2019/03/18 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にタン・フィールさんが現れました。
タン・フィール > 薬草や香草の類いと、それらに親しい効能のキノコや木の実を詰め込んだカゴを手に、
街道をひたひたと歩く小さな人影の姿。

沈んだ夜の時間といい、この場所がヒトであれ獣であれ穏便に通り抜けることが困難なことを思えば、
か細い手足に華奢な体躯の少年が、一人でこのような山中を歩むなど、
正気の沙汰ではない。

「……~~~♪」

けれども、真っ暗な山中を淀みなく歩く少年からは、鼻歌が漏れる。

まるで、遊び慣れた庭先を散策するように軽やかな足取りで、
希少なキノコを摘み取り、魔物の血を吸い結晶となった石を広い、
この山の魔性を吸って開花した不気味な花をなんなく摘み取る。

この深夜の、この山中においては…日頃は人畜無害なこの少年も、
見るものが見れば、魔性の一人のような妖しさを放っていた。

タン・フィール > 一輪、

暗い森の中で蛍光色に光る夜光花を摘んで、
松明の代わりにすらならない淡い光のそれを手に山中の街道を歩いていく。


―――少年自身は知る由もなかったが、
先だってこの山中で強大な魔性と関わったために、
群れに手痛い損害を被った魔物の群れは、
得体の知れない無防備なヒトを条件反射で恐れて去り…

夜に紛れて獲物を待ち構えていた盗賊の一味は、
…これが昼間であったならば、あるいは奴隷市場で叩き売らんと、
人攫いの人買いとして仕事を成し遂げていたかもしれないが、

この真夜中に鼻歌交じりで夜光の花を振り回して散策する、
その無防備で場違いな幼い姿に、直感的に「嫌な予感がする」と、手を引いた。



「―――なぁんだ、遊んで、くれないの?」

と、切なげに蛍光色に光る花びらを咥え、眉を反らせながらつぶやく。

それが、魔物や盗賊たちに向けられたものか、今となっては知る術はないが…
まるで満月で満たされる人狼のように、
今宵の少年は勘も、魔力も、妖しさも、艶やかさも、
日頃の無垢な少年とは何処か別物で。

タン・フィール > 瞳を閉じる。
山脈から、王都に向かって下っていく風を感じる。
その艷やかな髪を撫でながら、露出した肩口や太腿を通り過ぎていく、
春先の湿った風を。

「……ふふっ…くくっ…」

少女のような、鈴の音のような軽やかな声色で微笑を漏らしながら、
懐から小さな瓶を取り出して、蓋を開ける。

薄紫色の妖しげな香料が、瓶の中から風にさらわれて舞い散り…
王都の貧民街・平民地区・富裕層・王城に至るまで、
薄まりつつもまんべんなく覆い尽くしていく。


…それらが王都に住まう全ての住民の鼻腔に届くほど薄まって、
風に乗せられて及ぼす作用は…

数日に渡る快眠と、日中の集中力の増強、ぽかぽかと体温を温め、
そして…老若男女の性への欲求と精力を、僅かにでも盛んにする効能。

要するに、少年は「春」の運び手となったのだ。
人知れず山から、営みを栄えさせる香りを撒き散らす、妖精のように。
明日も明後日も、王都で起こる営みの、
ほんの少しの味付けになるだけでよかった。

タン・フィール > その後、ゆらゆらと揺れる蛍光色の花は、
さらなる山の奥深くへとゆらめいて、
少年の歩幅と一緒に緩やかに奥へ…奥へといざなわれていく。

そして立ち去る。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からタン・フィールさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中 川辺」にマリナさんが現れました。
マリナ > 春めいてきた日差しが降り注ぐ日中、お出かけ先から集落に帰る途中のお話。
歩いて帰れる距離になったところで馬車を降り、冬とは違った顔を見せる山の自然と戯れていた。
戯れる――と言っても、根が王城育ち乳母日傘の王女なので泥んこになるほどはしゃげはしないのだけれど、
木々茂る中に少し入ってみたり、野草を摘んでみたり、城では経験できないこと。

――――30分ほどそうして遊び、少女は川の傍にいた。
土で汚れた指を洗えればと思ってきたのだけれど、春めく気候に誘われて挑戦してみたくなる。
靴下と靴を脱ぎ、スカートの裾をちょんとつまんで足先を――水に。

「…………つめたい」

ひやっと全身が震えるような冷たさがあり、てっきり水遊びができるんじゃないかと期待した世間知らずは残念そうに呟いた。
城を出て生活するようになり、初めての春はついつい浮かれてしまう。
冷たいと身をもって知りながら、恐る恐る両足を浸けて、1歩ずつ慎重に川の中を歩き始めた。
こうしていると少しは冷たさに慣れてくる…気もする。
長時間こうしていれば、軟弱な少女では風邪をひくこと必至な気もするけれど。