2020/04/17 のログ
ナラン > 答えが返ってきて、初めてその鞍に括りつけられたものに気づく。
紅く、甘美な色を滴らせるそれを見て、一瞬女が目を細めたのを男はどう、捉えたか。

―――雪柳の匂いに巻かれていたせいか。
今更ながらに血の香りを鼻腔が捉えて、こくりと喉が鳴る。
―――苦笑が漏れる。勿論。己自信にだ。

「キマイラとは、恐れ入る…。
 それはお疲れであろう。今から急ぎ森を抜ければ―――そうだな、昼前には王都には着くのではないかな」

そう言って、近道と思しき方向へと指を巡らせる。
その手は次に無意識に、渇きを覚える喉へと添えられる。

「……私は、この辺りで暮らしている。
 今は夜の狩りに出ていたところだ」

相変わらず、声に感情は乗らない。
気遣いの響きには、女の口元が自嘲めいて微笑っているのが映るだろう。

「―――…早く行った方が良い。
 キマイラとは言わずとも、この山は山賊も多い。
 珠には、ヒトのほうが魔物より、手ごわいからな」

獲物を逃したことは言わない。
―――貪る姿を見られる可能性を、少しでも減らすために。
そう言って女は、騎士を見送るかのように佇む。

アルヴィン > ぼたり、ぼたり、と未だ乾かぬ血が滴る。
魔獣の血だ。
ただのけものよりは遥かに『力』を持つ、それは魔獣の血だった。

「そうあれかしと…近道をとったのだ。迷ったらどうしようかと思ったが…どうやら無事に正しい道をたどれたようだ…」

礼を言う、と。指し示された方へと瞳を馳せて騎士は告げた。
そのまま、馬へと柔らかく、騎士はゆこう、と囁いた。
どこか不承不承、というように。軍馬は再び蹄を鳴らした。

そして騎士は、女の側へと至った刹那に、告げたのだ。

「…確かに…魔物などより真に恐ろしいのは人間なのかもしれぬ。
 時に…狩人殿。何かこのおれに…お手伝いできることはあろうか?」

見れば、『狩り』の邪魔をしてしまったようだ。
そう、騎士は告げる。血を見て、色を変えたその表情。
それを騎士はどう見たか。
ただ静かに問う言葉に、女がどうこたえるのだろうと、静かに騎士は馬上に佇み、女の答えを待つかのよう…。

ナラン > 魔中の血は紅く、根太の張った地面へと跡を残す。
気付いてしまえば、その香りは女をどこまでも狂おしく誘う。
そちらへ視線をやるまいと、白い姿を追っていた鳶色の瞳が……

騎士が傍らに至った時には訝し気に、言葉を耳にしたときは軽く見開かれる。


「―――……」

何か紡ごうとした唇が、半ば開いて、また閉じる。
――――ヒトに気取られては、いけない。

(――――気を付けなくては、いけない)

数舜の後、苦笑気味に顔を歪めて、馬上の男を見上げるだろう。

「―――いや、お気遣いは有難いが。
 先を急ぐ身に迷惑はかけられまいよ。獲物が得られずとも、まあそういう日もある」

そう言う言葉はおどけたような響きをさせて、大袈裟に肩をすくめると、うっすらと笑みさえ浮かべて彼へと見せよう。

アルヴィン > 「…然様か」

一瞬、騎士のその面上にどこか切なげとも、苦し気ともとれる色が過ってゆく。そして騎士は、馬上静かに吐息をついた。
深く、大きく、ゆっくりと。

「…ひとには各々、征かねばならぬ道があり、闘わねばならぬ場があろうと存ずる。ではあろうが…困った時は相身互いとも言おう
 次は…差し出口の余計な手出しではなく、貴女をお助けしたいものだ…」

ブルルル、と首を振りつつ軍馬が鼻を鳴らしたのが、どうにも騎士の言葉への合いの手、相槌のようで。
そんな仕草に苦笑の色を過らせた騎士は…。

指し示されるがままに獣道を西へと向けて、王都へと向けて森を去る…。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からアルヴィンさんが去りました。
ナラン > 深く、ゆっくり
吐息をつく馬上の姿を、鳶色の瞳は何とはなしを装いながら、奥に鋭い光を乗せて見遣る。

「―――……」

返された言葉には返事をしない。
否、返すべき言葉を探っているうちに彼は背を向け、そうして女は言葉を無くしてしまっただけだ。

また森の獣たちの気配だけに戻って、立ち尽くす女はしつこく鼻腔に届く魔獣の血の香りに顔を顰める。
そうして今一度、騎士が去った方を眺めてから
踵を返し、森の闇の奥へと……

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からナランさんが去りました。