2018/08/20 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中 川辺」に芙慈子さんが現れました。
芙慈子 > この時間、山は寝静まる。
―――が、それは表向きの話。

夜目も利かない山道を歩く旅人がいれば、どこから見ていたのか
山賊と呼ばれる荒々しい男たちが飛び出てくるし、獣の多くは日中より夜間に活動する。
そして、人ならざる存在である少女も、日差しの強い時間帯より夜の帳が下りた時間を好んでいた。

しかし今日は、その闇に少々手こずっている。
不用意に足を踏み入れた場所に獣用の罠が仕掛けてあり、少女の細い足首に噛みついた。
魔の血が濃く顕れた少女とて、痛みは人間と同等に与えられる。
だが反対に、人間とは比にならない魔力を内包しているがために、傷口は治癒へと向かうはずだったのだが。

「――――獣用かと思ったら、魔物用だったのね……」

特別な退魔の力が傷口に食い込んでいた。
治る気配のない足を引きずり、川辺に辿り着いた少女は履物を脱ぎ、着物の裾を結びあげる。
膝が見える辺りに結び目を作り、ゆっくりと水に入っていった。
角の取れた石が足の裏で擦れ合うのを感じながら、傷口を見下ろす。
紅い血が川の流れに浚われていく。

「…………」

睫毛が震え、額に汗が浮かんだ。
退魔の力は結構効く。

芙慈子 > これ以上浸けていると足先まで凍ってしまいそうだ。
まだ痛み鮮やかな左足を引きずるようにして、川から上がり、傷口をよく見てみる。
抉られたような傷は川の冷たさを忘れたかのように熱を再発し、
腫れ始めているが、清廉な流れは雑菌を洗い流してくれただろう。

「…………」

ふぅ。息を吐く。
安堵とも憂いともつかない溜息を。

「残ったら……きっとお母さま怒るわ」

純血たる妖魔の母の逆鱗に触れる基準は、十四年共にいても未だ分からない。
ただ自己治癒能力が高い分、それでも残るような傷を負ったときは、不用意な振る舞いを叱られた。
今回も―――と戦慄するが、家に帰らぬ訳にはいかない。
いつもより帰宅時間の遅れた娘の姿を見た母親の反応は、はたして。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中 川辺」から芙慈子さんが去りました。