2019/11/04 のログ
エリ > 「お風呂入りたい!あたし温泉に入りにいこうかと思ってたんだ」

もう少し謙虚さがあっても良い気がするが、なにせ魔族で他者との交流が少なかった生活。
初対面どころか一言二言交わした程度にもにもかかわらず親切な相手に甘えきって、ピンクのツインテールを揺らしながら能天気な声を響かせる。

女性と少女の二人組。
山賊の餌になりそうだというのに、偶然なのか、それとも鬼の実力を知る者がいるのか、無事に辿り着いた小屋。
見れば他にも生活している人々がいるような場所で、山中の地理も把握していない少女は物珍しそうに観察しながら一軒へと入っていく。
入浴が目的だっただけあって、思わず隙間から見えたお風呂と思しきテラスの向こうを見入ってしまったけれど、促されて椅子に腰かける。
それでも視線が部屋の中を巡っているのは落ち着きのない証ともなっていようか。

「うん。なんでも飲むよ。お姉さんも一緒に食べるなら、なにか食べたい」

接客のため仕方ないとは言え、相手のことを知って話をするのが一番の目的だった彼女としては、出来るだけ近くにいて会話に付き合ってほしい。
相手も腰を落ち着けられるティータイムが待ち遠しくて、両足をぶらぶらさせて視線で女性の背中を追う。

「お姉さんの名前は長いけど、呼ぶときはどこかで切って良い?どっちかが姓でどっちかが名前なの?」

自己紹介を受けてもお姉さんと呼んでいたのはそういった理由で、準備を待ちながらたわいなくも初対面ならありがちな会話を小屋の中で弾ませる。

刀鬼 紫沙希 > 「おお、そうかそうか。
風呂の良さが分かるとは感心だなあ。
何なら先に風呂に入ってもいいぞ?
沸かすのは簡単だからな。」

長い頭髪を揺らし、はしゃぐ少女。
鬼はそんな少女の要望に嬉しそうであった。

この山ではまともに話ができる相手は少なかった。
どちらかと言えば刀で会話した時間の方が長かったかもしれない。

「それじゃあ食い物も出すとするか。
お嬢ちゃんの口に合うと良いんだがなあ。」

鬼は氷を入れた大きめの湯飲みに急須からお茶を淹れる。
茶の熱で氷がパチパチと弾ける音がし、茶の香りが漂った。
戸棚に入れていた饅頭と、茶を食卓に並べる。

「姓が刀鬼で名が紫沙希だ。
どっちでも呼びやすい方で呼んでいいぞ。」

少女の向かいに腰掛けては、食べるように勧める。

「お嬢ちゃんの方ではあまり見たことない物かも知れんがな。
所で、俺の話を聞きたいんだっけか?
何から話そうかな。」

鬼は茶を啜り、天井を見上げた。

「そうだな、俺の家は貿易をしていてな。
外国の商品なんかを売り買いして飯を食ってるんだ。
欲しいのがあれば、屋敷に来た時に分けてやるぞ。」

エリ > 入浴したいのは山々だったが、それより魅力的なのが目の前の女性となっている。
今は行ったことのない国出身で、接したことのない種族で、親切な彼女と一緒にいたい。
口はうるさいものの、立ち上がることもなく良い子にしていたサキュバスの前に出されたのはこれまた見たことのない種類のお茶と茶菓子。
輸出入により異国の物が気軽に手に入るようになってはいても、そもそも行動範囲の狭い少女が知っていることなんてたかが知れていた。

「じゃあ紫沙希お姉さんって呼ぶことにする。いただきまーす」

馴れ馴れしく名前をとり、そして遠慮なく饅頭にかぶりつく。
もしゃもしゃと頬張ると、王国のデザートに比べると落ち着いた甘さのなにかが舌を包んだ。
次いで不思議な香りのするお茶を飲む。
啜るのではなく、ごくごくと飲む。
わびさびというものについては身についていない。
紅茶の渋みとはまた別種の渋さはあるけれど、茶菓子に合う味だというのは魔族にもわかった。

「おいしー♡少し苦いけど、好き!」

美味しいものはぺろりと食べてしまう性分で、話がまだ始まってないうちから茶菓子は胃の中に消えていく。
しかし食べ物ばかりに執着しているわけでもなく、やっぱり一番はお姉さんの話。
思い出す様に見上げるその顔を見ながら、嬉しそうに目を細めた。

「じゃあ紫沙希お姉さんは仕事のためにこの国にきたの?
 あたしは……生まれた国とこの国以外知らないんだ。
 きっと外国には面白い物がたくさんあると思うけど、どういう物があるのかすら想像出来ない」

この鬼のお姉さんは広い世界を知っている。
そう思うとますます言葉にも深みが増してくる。
自分の知らないものを教えてほしくて、ピンクの瞳が爛々と言葉の先を急かし。

刀鬼 紫沙希 > 少女は愛くるしく、そして子供らしく勢いよく饅頭を食べている。
鬼は少女がどのような反応を示すか少し気になっていた。

鬼が普段食べるものはマグメールの人からすれば変わった物が多く、
恐らく少女が経験したことのない味である。

「そうかそうか、口にあったようで俺もほっとした。」

無邪気に平らげてもらい、鬼は破顔する。
少女より少し遅れてだが、饅頭を平らげては甘くなった口の中を茶で流す。

紫沙希お姉さんと呼ばれると、少しこしょばゆい。
日ごろは荒くれの相手をしている鬼、可愛い相手との会話は久しぶりだ。

「そうだ、こっちの国は豊かと聞いてな。
実際、相当に豊かだ。
おまけに目立つようなことをしなければ俺みたいな異国の出身でも暮らしていける。
エリも派手な立ち振る舞いをしないように気を付ければ大丈夫だろうな。」

鬼は茶を啜っては、キラキラと輝くエリの瞳を覗いていた。
どことなく、魔族の雰囲気を漂わせているがとても無邪気だ。
汚れを感じさせない様が眩しく感じられる。

「俺が腰に差している武器も外の物だな。
刀って言って、こっちの剣みたいなものか。
あと、今着ている服も異国の服だ。」

鬼は立ち上がると、自らが着流しを見せるようにくるりと回る。

エリ > 少女の前には綺麗に空になった皿と湯飲み。
お世辞ではなく、本当に美味しくて食べ切ってしまった証。
こんなに美味しい物がある国からきたのだから、他にも面白い物がたくさんあるんだろうと想像出来る。
王国に憧れを持って渡ったが、他にも足を運んでみても良いかもしれないとこのとき初めて思わせてくれた。

「うぐ……紫沙希お姉さん、あたしが人間じゃないこと気づいてた……?
 でも紫沙希お姉さんも目立つよ。背が高いし、おっぱい大きいし、綺麗だから」

こちらの立ち振る舞いについての忠告に、暢気なサキュバスでもさすがに気づく相手の洞察力。
けれどこの短時間でも親切さが本物だということは感じ取ることが出来て、警戒することはなかった。
むしろ気を許して付き合いたいのなら暴露したい気分だから、ちょうど良い。
そしてまるで自分は目立たないと言っているかの様な言葉には少々異議を唱えるのである。
実は、服も独特だし――と加えようとしたのだが、それより先にきちんと見せてくれた。
王国の服もいろいろあるのを見たが、そのどれにも似ていない。
昨今王都で頻繁に見かけるシェンヤンに一番近いイメージだろうか。

「ドレスとは違うけど、紫沙希お姉さんが動くと裾が軽い感じでひらひらしてすごく良いと思う!
 じゃあ……じゃあ、いつか紫沙希お姉さんのお屋敷に行けたら、あたしの背に合う服もあるかな。
 でもそのときには代わりになにかあげられるように用意しとくね。
 紫沙希お姉さんの好きな物はなぁに?」

今夜はうっかりもてなされるばかりだったけれど、少女だって相手を喜ばせたい。
遠慮ではなく、寧ろ自分がそうしたいという欲求でそんなことも言ってみたりして。
温泉宿での暇潰しは、それよりずっと思い出深い出来事に変わり、一晩楽しく過ごすのだろう。
きっと念願だった温泉も経験して。
王国で出来た初めてのお姉さんという存在に、交友関係が狭いサキュバスが浮かれたことは言うまでもない―――。

刀鬼 紫沙希 > 湯飲みが空になれば、急須を傾け茶を注ぐ。

こんなに喜んで貰えるのなら、もう少し用意しておくべきだったかと心の中で鬼は嘆いていた。

「あまり口にする気はなかったが、こっちの国は悪い奴も居るからな。
エリみたいな可愛い子は特に用心した方が良いだろう。
俺か? 残念ながらエリと違ってモテたりはしねえからな。」

可愛いエリに容姿を褒められると、頬が赤くなってしまう。
鬼からすればエリの方が余ほどかわいい。
だからついついおせっかいを口にする。

ゆっくりと一周しては、あまり見せれたものではないとばかりに着座する鬼。
何事も無かったように茶を啜るのは恥ずかしかったからだ。

「エリが来てくれた時に好きなのを持って行っていいぞ。

…俺の好きなモノか。
直ぐには思いつかえねえな。」

エリに似合いそうな服も色々あったなと、頭の中で着せてみた光景を想像する。
小さめの着流しを着てははしゃいでくれる姿が間に浮かびそうだ。

お返しと言われば、鬼は困った顔を僅かにした。
正直なところ、エリと遊んでいるだけで十分に楽しいのだった。

この後は温泉や、布団での睡眠を経験してもらい。

可愛いエリとのひと時に、心が安らぐ鬼であった。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からエリさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」から刀鬼 紫沙希さんが去りました。