2020/05/24 のログ
■紅月 > 「おねーさんに、まっかせなさーい!」
えっへん。
得意気に張った胸が揺れる。
普段知人には何故か何かと年下扱いで弄られがちな己の、貴重な姉ぶれるタイミング…口許が緩みそうなのを堪えつつにティアフェルの視線を辿って敵拠点を眺め、僅かに肩を落とす。
「やれ、何処の山賊砦も代わり映えしないなぁ…
砦に近付いたら物見の櫓や岩影の隙間、気を付けてね?
弓で狙撃されてー…なんて事がよくあるから」
山賊の人数や熟練度的に、そこまで警戒する必要があるかは微妙なところだが…まぁ、痛い思いをするよりはよかろう。
ティアの半歩程前を、やはり何処かのんびりと歩を進めながら話す。
「どんな絵が描かれてるのかしらねぇ…
絵画を見付けたら運ぶのは任せちゃってもいいかしら?」
そうしたら、絵画も彼女も丸ごと守れる。
ティアフェルの預かり知らぬ所ではあるが、紅月にとってティアフェルは"自身とスタイルの近い後輩"なのだ。
アタッカー気質の後衛、治癒術という専門分野の後進。
面白そうだと二つ返事で請け負うくらいにはこの依頼を楽しみにしていた。
…正しくは、後進育成を楽しみに、であるが。
■ティアフェル > 「おねーさま、スッテキーィ」
うわぁーい、山賊のアジトにカチ込むノリじゃねえーと思いながらも軽い調子で乗っかっていく。
誇らしげに宣言する彼女に、けらけら笑いながら、もうこれで潰される山賊もお気の毒なような気がしてきた。しかし、こんな依頼内容でなんだが、楽しくやれそうな仕事であることは間違いないので声も弾む。
「そーね……少人数構成で実力も最下位ってことなんで、見張りの狙撃手がいるかどうかだけど……いた場合危ないものね。気を付けます」
ふむ、とここでようやく真面目な表情になって真摯に肯いた。なるべく目につかないように草葉の影を選んで移動しながら少し前を歩く彼女の指示を了承して。
「わたしの予想では、家族とか恋人とかの肖像画か、描いた画家の遺作とかかなと。
了解、そんなに大きなものでもないらしいんで運搬はわたしが」
前衛も齧っている後衛……そんなタイプの女性冒険者二人、という珍しいコンビ。連携の取れなさに定評のあるヒーラーだったが、今回はなんだか上手く行きそうな気がしていて。やがて慎重な進みながらも砦の前までやってくれば、物見に設えられたバルコニーのような岩肌から突出した箇所で見張りをしている……と思しき人物が、ちょうどうつらうつらと船をこいでいるのが見えた。やる気のない不寝番である。声に出さず、あれ、と指差せば魔法の有効範囲はどうか、と確認する。数メートルは離れているが飛ばすことは可能かと。
■紅月 > 緊張感は、まるで無い。
故に標的への殺気も何もない。
…仮に警戒網があったとしても、この緩さでは引っ掛かりようも無い。
まるでただの散歩のような女二人は少しずつ、確実に、砦への距離を詰めていく。
視線は真っ直ぐ、砦の方へ…他の余分なものを見ない代わりに、周囲に小動物の気配しかないことを確りと確認しながらに。
「あら、なんかロマンチック。
重そうだったら遠慮なく言うのよ?
静かになるまで一旦隠しておくって手もあるからね~」
だいぶ砦との距離が近づいても、この調子。
…しかし敵を前にすれば、吊り上げたように唇が弧を描く。
「【運べや運べ、風の民】【砂持つ小人よ眠りを運べ】
【静かにそよげ、夢の先まで…】
…風の魔法の応用編、うまく使えば飛距離延びるのよ。
アレなら丸一日は何しても起きないわね」
ころころと愉快げに小さく笑い唱える、複合詠唱。
まるで砂埃が風に浚われるようにふわりと流れて既に夢うつつな見張りの男を包めば…カクン、と、遠くからでも男が頭を垂れるのが見えた。
■ティアフェル > 油断は命取りになるが、無防備という訳では決してない。飽くまでも余計な緊張感がないだけのコンディション。最初はマジでどうかな…と思ったが、短いこの時間で、相手のことを観察して、しっかりを辺りを警戒しながら慎重に向かう歩調や視線などで信頼感が生まれる。
会話の中でも、頼れるのもあるが、それよりもあっさりと他者を見捨てたり裏切ったりはしない、そういう基本的な面で安心感を持てて。
「うん、無理はしないわ。一応わたし達――山賊狩りに来てるんですもの。
危険なくらいなら絵は隠すし、命の問題になれば奪還も諦める」
最優先は依頼の達成はもちろんのこと互いの身の安全。神妙に肯いて返し。
そして、こともなげに複合詠唱という離れ業をあっさりと行使してしまう様子に目を丸くした。
「す……ごい……やばい」
思わず小さく呟いては、技が確かに効果を発揮し見張り役を落とすのを認め。
「っし、じゃ……カチ込みますか」
表情を引き締めて一歩踏み出した。
夜通し強奪やら酒宴やらで騒がしい山賊砦は早朝のこの時間がもっとも静まり返る頃合い。故に、近づいたとて中からは物音はほぼしない。
砦の入口を確認すれば、そちらへ警戒は怠らず。近づいて発動する仕掛けや罠などがないことを見定めながら進んでいき、さすがに錠が掛かっている扉に、
「ちなみに――開錠は……?」
そんな都合のいい魔法があるのかどうかだが。なければ一応開錠を試みるか、壊すかしかない。
■紅月 > 彼女の表情が、少しずつ少しずつ変わっていく。
最初は驚愕と疑心と、何よりも困惑…ごちゃ混ぜな色が溶け合って、たった1つの確かな色に。
…何だか神妙に頷かれれば、
「諦めるじゃなく"再挑戦"よ?」
なんて、まるで失敗する気がない当然の事のように返して。
「いざ、敵陣の真っ只中へ~。
…んふふ。
こんな普通すぎる鍵、"彼ら"が開けられないとでも?」
紅月が手ぶらだったのは、あまり物を必要としない為…と、それをティアフェルが知るのはギルドへ帰った後になるが。
ひゅるり、と、二人の間を一陣の風が通り抜ければ。
…カシャン。
小気味良い音と共に錠は外れていた。
「古今東西、妖精達はみーんないつの間にか家の中に居るからねぇ。
任せておけばお手のものよ」
腕がいいのか他力本願なんだか…鍵の外れた錠前を撤去しながら事も無げに。
…きっと魔力を持つティアフェルにも届くだろう、囁くような小さな笑い声が。
■ティアフェル > 再挑戦、という表現に一瞬虚を突かれたように目を丸くした後、自然その目は細めて綻ばせると肯きを返して、同意を示した。
「そーね。リトライすればいーんだわ」
そして、砦の入口まで来ると振り向いた彼女が自信ありげに笑う。返事を聞いたかと思ったその後には、もう小さな音を立てて錠が上がっていて――
「っはあぁぁ……すごい。すごいすごいッ。精霊使いって無敵ね。何か困ったことがあったら相談しようかな」
手際の良さにすっかり感心して、小声ながらも素直な賞賛を口にし。すっかり頼れるお姉さんというポジションが固まる。耳をほんのりと擽るような仄かな笑声を聴いて、僅かに口元を綻ばせた。
そして、いざ敵陣へ乗り込んでいく――
■ティアフェル > ――継続予定――
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」から紅月さんが去りました。