2019/09/24 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」に影時さんが現れました。
影時 > ――欠けた月が傾き、寝転ぶように夜空に架かる。

気づけば夜だ。暇潰しに結跏趺坐し、暫しどころか存分に時間をかけて瞑想していればこの時間だった。
或いは居眠りしていたともいう。別段、そうであったことそのものに困りはしない。
不意を打たれることがあれば自ずと躰が動くとはいえ、即応できなければ身包み剥がれて野晒しだ。
死して屍拾うものなしが常のことなれど、斯様な死にざまというのはそれはそれで恥ずかしいものである。
とはいえ、聊か緊張を失するというのも少々仕込みを用意していたからというのもある。

「……ふぁ、あ。良く寝たなァ、我ながら」

のっそりと地に伏せた虎が身を起こすような風情で、即席の寝床代わりにしていた岩場から立ち上がる。
微かな月明かりを浴びて、目元を擦る刀を帯びた気配の薄い異邦人の男の姿がそこにある。
ここは九頭竜山中の中腹近くに位置する洞窟――足元に見下ろせる岩場だ。
身を隠していれば、件の洞窟を眺め、監視するのには具合がいい。
何せ、麓の村の一つで洞窟に人に害為す魔物が幾体も巣食っている。退治してほしい、という依頼を受けたのだ。
よくある話だ。農作物や狩れる筈だった動物に害を為し、その上村の女たちも攫われたとなぞというのも、また然り。

「――……っと。おぅおぅ、案の定か」

故に魔物が活発にならない時間帯を見定めて、洞窟の入り口に罠を張っておいた。
足跡より凡その数と体格を見定め、入り口に魔物寄せの香料を入れた袋と首の高さに引っかかるよう極細の鋼線を仕掛けておいたのだ。
微かに鼻をひくつかせれば、薫る臭いに肩をすくめて危なげなく斜面を滑って洞窟の入り口近くまで降りようか。

影時 > 「死んだ同胞の骸と見えて、動かぬは善し。……そうさなぁ。ン? 
 見えぬ危険が其処に在ると読めるならば、容易く動かない方が正しいと云えば正しい」

月明かりに微かにぬらり、と僅かに光るものを受けて、洞窟の入り口に数条張った鋼線が垣間見える。
その向こうにぎらぎらと見える瞳の主たちは、己と比べて大柄も居れば小柄もある。
此方のコトバで云えば、「でみひゅーまん」なる魔物の類だ。
概して言えば、一体単位は弱い。だが、数と知能で云えば集まれば集まるほど骨が折れる。
彼らの動きが活発化する夜を迎える前までに、巣食うと聞いた洞穴の周囲を探索し、他の進入路がないことを確かめて罠を仕掛けた。

「蟲潰しよろしく毒気を焚いて、中に吹き込ませるのが一番面倒は無ェんだが。
 如何せん生き残っているかもしれんと言われたらなァ。

 ……孕まされて、人生台無しになっちまってるか、別の何かに開眼しちまったかどうかは、正直どうでも、否、あんまり善くはないか。

 さて。どうだ? 首が爆ぜ飛んででも来る勇気がある奴ァ、居ねェのか?」

顎を摩りながら、魔物達を眺め遣って声をかけよう。
己のコトバを知ってか、分かってか。彼らは猛る。唸る。叫び、鳴く。
此れが偶発的な事象でも或いは何らかの意図に寄るかどうかは、どうでもいい。
魔物の中の一体が、他のモノから押されて盾代わりにするように鋼線による結界が張られた箇所に押し付けられる。
囮よりも、強引に鋼線を破る為のいけにえとするつもりか。来るか。否か。
それを見遣りながら、耳を澄まそう。洞穴の向こうから人の声でもすれば、己は助けにいかなければならない義務がある。