2019/06/20 のログ
ジナイア > 少し欠けた月が中天に昇る頃。
九頭龍山脈と名付けられた連なる山の峰のうち、比較的高いものの、その頂。
岩肌にしがみつくように生えていた木々さえない岩場のそこは、見通しが良く、昼日中ならは辺りの眺望を楽しむにはもってこいの場所だろう。
深夜の今は、少しひやりとする風が通るばかりで、動物の気配さえ遙か下方に置いてけぼりだ。

その、形ばかりで捉えれば閑散とした場所に、今は人影がひとつ。
斜面にも近い岩棚に腰を降ろして、少し天を青く様にして後ろ手を付いている。
黒髪に赤銅色の肌の女の姿は、闇に溶けこむ。
欠けた月の光は薄曇りに覆われて、ぼやけた薄闇の中でその翠の双眸と、耳元で揺れる金の輪だけが目立った。

「……少し、もの好きが過ぎたな…」

しばらく見上げて、一向に晴れない雲にそっと溜息を零す。

ジナイア > 『山賊街道』等と呼ばれる場所の由縁か、良くも悪くも人の手がほぼ入っていない山。
夜風の心地よいこの季節に、夜空を楽しもうと女がひとり足を向けるには聊か不用心が過ぎるのかもしれない。

(……しかし)

何事かあったのか、夜陰落ちる頃に此処へ辿り着くまで、山肌の新緑は踏み荒らされた形跡もなかった。
名にしおう『山賊』は、この季節、もっといい『狩場』へと移動しているのかもしれない…
そう、都合よく解釈して
とにもかくにも、この夜をこの場で過ごそうと決めた。

―――だというのに。

「……運が悪いな」

ジナイア > まあそういう時もある。
苦笑とも、面白がるともとれる笑みをその熟れた唇に浮かぶ。

それを言うならば、悪名高いこの場所が『安全』だと思えるのも、『そういう時もある』という事と重なるのかもしれない…

ぼんやりとそう考えて、今度は眼下へ広がる薄闇の大地を見下ろす。
遠く、王都の輝き。
近く、ハイブラゼールの煌めき。
さらに先に、月光を集めて照り返す海原と、その水平線と。

―――まあ、悪くない。

ジナイア > 初夏の陽気の中、山頂へと登った疲れもある。
その身体に、ひやりとした夜気が心地よく渡る。

女は荷物をその傍らに、寝そべると
程なく、その意識も薄闇に溶けて行く……

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山頂」からジナイアさんが去りました。