
影時 > ――やれやれ、だ。

僅かな湿気の変化、雲の流れ、季節の移り変わり――等々。異邦の地に至っても、山の天候の移り変わりは気紛れだ。
そうなりそうで、そうならないこともあれば、読みを覆すように騒ぎ立てることもある。
今の場合は後者だ。それが面白いと思う時は思うものの、いざそうなると困ることがしばしばだ。
鬱蒼と草木が茂る日中の九頭龍山脈のただ中、枝葉の合間から降り注ぐ雨だれの強さに追い立てられて走る影が思う。

天候の所為も相まって、薄暗い山中を駆け抜ける影が放つ音は雨音に紛れる。
実際に何者かに追われている訳、ではない。単に雨宿りに都合のいい場所を探し求めているのだ。

「! 丁度良い……!」

雨足の音に紛れるように微かに響く音に誘われるが如く、やがてその影は折よく近くに口を開けた洞窟に飛び込む。
その身を叩く雨の拍子から身を隠すことが出来れば、ほっと息を衝く。背に身を預けつつ、天井を仰ごう。

「っ、たく。木の蔓でも集めて、笠でも予め編んでおきゃァ良かったか」

思ったよりこの雨足は、強い。困ったもんだとぼやきながら、身に染み入る雨の冷たさに肩を竦める。

影時 > このところ、採取絡みの依頼は請けていない。
火薬や薬毒の素材を求め、鶴嘴などの道具を抱えて山中に分け入ることはあるが、今のところ備蓄は足りている。
懇意にしている商会のキャラバンの道程を片道だけ護衛し、その帰りに斯様にして九頭竜山脈に分け入る。
補給地に立ち寄った村の酒場で聞いた山賊の動向が気になったからだ。

情報が足りないのか、討伐依頼は出ていない。
明らかに損害が出ているにもかかわらず出ていないのは、討伐の手を及ぼさせないために賢く立ち回っているのか。
それとも、騙りか或いは、か。何せ大山鳴動して鼠一匹ということもある。
山の中には人の思いもよらないものも、潜む。人間以外の魔物が居たということも、珍しくはない。

「……――この雨だと、足跡を辿るには難儀すンな。間が悪い」

火を焚いて着衣を乾かしておきたい処だが、この雨の強さでは薪に出来る枯れ枝の類は期待しようもない。
しかたがない、と。息を吐き、取り出す苦無を二本、洞窟の壁面の亀裂を見極めて突き立てる。
そして、脱いだ羽織の袖口から袖口を通すように細縄を入れ、苦無の端の鉄環に結わえて――張る。
直ぐに乾くということはないが、湿ったままにしておくのは都合が悪い。

腰から外した太刀も壁に立てかけ、座り込む。
幸か不幸か、腰の雑嚢に吊るした酒入りの水袋は補充したばかりだ。
あとは、身体を温めるに丁度良いものが他にあれば、より言うことは無い。

影時 > 「この雨。……止みそうな匂いは、無ェか」

酒の他に携行食はいくつか持ち合わせはあるが、まだ封を開けるには早い。
すん、と。雨の匂いを嗅げば止む気配が見当たらぬ様に、口の端を捩じる。
もとより急ぎの旅でも仕事でもない。最終的に困れば、連絡を付ける手段はない訳ではない。

脱いで乾かすに丁度良い場所があれば良いが、無いが故に肌に張り付く着物から肩を抜き、鍛えた上半身を晒す。
肌を撫ぜる洞窟の奥から湧き上がる涼気に目を細め、少し考える。
全部脱いでしまっても困りはしないが、いざという時にそれでは困る。

「さっさと上がってくれれば、なァ。うまく雨を凌げてる枝でも何でも探しに行けるんだが」

とはいうものの、正直望みが薄い。水気を含んだ枝などは火を着けづらいし、火を保てない。
雑嚢の底に詰め込んだ綿くずや油など、着火の助けになるものはいくつかあるけれども、今はまだ早い。
溜息を零せば、大きく肩が動く。何気ない動作ではあるが、四方に注意を払う獣めいた所作でもある。

影時 > 「……仕方がねぇ。濡れて帰るのも癪だし、今日はここらで野宿をキメるか」

山中で長期間過ごすやり方等は心得ている。
興味本位とはいえ、そもそもの目的を考えればこの洞窟を一晩の拠点として夜を明かし、周囲の動向を探るが得策だろう。
雨が止めば、木を登って周囲を確かめる選択肢も出てくる。

運よく、あるいは運悪く。

山賊の手の者がこの場に湧いて出たとすれば、捕縛、尋問の上で塒を聞き出せそうなものを。
慣れていても、人間の足で険しい山中を行き来する範囲には限度がある。
魔物の類でも飼っているのか。それとも、人間ではなく小鬼や悪鬼の類の人型の魔物の集団であるか。
それ等を見極めるには、些細な痕跡をも見逃さない探索が必要だ。

夜にしか動かないものであれば、夜に此方も動く必要がある。
そうと決めれば、刀を己が傍に引き寄せて瞼を閉じる。氣の発散を留めつつ、身を休める。次に瞼を開けば、それは雨が上がった後――。

ご案内:「九頭龍山脈 山中」から影時さんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にレナード・イーストさんが現れました。
レナード・イースト > 俺は城の連中からの依頼で山賊のアジトを一つ潰す予定であった。
夜陰に乗じて接近すれば心得のない賊共など容易く皆殺しにするはずだった。 だが…。

「くそ、先を越されているではないか。」

俺は既に破壊しつくされたアジトの前で地団太を踏んだ。
流血の痕は壁を赤く染め、賊共が使っていたと思しき武器がそこら中に散らかっている。
賊の死体も一つや二つではない。
腕の立つ冒険者か、あるいはどこぞの傭兵団でも送り込まれたか。

俺は苛立つ気持ちを抑え、周辺を見渡した。
この辺りに迷い込んだ連中や、賊の生き残りでもいないか探すためだ。