2017/01/25 のログ
■ファトム > 「……何を言ってる?」
読めない人間だ、まるで雲をつかむみたいに。
軽口を叩けることは、まだ弱っていないことの証拠。
いつ、牙を向けてくるのかわからないから、警戒は絶対に説かない。
人間はみんな、ミレー族を奴隷だとか、使い捨てられる道具みたいにしか思ってない。
お母さんもそれで殺されたと、ますます少女は目つきを鋭くする。
だけど、人間はそれは違うという。
それは少女の勘違いで、昔ミレー族に命を助けられた。
そのお礼に、食べ物を持ってきたと言う。
しかも、奴隷承認に襲われていたところを助けたとも。
「……嘘だ!」
信じなかった。
少女はその言葉を嘘だと突っぱねて、ますます目つきを鋭くする。
警戒しっぱなし、平行感覚が元に戻ったなら、このまま飛び掛かってしまいそうだ。
ミレー族が人間を助けるのは仕方がない、人のいいミレー族ならやりかねない。
だけど、その逆は絶対にありえないと、少女は思っていた。
差し出された干し肉、それが何なのかはよくわかっている。
だが、人間から差し出されたそれを、そうホイホイと受け取るようなことはしなかった。
一定の距離を取りながら、ミセリコルデの刃を向けたまま。
「…それだって、後で仲間を連れてくるつもりなんだろ?
だからお前はここで殺す、人間なんか信用してたまるか!」
干し肉を揺らされても、少女は人間に近寄ろうともしなかった。
でも、襲うつもりがない人間を襲うのは、なんだか気が引けているらしい。
殺す、なんて威嚇しているけれど、どうしようか迷っているようだった。
■セイン=ディバン > 「ん? お嬢ちゃん、トークは嫌いかい?
それはいけない。対人関係を良好に築くには、対話は欠かせないよ?」
凄む少女の言葉に、的外れに返事を返す。目の前の少女の警戒は途切れない。
どころか、敵意、殺意、そういったものを込められた目つきは鋭くなるばかりだ。
さぁていよいよ困った手詰まりだ。口の中だけでそう呟き、男は頭を掻く。
この手のシチュエーションで、この手の相手と和解するのはかなり困難だ。
となると、強行突破するか、あるいは尻尾を巻いて逃げるか。その二者択一が正攻法なのだが。
「……嘘じゃないよ。
……というか、アレかいお嬢ちゃん。その口ぶり……。
まるで、『嘘じゃなきゃ困る』って風に聞こえるぜ?」
強い拒絶の言葉。しかし男は怯まずに、もぐもぐごっくん、と干し肉を飲み干す。
そのまま、相も変わらず干し肉をゆらゆらと差し出したまま。
男は、少し踏み込んだことを口にした。
「……なるほど。確かにその可能性もあるね。
でも、生憎と殺されてやるわけにはいかないんだけど……。
ふぅむ。じゃあどうすれば信用してもらえるかな。逆に」
少女の指摘は、否定しない。むやみやたらに言葉を否定すればいいというものでもないのだ。
そのまま、男は逆に少女に尋ねる。信用してもらうにはどうすればいいのか、と。
その目は、戯れなど一欠けらも無い目であった。
■ファトム > 「…人間と関係を持つなんて嫌だ。」
そもそも、人間と会話することなんてない。
ミレー族を襲って、奴隷にして、お金儲けにしか興味がない。
女の孔に、欲望にまみれたものを突っ込んで気持ちよさそうにする。
それが、少女が抱いている人間の完全な姿だった。
嘘じゃなきゃこまる、と人間が言った。
違う、困ることなんてありはしない。
人間のことは信用なんかできないし、信用したらまた酷い目に合う。
少女は、その恐れと集落を滅ぼされた恨み、そして敵意。
それらすべてを、目の前の人間にぶつけていた。
「なにも、困ることなんてない。
人間はみんなそうだ、優しいフリして…あとで悪魔みたいなことをするんだ。
私は、人間を絶対に信用なんかしない」
踏み込んだことを聞いてきても、少女の答えは変わらなかった。
人間は悪党、ミレー族を虐げることしか頭にない。
だから、少女は人間を絶対に信用なんかしない。
けど、さっきからその場から動いていなかった。
短剣を向けたままだけど、木の上から襲い掛かってきたような気迫はない。
少しずつだけど、この人間は襲ってこないのかも、と思い始めているようだった。
「……………なんでそんなに、信用してほしいんだ?」
むしろ、そのことが少女は気になった。
なんでこの人間は、こんなにも私に信用してほしいんだろうか、と。
そのまま立ち去ることもなく、かたくなに信用してほしそうにしている。
…よくわからない。
■セイン=ディバン > 「あらら、取り付く島もねぇなぁ」
はっきりと、キッパリと拒絶を続ける少女に、苦笑いを向ける。
だが、内心で思う、『こうして会話してるじゃん』というツッコミは飲み込んだ男だった。
もしもポロッ、とそんな事を言えば、本当に勢いで殺されかねないからだ。
面と向き合っている間。一時も揺らがない敵意。憎悪。
あるいは暴風のようなそれを受け止めながらも、男はのほほん、とした態度を崩さない。
それもこれも、男側に、少女への敵意が欠片も無いからなのだが。
……より正確に言えば。基本この男は美少女や美女に敵意を持ちにくいのでもあるが。
「あらそう……。
ん~。否定はしない。しないけど。人間皆がそうってわけでもないさ。
外道もいりゃ、良いやつもいる。そりゃ人間以外もそうだろ?」
少女の言葉は、ミレー族として考えれば至極全うな言葉であった。
少なくとも、ミレー族迫害の事実は深く傷となっているわけだし。
今時分でも、ミレー族を商品として扱う人間は存在する。
ただ、男がとあるきっかけを得るまで、魔族を敵視していたように。
そして、魔王と婚約するに至り考え方が変化したように。
男は、少女の思考と了見が狭まっているのを悲しく思っていた。
「ん? ん~……なんで、か。
あえて言うなら、ミレー族を虐待する人間は俺も嫌いだから。
んで、俺はミレー族に助けられて、ミレー族ってのに恩義があるから。
あとはまぁ、キミが飛び切り可愛いから、かな」
ようやっと動かせるようになってきた肩をぐるぐると回しながら、男はそんな事を言う。
男にとっては、いまや魔族も人間もミレー族もその他諸々もそこまで差はない。
いわゆる、種族などはどうでもいい。個人個人が良いヤツか悪いヤツか、を重視するようになったのである。
男は目の前の少女に差し出したままの干し肉をチラ、と見て。喰わないなら、俺喰うけど、いいの? と再度たずねた。
■ファトム > 「……人間みんなそうだ。」
迫害を受けていた少女の傷は、人間が思っている以上に深い。
商品にされ、体を傷つけられ、心を痛めつけられて。
やっと逃げられたと思ったら、唯一の肉親だったお母さんを殺された。
そんな少女に、人間がいくら信用してくれと言い続けたところで、無駄な努力というものだ。
敵意を持ちにくいだとか、人間のことは少女には関係ない。
人間という固定概念が、少女の中には根強く残っている。
そこに、いいも悪いも関係はない。
考えの変化を及ぼすには、あまりにも時間が短すぎる。
敵意と憎悪を向けながらも、襲ってくる様子がない人間に対して、心を開かないまでも。
これ以上傷つけるのは、なんだか罪悪感を感じ始めミセリコルデの刃が下がっていく。
「ミレー族を傷つける人間が嫌い……って、もしかしてお前、人間じゃないのか?」
だけど、匂いは完全に人間だった。
なのに、ミレー族を傷つける人間が嫌いって、ますますよくわからなくなってくる。
人間が嫌いな人間、そんなやつもいるんだろうかと、ふつふつと少女の中に疑問がわいてくる。
いいやつもいるんだという、さっきの人間の言葉に説得力が生まれ始めた。
少女は、そんな考えを追いやるように頭を振る。
そんな疑問を抱かせて、次にやってきたときはたくさんの人間を連れてくる。
このあたりのミレー族の集落を、根こそぎ襲ってあの汚い街へ連れていくにきまってる。
信用してはいけない、信用したらここに戻ってこれるかわからない。
逃げ出せたのは幸運だったと思えば、次があるなんてそんなことはない。
けど少女は、この人間の話はもう少し、聞いてみようと思った。
なんだか、この人間は他とは違う気がしたから。
「………何を言ってる?」
かわいい、その言葉がわからないわけじゃない。
けれど、そんな軽い言葉を聞くと、どうしてもいぶかしげに表情がゆがむ。
ずっと差し出されていた干し肉、それが何なのかはちゃんとわかってる。
尋ねられたその言葉、お腹が減っているのは本当。
「……………そこにいろ」
少女は、少しずつ人間に近寄った。
その干し肉が届くぎりぎりのところで止まると、ミセリコルデで干し肉を突き刺す。
そして、また距離を離す。
■セイン=ディバン > 「……」
先ほどまでの勢いこそなくなったものの。少女の拒絶の言葉は未だに強いままだ。
これだけの拒絶だ。この少女自身、随分な迫害を受けてきたのだろうな、と男は推測する。
当然、男も愚かではない。言葉だけで何もかも争いが回避できるなどという、町娘の妄想の如き考えなどとうに捨てている。
それでも、男はこの少女が話を聞き、理解してくれると信じていた。直感で理解していた。
「いや、どうみても人間でしょ。俺。
ただ、むやみやたらにミレー族を迫害、虐待するヤツは嫌いなの。
たとえばだけど、エッチが好きで、お金がほしいミレー族に、風俗の仕事を斡旋する、とか。
やりようなんていくらでもあるじゃん?」
手をヒラヒラと振りながら、人間であることをアピールする。
男が口にした、『ミレー族風俗事業』などというのはまぁ、今思いついただけの口からでまかせみたいなものだが。
口にしてみると、男自身、ふむ? と思うところがあるようで。
「何を言ってる、って。そのまんま。
キミは可愛いと思うぜ? できることなら、ラブラブにエッチしたいくらいだ」
相手の言葉に、男自身きょとん、としながら応える。
この男、本心からそう思っているし、それを隠そうともしない。
そうして、目の前で干し肉に短剣が、ぶつり、と刺さるのを見届ければ。
「はい。召し上がれ」
男は満面の笑みを浮かべ、そう言った。そのまま、男はバックから携帯調理道具を取り出し、いそいそと料理をし始める。
「丁度夜飯にしようと思っていたんだ。
キミの分も作るから、一緒に食べようぜ。
あ、俺はセイン=ディバン。冒険者兼魔王様のだんな様。ヨロシクね」
■ファトム > 「……私はそんなに好きじゃないぞ。
痛いし、人間はみんな乱暴だし。」
たとえ話は、少し少女にはきつい内容だった。
ミレー族でも確かに…エッチが好きな者はいる。
ウサギのミレー族なんか、いつも発情してるし、少女にも発情期というものは存在する。
しかし、それを引き合いに出されると、余計に人間が人間だと思う。
やっぱり、人間はそういうのが好きなんだなと、改めて確信した。
「……やっぱりお前は人間だ。」
気を許しちゃいけないと、少女は改めて思った。
少女自身、低層元年は低いとはいえ、こんなに大っぴらにされると半眼にならざるを得ない。
ミセリコルデに刺さった干し肉を手にすると、また少しだけ目を伏せる。
この干し肉も、もともとは生き物だった。
それを食べるということを考えると、やっぱりどうしても罪悪感がわく。
生きるためだから仕方がないと、言い訳をして。
「……いただきます。」
小さく謝りながら、干し肉を食べた。
少しずつ、ゆっくりと噛み締める。
命を食べている、そう思いながらゆっくりと、お腹の中に入れていく。
「………お前は、不思議な奴だ。
今まであった人間とはちょっと違う感じがする、けど…やっぱり私は信用できない。
セインディバンだな……私は、ファトム。」
一緒に食べようという料理を、少女は首を振っていらないと伝えた。
けれど、その瞳には相変わらず敵意や憎悪はあっても、最初に比べたらずいぶんましになった。
でも、やはり人間への憎悪は消えたわけじゃない。
少しずつ、後ろに下がっていく。
「セインディバン、できるなら早くこの場から立ち去って。
じゃないと……私はやっぱり、お前を殺すかもしれない。」
干し肉、ありがとうと伝えて。
少女、ファトムは夜の森の中に去っていった―――。
ご案内:「九頭龍山脈の奥深く」からファトムさんが去りました。
■セイン=ディバン > 「あぁ、いや。物の例えだよ?
たとえば狩りが得意なミレー族なら、物流関係の仕事。
家事が得意ならハウスキーパーでもいい。そういった雇用体系をしっかりとすることも大事かな、って」
元来頭は良いほうではない男だが、妻の影響か。
書物を読み、男なりにいろいろ考えてはいるらしい。
ミレー族だけではない。多種多様な生態系のこの世界で、男は共存の道を見つけ出そうと考えている。
「ん? いや、だからそう言ってるじゃん?」
少女の言葉の真意をわからぬまま、男はまた応える。
じと~、っと睨まれているのに気づいているのかいないのか。
男は、少女が干し肉を見て、ややあってからそれを食すのを満足そうに見ていた。
「不思議、かね? 自分では良くわからないが……。
ん。そりゃしゃーない。すぐに分かり合えるとも思ってないしね。
でも、いつかは分かり合えるかもだろ?
ふむ。ファトムちゃん、な。覚えたぜ」
食事を断られ、ありゃりゃ、残念。と男は小声で言う。
そのまま、少女が後ずさりするのを、少し寂しそうに見ていたが。
男は決して引き止めるようなことはしなかった。
お互いの立場や、境遇を考えてのことだった。
「……わかった。メシ喰い終わったらとっとといなくなるよ。
でも、また会いに来るかもだよ。この辺の治安維持、ってわけじゃないけど。
ミレー族に関しては俺も気になってるわけだし」
少女の警告を聞きながら、男は目を細める。
感謝の言葉には大きく頷き、笑い。そして男は自分の分だけの食事を作る。
夜闇は、静かなまま。辺りにはおいしそうな食事の匂いがただよっていった……。
ご案内:「九頭龍山脈の奥深く」からセイン=ディバンさんが去りました。