2019/09/10 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にジナイアさんが現れました。
ジナイア > 山の中腹、岩棚の合間の清流が渓谷を作っている、森の奥深く。
夏も盛りは過ぎたとはいえ、夏草はまだそこここに繁り、硬い地面と高い木々の隙を付いたように生えた灌木の緑もまだまだ瑞々しくしい。
時刻は昼を過ぎようかという頃で、その緑も陽光を浴びて活き活きと辺りに色彩を添えていたはずの時間帯。
今天は重たげな灰色に覆われて、先からぽつ、ぽつ、と雫を零している。

普段、滅多とヒトの踏み入れない場所の様子とて、辺りには獣道があるばかりの其処へ、草木を揺らして現れる人影がひとつ。

「―――参ったな……」

木々の合間から漸く空を透かし見える場所まで来て、暫く止みそうにない―――寧ろ、これから激しくなる可能性を伺わせる稲光が見えて、溜息と共に声を漏らす。


ざあっ―――

前振りもなく大粒の雫が落ち始め、女は弾かれるように辺りを見回す。
地面は渓谷沿いに暫く硬い岩が続いた後、その先で大きな岩棚が聳え、天然の庇となっている場所がある。
森の中も今は木々の葉が遮っていてくれるが、時間の問題だろう。
だとすれば地面が滑りやすくなる前にと、駆け出すまでは数舜の間だったはず。
それでも、軽く息を切らして庇の下に身体を滑り込ませる頃には、黒髪の先まですっかり濡れそぼっていた。

ジナイア > 「全く……」

雫を垂らす前髪をかき上げて、庇の下から天を伺う。
今や黒く霞んだ雲の合間に切れ目は見えず、落ちて来る雨粒はそのまま白糸のように尾を引いて硬い地面を穿っている。

ばちばちと地面で弾ける飛沫に翠の視線を落とすと、熟れた唇から深い溜息を付く。
急な気温差が出来た所為か先から吹いていた風はやや強くなっているが、辺りの空気は生暖かく湿っていて、濡れた服を纏う身体に気持ちの良いものではない。
段々と小さな流れを作る地面を見つめながら物憂げな表情で長い黒髪の毛先を軽く握れば、雫が滴り落ちて足元で小さく跳ねた。