2018/03/17 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山頂付近」にルクレースさんが現れました。
■ルクレース > 雲一つない、抜けるような青が広がる空に、甲高い鳥の鳴き声が木霊する。
この国の霊峰ともいえる、九頭龍山脈は様々な恵みを齎してくれる。
山脈の中でも、一際高い山に15mほどもある、大きな白い翼と体を持つ隼が一羽、空から旋回しながら降り立っていく。
その背に、ルークはいた。
『すまないね、出産が近いというのに連れ出してしまって。』
「いえ、問題ありません。それで、今日はどうしてこんなところに?」
ルークの脳裏に、思念の言葉が響いてくるのに対して、相変わらず表情をほとんど変えずに淡々とした返事をする。
ゆっくりと旋回しているようで、隼の背で感じる風はかなり強く、髪が激しく揺れる。
旋回しながら、徐々に高度が落ちていけば一番高い山の山頂の地面が見えてくる。
そして、バサっと力強い羽ばたきとともに体勢が変わると巨大な白い隼は山頂へと降り立った。
『ほうっておいても、春はくるのだけどね。折角眠りから覚めたんだ、そして契約者もいるのだから、春の眷属としてのお勤めを果たそうかと思ってね。』
彼女――アイオーンの眷属であり、春を司る白隼ドーリス・サンファルコは、絶えぬ戦と先住民族であり、アイオーンの信徒であるミレー族への迫害への悲しみから、自らを封印して春の洞窟の中に閉じこもってしまっていた。
夢でルークと繋がりを持ち、そして自らの封印から目覚め、こうしてルークと契約を交わしている。
彼女が封印の中にある間も、季節は巡り春は何度も訪れていた。
そのことや、彼女の言葉からも春を司る彼女はシステムの一部であって全てではないことが感じ取れる。
「春の眷属のお勤め、ですか。何か手伝えることはあるでしょうか…。」
小さき神々や、妖精や精霊といったものがこの世に存在して、自然に大きく影響を及ぼしているというのは、常識ではあるものの、そういったものにあまり関わる事がなければ、一生関わる機会がない者もいる。
出会いというものがなければ、ルークもまたそんな関わる機会を持たぬままに人生を終える人間の一人だっただろう。
それ故に、少々ピンとこなくて微かに首をかしげながら、隼の背から山頂へと降り立つ。
霊峰の山頂は、ピンと空気が張り詰めるように、空気中にマナが満ちていた。
■ルクレース > 『勿論さ。だからこうやって一緒にきてもらったのだからね。』
「はい…。上手くお手伝いできれば、いいのですが…。」
ドーリス曰く、九頭龍山脈には霊峰というのにふさわしい太い霊脈が流れており、それを中心にして国中に張り巡らされているらしい。
人間の体で表すならば、大動脈ともいえるその霊脈に、春の息吹を吹き込んで活性化させるのだとか。
そうすることで、より豊かな春の恩恵を生きとし生けるものに与えることができるらしい。
「ここと、ここで最後ですか?」
彼女の力を、より強く注ぎ込むために山頂に霊石を配置して、砕いた霊石で石と石の間を結び、幾何学的な模様を描いていく。
最後の一筋を描き終えると、ルークは隼のもとへと歩み寄っていく。
『ああ、それで最後だね。あとは、ルークに円の真ん中に立ってもらって、触媒の役をやってもらえば、お手伝いは終わりだよ。何、危険は全くないから心配しなくていいからね。』
「立つだけでいいのですか?」
『そうだよ。契約者が触媒になってくれることで、より多くの力を霊脈に注ぐことができるのさ。では、やろうかね。』
ピィィーーと甲高い鳴き声をあげると、隼は空へと飛び立つ。
空中で旋回を始める彼女を見上げながら、ルークも指示された通りに描いたばかりの幾何学的な模様の描かれた、円の中心に立つ。
バサリと大きな羽音が響いて、隼はさらに空高くまで舞い上がりそして、風を翼で切り裂くようにして山頂めがけて急降下してきた。
その軌跡には、様々な春の花の花びらが舞い散り、そして――
「―――っ」
バサリと一際大きく羽音が響くとともに、花びらを纏った風が地上へと降り注ぐと、風とは違う大きな力の波動がルークの体通り抜けて、地面へと押し込まれていくのを感じた。
血が沸き立つように、霊脈の隅々まで通り抜けていく力が、芽吹きの力を、根を張る感覚を、蕾の綻ぶ音を、ルークの意識へと伝える。
「―――……。」
『大丈夫かい?』
「あ、はい…。指先まで。力の波動の余韻にビリビリしているような感じですが…。」
呆然としていた時間は、果たしてどのくらいの時間だっただろうか。
国中に意識が飛ぶような、そんな感覚から傍に降り立った隼の声に意識を引き戻されて、ルークはハッとしたように隼を仰ぎ見た。
『おかげさまで、恙無く、春の訪れの儀式は終了したよ。ありがとうね。』
「いえ、立っていただけですので。上手く言い表せられませんが、とても鮮やかな景色を見ていたような気がします。」
国中の春を、全て見てきたようなそんな心地がするのだと、礼を言う隼へと伝えると、彼女は笑ったようだった。
■ルクレース > 『さて、そろそろ帰ろうかね。こんなところで産気づいたら大変だからね。』
「そうですね。」
暫く余韻に浸ったあと、再び隼の背に乗ると隼は空へと舞い上がり、飛び去っていった。
ご案内:「九頭龍山脈 山頂付近」からルクレースさんが去りました。