2020/06/02 のログ
■タマモ > ぴくん、少女の耳が揺れる。
月明かりに照らされる、獣を象るシルエット。
勘付いた足音と共に、それが目の前に姿を現わした。
普通の冒険者やら、迷い人であったなら、どれだけ驚いた事か。
しかし、少女は微動だにしない。
………別に、驚いて声が出ない、なんて訳ではなく。
その証拠に、それを見遣る瞳には、怯えも何もなく普段通りなのだから。
構えただけで、飛び掛かる事はない。
それは、ある意味正解であったのだろう。
「………うん?…おやおや、これは珍しい。
こんな場所で、使われるようなものではなさそうじゃのぅ」
むしろ、少女が妙と思ったのは、今使われていた術。
ここら王都で使われているような、そんな力ではないのは知っていたからだ。
ちなみに、執事服に関しては、実は細かい事はよく分かってない。
ぴしっとした服装で、何か固そうな雰囲気だ、と思っているだけであった。
だから、こんな言葉が掛けられるのである。
「いやいや、しっかりした僕らしく、良い事じゃ。
………うむ、本当に、ちゃんと言う事を聞く…のぅ…」
詫びをしながら頭を下げる、そんな少年に、気にするなと手を振って答えた。
後の言葉には、どこか、ふっと遠くを見詰めているかのような、そんな雰囲気を漂わせるが。
その後の、己に向けられた視線に関しては、そう気にしていない様子だ。
■イズナ > 彼女に対峙した獣の方も迂闊に飛びかかればどうなるか、判っていたのかもしれない
かといって遁走することもせず、敵味方測りかねたが眼を離すことはしなかった
とは言っても従僕の始末は主人が付けるべきである
不快な思いをしただろうと非礼を侘びれば、彼女の方も気にするなと謝罪を受け入れてくれたので小さく息をつき
顔を上げれば王都あたりでは見慣れぬ狐耳とこちらは初めて眼にする9つの尾に視線が奪われてしまった
「いやあ…中々、利かん坊で手を焼いておりますが…
……して、お嬢様…は、このようにむさ苦しい所に何か御用ですか?」
言い淀んだのは果たして彼女が見た目通りの年齢なのか、迷ったからで深い意味はない
自分も化生であるから狐であり、9つの尾、というのがどういう存在であるかは大凡知っている
何やら遠い目をするさまを見れば、んんっ?と怪訝そうに首を傾げたが真意は判らずじまいであった
「私は主人の装飾品が盗難にあい、探し回っておりました所、巡り巡って此方にたどり着いたのですが…
どうやら、一足違いだったようです…私と、先程の部下がここに着た時には既にモノケノカラ、でございました」
自分がどうしてここに来たか、その経緯を掻い摘んで説明する
それから、ややあって、申し遅れました、と続け
「さる公主様にお仕えする、イズナと申す者です
どうぞ、お見知り置きください、お嬢…さま?」
そうして自己紹介まで済ませるとやはり耳や尾に無意識に視線がいってしまう
そりゃあ、生まれてこの方、9つの尾を持つ狐、なんてものを見たことがないのだから
■タマモ > 結局のところは、少女は獣と相対する事は好まない。
敵と判断されようと、あしらって終わり、となっていた訳で。
そういった意味でも、少女が余裕を崩さぬ理由となっていた。
さて、それはともあれ、いつもの初見の恒例で。
己の耳と、尻尾に向けられた視線、それに気付く。
かくん?と首を傾け、こちらもまた相手を見詰めて。
「聞くべき時は聞く、それで十分じゃろう。
妾の式なんぞ、言う事を聞かんどころか………いや、まぁ、それは良いか。
ここに来たのは、ただの暇潰し、それだけじゃ」
見た目なんて、お互い様であろう事は、理解出来る。
雰囲気と言うか、気配と言うか…まぁ、獣の直感と言うものだ。
ここに居た理由を問われれば、別に良いかと、さらっと答える。
それに続くように、少年もまた、来た理由を。
それを聞けば、なるほど、と納得するもので。
ぶっちゃけ、少年の方が、十分にまともな理由なのだ。
己の式が居たならば、少しは己の方が気にしろ、と言われそうなものであった。
「ふむ…覚え易くて良い名前じゃ。
おっと、妾はタマモ、覚えるも忘れるも、お主の自由じゃな。
公主?やはり、シェンヤンかどこかの者じゃったか。
確か、そんな呼び方をするのは、あそこじゃったからのぅ。
………まぁ、細かい事とかは、よぅ分からんが」
うんうんと、少年の名前に満足そうに頷く少女。
名乗られたのならば、名乗り返さねばと、それを伝えて。
まぁ、公主とかは、余り気にしてない様子であるが。
と、再び尻尾へと向けられる視線。
ふふんっ、と応えるように、自慢気に胸を張りながら、尻尾を揺らすのであった。
■イズナ > じっ、と互いに見つめ合う
色気なんてものがあるわけもなく、何やら二匹の初対面の獣がジッ、と
互いを値踏みしているようでもあったやもしれない
方や狐、方やイタチ…似ているような、そうでもないような
「左様にございますか…確かにお嬢様は式神を召し使うには少々姿形が愛らしすぎるようにも…っと、失礼
暇つぶしするにしても、少々物悲しい所にございますね、ここは」
言う事を聞かないらしい式神の気持ちがほんの少し判ってしまう気がする
彼女の頭の上の耳やふんわりと伸びた尾は少々威厳に欠けるというべきかなんと言うべきか
気配は確かに九尾のものなのであろうが、つい、それを忘れてしまう容貌であるような気もする
そんな印象であったからつい、失言じみた言葉を口にしてしまう。つい、本音が漏れてしまう性分でもあるのだが
「ありがとうございます、タマモ様
はい、シェンヤンから先日罷り越しました…慣れぬ地でございますからご迷惑も掛けましょうが、何卒…」
ぺこり、と再び頭を下げるのは職業柄
見習い、とは言えども王宮、後宮で失礼を働けば、主人にまで咎が及ぶ
その辺りはどうやらしっかり教育されている様子
自慢気に尾を揺らす彼女を立派でございます、と眺めていたが何事か気がついたか、ささ、と何処からか
櫛を取り差し出すと、誰が聞いているわけでもないが、手を翳しこそり、と小さな声で
「タマモ様、毛並みが少々乱れて…」
とこっそり伝えるのである。これもまた職業病みたいなもんであった
■タマモ > 値踏みをする、と表現するならば、確かに正しいのかもしれない。
但し、お互いの値踏みをする、その意味合いが少々違えているだろうが。
少年が、種としての物珍しさから、少女を見ているならば。
少女は、目の前の少年を、少年として見ているのだ。
「あー…いやいや、それは関係ないと思うぞ?
昔っから、こうなってしまうようでな? どうやら、少々不得手らしいのじゃ。
…とは言え、やるだけやって、こうなっておるんじゃがのぅ。
話通りなら、遊べる相手も居ったはずじゃったが…これは、仕方在るまい」
もしかしたら、それも理由かもしれないが、実際は違う。
言葉の通り、昔から式にしても、そんな感じだったのだ。
ただ、うん、誰に言っても納得されるかもしれないのが、ちと虚しい。
「なるほどのぅ…妾も、ティルヒアから来た身じゃ。
早いか遅いかの違い、そんなもの、気にせんのが一番じゃろう」
頭を下げる少年に、少女は変わらず手を振って応える。
こうしたところに、教育の違いが見受けられるのだろう。
見た目は、一応…こちらの方が、僅かながら上なのに。
と、櫛を手に、何やら伝えてくる少年。
軽く、思案するような素振りは見せるのだが…
「ふむ…触れたいならば、素直にそう伝えれば良い。
この尻尾のもふもふした心地良さ、妾とてよぅ分かっておるからのぅ」
とか、その理由もあるのだろうが、それもあるだろうと。
適当に当たりを付けて、そう言ってみようか。
別に、触れられると分かっていれば、触れられても大丈夫なのだから。
■イズナ > 相手は九尾、自分程度の小物などに普段であれば目もくれぬ大妖怪である
彼女が何やら視線を向けてくるのも気まぐれというか状況が作り出した偶然なのだろう、そんな軽い気持ち
暇つぶしに牙を剥く、なんて可能性も無くもないのだろうが、そのつもりならとっくにやっている………ハズ
「…まあ、誰しも得手不得手ございますから
九尾を持つお狐様にも不得手があると思うと何やら少し、親しみが湧く思いです
式とは言えど、心はありますから寛容なお心持ちで接すればよろしいかと…」
九尾の狐にすら不得手があるらしい、と判れば僅かばかりか口元が緩み笑みを浮かべる
遊べる相手がつまるところ、公主の装飾を盗んだ下手人のことなのだろうが、
その姿がないのが残念なのは自分も同じであったから、同意するように静かに頷いて
「タマモ様も異邦からいらっしゃった方でしたか
…王国は、真に活気のある国でありますね…良くも悪くも、ですが…」
ティルヒア、という国は聞いたことしか無いが確か、王国と争った国であったはず
どのような経緯で彼女が王国にまで流れてきたか、とても興味があったが、
あまり詮索するのも礼に失すると考え、何気ないこの国の感想を述べる留めて
思案顔を浮かべる彼女にはた、と手を止めるが彼女の言葉を聞けば、眼を丸くして
今度は此方が思案顔を浮かべる番であった…数瞬、言葉が止まり再び口を開く
「確かに触れたくない、と言えば嘘になりますが、実際、この部分、少々…いえ、気にするべくも無い、程ですが…
九つの尾を持つ程のお方には、身なりにも気を使っていただきたく…」
ぴ、と彼女の尾の乱れている『らしい』部分を指差す
一見、何の事はなく、綺麗な毛並みなのだが、この執事には乱れて見えるらしい
そう指摘しつつも彼女の許しが出るまで決して触れない辺りがこの執事見習いであった
■タマモ > そう、少女の行動は、すべて気紛れ。
ただ違うのは、少女は見た目判断はしない、ただ力がないだけと目をくれぬ事もしない。
極一部を除き、本気で牙を剝く事もないのだ。
「それは当然じゃろう、不得手を一切持たぬ存在なんぞ、居る訳が…えーっと…多分、ない?
ともあれ、得手不得手を持ち、それに親しみを持つのは、分からんでもないのじゃ。
うむ、そうじゃな、心があるのじゃ、妾を顎で使う事も、時にはあろうて…」
少年の言葉の同意を示すような、そんな言葉を言い掛けるも…
言い切る前に、何を思ったのか、疑問符が付いた。
そして、続く言葉に頷きながらも、そこから後の言葉は、いや違うだろう、それは?と、突っ込みの入りそうなものだった。
遊べる相手に関しては…まぁ、居ないものはどうしようもない。
相手も、居なければ目的が果たせぬのだ、同意するのは当然か。
「そうじゃな、ティルヒアも、ここに来る前に流れ着いた場所、ではあるがのぅ?
王国に限らず、どこもかしこも、似た様なものじゃろう。
良し悪しのある点では、な?」
ティルヒアに居て、王国に居付き、シェンヤンも、魔族の国も、そこら中を巡っている少女だ。
その点においては、少々呆れた様子で、肩を竦めるのだ。
「………そう、なのか?
結構、気を使っておるんじゃがのぅ。
確かに、手入れ等は、余りしておらんが」
触れたかったのは、まぁ、良しとしよう。
しかし、普段から見慣れている為か、少年の指す僅かな乱れ、が分からない。
はて?と、尻尾を動かし、目の前に寄せては確かめる。
………うん、分からない。
「仕方無い、そう見えるならば、そうなんじゃろう。
出来るのならば、任せるのも良かろう」
と、そんな結論に到る。
指したであろう、その尻尾をゆらりと揺らし、それを整えるのを、少年に丸投げした。
■イズナ > どうやら、この九尾さまは部下からしてもやはり親しみやすいようであった
自分は調伏した鬼や妖怪に顎で使われた覚えはないが彼女は想定の範疇らしい
そんな親しみも寛容さと言ってしまえばそうであるとも言えない事もないように思う
「タマモ様が従者の前で忙しく働く所も見てみたくはありますが
何卒、従者には寛容さと厳格さを上手に使い分けますようお願いしたく…
……従う相手が色魔好色、頭お花畑では従っている方も何やらうんざりしますので」
何やら私情を挟みまくった忠告であった
身の上の事であるから真に迫った声に聞こえたかもしれない
実際、寸前まで何やら愛らしく彼女が顎で使われている様子を思い描いているらしく柔らかな口調であったが、
自分の主人が想像を塗りつぶし、忠告を発するに際してピクリとも表情が動いていないのである
「左様でございますか…それを聞くと、いや、故郷のお山が恋しくなってまいります
自然豊かで人も少なく、良い所でございましたので…」
呆れる彼女を見れば何となく想像はついた
彼女ほどに見聞が広いわけではないけれど、どこも王国に似たりよったりと聞けば思い当たる事もあり
彼女と同じように何やら嘆息してつられたように肩を竦めて見せて
「…公主様にお仕えしておりますと、身嗜みに関しては少々目端が効くようになりますから…
タマモさまも…女性ですから、その点、今少し気を使っていただければこれ幸い
男の身からしますと女性は幾ら美しく、可憐であっても良いものですから…」
失礼をして、と一声掛ければ膝を折りそっと揺れる彼女の尾を手を伸ばし、
乱れていると指摘した部分を毛並みに沿うて二度、三度と軽く櫛を通して整える
ふう、とやりきった顔に笑みを浮かべて立ち上がり
「女振りが上がりましたな…いやあ、満足、満足
むさ苦しい場所なれど、ぱあっと華やいだようです、はい」
ふふーんと満足気に鼻を鳴らし、再び彼女に視線を向ける
他にも正したい、整えたい場所が無いわけではないが流石にこれ以上は、と控えるのである
■タマモ > 少年の言葉に、ふっと、今までの事を思い浮かべてみる。
色魔好色…あ、よく気紛れに、出会った相手と遊んでいる、当て嵌まってる。
頭お花畑…は、よし、これは一応は大丈夫そうだ。
己の事はさて置き、実際、それが主人だったらと思うと、確かに複雑なのかもしれない。
「ふむ…まぁ、確かにそう言われてしまえば、そうやもしれんな。
そう考えれば、妾はまだ良いのやもしれん、うむ」
腕を組み、少年の意見に、納得半分で答えて。
その考えと、己の行動を重ねてみれば、一部重なってる気がするが…気のせいとしておこう。
にしても、うん、この少年も色々とありそうである。
「ふむふむ、山は良いぞ。
お主の言うように、自然が豊かであれば、尚良い。
本来、ヒトと言うものは自然と生きてきたものじゃからのぅ。
一度、原点回帰でもしてみれば良いのじゃ」
はふん、と軽く溜息。
文明や魔法が発達し、何でもやれるようになる程に、生きてゆく事の有り難味が失われる。
そして…自身を滅びの道に近付けるものなのだ。
少年の言葉に、少年とは違うものを見ながら、そう答える。
ちと深く思考を巡らせ過ぎた、そろそろ、それは止めよう。
無駄に難解な思考を、そうして振り払う少女であった。
「誰かに仕えるのは、色々と面倒そうじゃのぅ。
にしても、そうしておれば、些細な事にも注意が向くものなのか。
妾には、とても真似なんぞ出来やせん」
少年の心配もどこ吹く風、理解は示すも、己にそれは出来ないとあっさり言いのけて。
尻尾に触れ、毛並みを整える少年の好きにさせていく。
すぐ終わったか、立ち上がる少年を見遣れば、どこか遣り遂げた表情。
あ、この少年、仕事人だ。
とか何とか、頭に浮かぶ少女であった。
「さて、何も無く、諦め掛けておったところじゃが…
意外と、面白い出会いもあったものじゃ。
妾は、そろそろ戻るとしよう、お主も戻るか?」
ぐ、ぐっと体を右に左に回し、体を解しながら問う。
少年が、ここでどちらの答えを出そうと、己は帰るだけ、なのだが。
■イズナ > 言葉を紡ぎながらも時折、彼女に向けられる視線は鋭いものであった…元々、目つきが良くないのもあるのだけど
思うに自分の口にした悪態が彼女にも当てはまるのだろう、と何となく察してしまえる程度の
観察眼を持ち合わせているらしく…箴言すべきか否か、一瞬悩むも結局、笑っているだけであった
その反面で大妖怪ですら遊んでいるのだ、という一寸した失望みたいなものが胸中に去来したが、
見た目通りであるのならば彼女とて遊びたい盛りなのであろう、と微笑ましさが勝ち、
つい笑い声が溢れてしまい、それを何とか誤魔化すイタチであった
「何やら含蓄のある言葉ですね…
僕も生まれ育った場所ですから山や自然も好きですが、ゴミゴミとした街中も嫌いではありません
山の中では決して学べなかったことも御座いますから」
確かに人手の届かぬ山中にて、仙術を始め様々な事を学んできたが、
そこでは得られなかった事を王都や人界で学んだこともまた事実であった
何より、街は賑やかで良い。美味しいものもそりゃあたくさんあるのである
「オススメは致しませんね…僕も老師に言われなければ、人に仕えることなどしなかったですから…
やはり、学ぶことも多いですが、それより苦労の方が余程多いかと」
立ち上がりやり遂げた顔を浮かべると、お手間を掛けました、と軽く会釈をして
やはり、元が良いとあまり手を掛けなくても良いな、なんて事を考えてしまう
贅沢を言えばあれや、これやと着せてみたりしてみたくもあるが、まあそれは出過ぎたマネ、というやつである
「では、街道筋までお送りしましょう
僕はそこからまた、探索に戻らねばなりませんが…タマモ様でしたら如何様にもなりますでしょう」
結局、自分の仕事は完遂されてはいないのである
恐ろしい者であろう、と思っていた九尾の狐は思いの外、親しみやすく愛らしいお方であった
それは『面倒この上ない仕事』のささやかな報酬の先払い、とでも思えばもうひと頑張りも出来るであろう
―――そんな風に思いながら彼女を先導するようにして廃れた屋敷を後にするのである
ご案内:「九頭龍山脈 山中」からイズナさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山中」にイズナさんが現れました。
ご案内:「九頭龍山脈 山中」からタマモさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山中」からイズナさんが去りました。