2017/05/13 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にタマモさんが現れました。
タマモ > 九頭龍山脈、その奥へと続くような獣道を数台の馬車が進んでいた。
そして、その上空…黒い翼を羽ばたかせ空を舞う男と、その手に掴まっている少女。
2人の視線は、下を走る馬車に向けられている。

一言二言を交わせば、少女の表情は呆れたようなものへと変わった。
なにやら確認をする男に、少女が頷けば…一気に男は翼を揺らがせ、下降する。
勢いを殺すように地面近くで数度羽ばたき、馬車の進行方向へと少女を降ろす。
そのまま、男はその場を後に飛び去っていった。

「………」

無言でそれを見上げる少女、その存在に気付いた馬車が、少女を前にして止まった。
合わせるように、少女の視線が、その一行へと向けられる。

タマモ > 進行の邪魔となる相手が、獣の耳と尾を持つ存在。
その一行を指揮しているらしき男の指示は、その少女を捕らえろと言うものだった。
雇われの冒険者やらだろう、指示通りに捕らえようと取り囲む。
しかし、少女は慌てる様子もなく、取り出した扇子を広げて口元を覆う。
まぁ、それは想定内だ。なにせ、連中の目的は先にあるミレー族の隠れ里なのだから。
そして…その男こそ、前に式が一度見逃してやった人間だったから。

「………その阿呆に、ただ雇われた犬ならば、さっさと消えるが良い。
妾が用があるのは、その男子のみじゃ。
庇い立てをするならば…容赦はせんぞ?」

向けられる瞳が、すっと細められる。
普段少女が浮かべる、悪戯心に満ちたものではない。
現に…一部の勘の鋭い者は、その気配に後退りを始めたのだから。

タマモ > 「はした金で、己の未来を閉ざすも良し。
それを叩き返し、さっさと逃げるのも良かろう。
もっとも…お主だけは、先は無いと思え」

じわじわと、足元から這い上がるような、気持ちの悪い気配。
今やほとんどの者が感じているか、少女に背を向け、逃げていく者達が現れ始める。
また、それによって足が竦み動けない者も現れているだろう。
そんな周りの変化に何の感情も浮かべぬまま、少女はただ一点に視線を向けていた。
先ほど、その連中に指示を与えていた男に。

「………情けないものじゃ、さっさと逃げるならば逃げよ!」

辺りに響き渡る一喝。
まるで、その声に反応したように、残った連中も弾かれたように、ある者は地面を這ってでも逃げていった。
残ったのは…動かす者も居なくなった数台の馬車と、一人の男だ。
その男も、少女に対して恐怖に満ちた視線を向け、動けずにいた。

タマモ > 「妾は一度、伝えさせたはずじゃな?
弱者を売り物にするような下らぬ仕事は辞め、真っ当な仕事にでも就いておれ、と。
お主のような下らぬ存在が、人間であれ、魔族であれ、存在するから…」

ゆらりと男に歩み寄る少女、言葉を掛けながら、しゅるりと伸びる尻尾が男の首に巻き付けられる。
そして、ゆっくりと…その首を締め付け始めた。
まるで真綿で首を絞められていくような、そんな感じだろう。

「………ともあれ、運が悪いな、お主は?
こんなに月がほとんど満ちておる時に、触れてはならぬものに触れてしまってのぅ?
後悔先に立たず、そんな言葉がある。
その身に、しっかと受け止めるが良いじゃろう」

首を絞めてくる尻尾、それを両手で引き剥がそうとする男。
そんな程度の力で、解ける訳も無い。
気が付けば、少女は目の前。恐怖に歪む表情、その視線が少女に向けられる。
そして、少女の瞳も、その男へと向けられている。

「………然るべき、裁きを受けよ」

見詰めていた少女の瞳が、赤味を帯びた金色から…血のような真っ赤な色へと変色する。
途端に、びくんっ、と男の体が跳ね…意識を失い、ぐったりとしてしまう。
ふん、とつまらなさそうに鼻を鳴らせば、そのまま男をぽいっと道の端に投げ捨てた。

タマモ > 「妾からの、最高級の呪いという贈り物じゃ。
ふふ…これより先、お主はどんな相手であれ、その言葉に逆らえぬじゃろう。
例え、それが意識せずに出た言葉であれ、な?
努々気を付けて、余生を送る事じゃな」

道の端で倒れた男、言ったところで意識はないのだから、聞こえる訳もない。
まぁ、男の反応次第でまた不機嫌にさせられるのも面倒だ、これで良い。
どうせ、いずれ己の変化には気付く時が来るのだろうから。

はふん、軽く溜息をつき、夜空を見上げた。

タマモ > 「………気にいらん」

ぽつりと呟き、くるりと踵を返す。
面倒事をさっさと終わらせ、先ほどの男…式の一体を呼び、戻ろうと思った。
が、やはりそれは止める事にしておいたのだ。
何と無く、そんな気分。
木々の隙間から見える夜空、それを見上げながら、のんびりと歩いて帰ろうと思ったからで。

それに…今はきっと、自分は不機嫌そうな顔をしている。
頭を冷やす時間も必要だと、そう思ったから。
少女は、そのまますたすたと帰路に付き、歩き始めた。

タマモ > しばらくは歩みを続けていたが、ふと、少女は途中で足を止める。
改めて空を見上げ、先を進む獣道を見る。

その視線を、辺りに向け、再び前に向ける。

「………おや?」

先ほどとは一転し、緊張感の抜けた声が漏れる。
考えてみたら、来る時は空から送って貰ったのだ。
そして、自分はこの九頭龍山脈の地理なんて覚えてやしない。

軽く腕を組み、考える仕草。
まぁ、要するに…帰り道が分からなくなった。