2017/01/24 のログ
ご案内:「九頭龍山脈の奥深く」にファトムさんが現れました。
■ファトム > 「………」
森林の間から垣間見える星空を見上げながら、少女は白い息を吐き出していた。
手にしているのは、このあたりの森でよく取れる木の実。
今日の、少女の晩御飯である。
こういう時、少女は思う。
小食でよかった、あまり命を貰うことはしたくはないから、と。
でも、生きていくためには命を貰わないといけない。
少しだけため息をつきながら、少女は足元に落ちていた木の実を拾う。
腰に下げているポーチの中に収めると、きつく口を縛った。
「あ……」
食料の備蓄の事を思い出し、肉が不足しているのを思い出した。
木の実だけでも十分だけれども、種族上どうしても肉がほしくなる。
命を刈り取ることに罪悪感はあるけれど、生きるためには仕方がない。
木の実の重さを確かめてから、少女は木の上に上った。
できるだけ弱っていそうな…例えば、瀕死でもう長くないような動物を探す。
ご案内:「九頭龍山脈の奥深く」にセイン=ディバンさんが現れました。
■セイン=ディバン > 「……まいったね。ど~も」
九頭竜山脈の奥地にて、男が一人ぼやく。
星を見上げ、山脈から裾野を見下し、コンパスと地図を見比べる。
その都度、頭を傾け地図を回転させ、ため息を吐く、の繰り返しだ。
「この辺りだと思ったんだけど……って、そっか……確か避難したんだっけか……」
男の目的地は、この奥地に点在する、ミレー族の集落であった。
以前その集落にて命を救われた男は、時折その集落に食料などを個人的に運び込んでいた。
だが、その集落は最後に訪れたとき、別の場所へと移動をしていたはずだ。
「……はぁ。なんだかなぁ。骨折り損、ってやつ?」
独り言を繰り返しながら、とぼとぼと歩く男。せっかく持ってきた荷物も、変装も無駄だったようであり、体にどっ、と疲労が押し寄せてくる。
そのまま手近な木に寄りかかり、細巻に火をつけて再度空を見上げる。
仕方ない。荷物は持って帰るとしようか。そう思っていた矢先。
男は、木の上に人影を見つけた。
「……? 誰か、いるのか?」
目を凝らす。良く見えない。とりあえず、男は音を立てぬようにしながら、武器へと手を掛けた。
■ファトム > 木の上に登ったところで、少女はあたりを見渡す。
そんなに都合よく瀕死の動物なんて見つかるわけもない。
枝の上に座ると、腰に下げている布巾着の中に入っていた木の実を、少し取り出す。
お腹の減り具合が、そろそろ限界だった。
「ごめんね……いただきます」
小さく、小さく木の実に向かって謝罪を何度か繰り返す。
木の実にも命は宿っているから、それを食べるということは木の実を殺してしまうということ。
だから、少女は小さく何度も謝罪を繰り返し、暗い顔で木の実をかみ砕いていく。
甘いようでしょっぱい、涙の味がすこしする木の実を口の中に運んでいく。
一つ目、大きめの木の実を食べきると、一息ついた。
美味しかった、と思ってしまう。
少女も生きている以上、五感は備わっている。
だから、美味しい木の実をどうしても美味しいと思ってしまう。
それにまた、罪悪感を感じてため息をつくのを、もう何年繰り返したか数えるのも面倒だ。
「………」
そんなことを思いながら、囁かな夕食をとっている。
その、少女の下で人間の匂いがする。
またやってきた、そう思った少女の目つきが鋭くなる。
太腿に隠している短剣2本、そのうちの一本に手を掛ける。
人間は、悪さしか働かない野蛮な一族だから。
木から飛び降りて、真上から奇襲を仕掛けた。
その肩に、短剣ミセリコルデを突き刺そうと。
■セイン=ディバン > 「……人、だよな。いや、人の形をしてる何か、か」
懸命に目を凝らし続けるが、人影の正体は男には掴めない。
距離もあるし、何より夜闇の中だ。人の形、輪郭を捉えるので精一杯。
「しゃあねぇな……。
『Physical strengthening(身体強化)
Visual specialization』(視力特化)」
時間、そして場所を考えれば、ミレー族を襲おうとしている野党かもしれない。
そう考えた男は、詠唱をし、視力を強化する。目に飛び込んできたのは、一人の少女の姿であった。
少女が、夜更けにこんな場所で何をしているのか。男がそう疑問に思った瞬間。
「……!!」
結果から言えば、反応できたのはたまたま。偶然の産物。
姿をじっと見ていたからこそ、そして視力を強化していたからこそ。
飛び降り、接近、短刀、視線、敵意、狙われている。
「『Take over, Take over』!!(転回せよ、貴君!!)」
判断。短剣=間に合わない。銃=間に合ったとして、少女を怪我させてしまう。
所持魔法、スキル。無傷でこの状況を回避できるもの。『上下反転』。対象の上下を180度回転させる魔術。
男はそれを瞬時に判断し、襲い掛かる少女にその魔法を放った。
そのまま、落下してくるであろう軌道の下にもぐりこみ、受け止める姿勢を取る。
■ファトム > 人間が、何かをつぶやいた。
少女に何か魔術の心得でもあれば、それが魔法であることを瞬時に見抜けただろう。
だが、少女にはあいにく魔法というものの心得はなかった。
その呟きに魔法のような意味を持つことを、少女をは見抜けなかった。
「………!?」
結果、その魔法は少女の頭を混乱させることになった。
地面に向かって、人間に向かって飛び降りたはずなのに、体は上へと向かっている。
上が下に、下が上に。
その変化に、少女の体がついていけなかった。
だが、ついていけなかっただけで判断できないというのは、間違いだ。
その短剣、下が上になったところで人間の肩に振り下ろされ――もとい。
振り上げられることに何ら変わりはない。
そして、受け止めようとしていることも失敗だ。
結果、無防備に肩をさらすことになってしまって――。
ざくりと人間の肩に、ミセリコルデの鋭い刃が深々と突き刺さる。
「………」
少女は、すぐに短剣を抜き放った。
体を翻しながら人間の腕から抜け出すと――地面に転がる。
「痛………」
小さな小さなうめき声。
下が上になっていることでバランスを崩し、地面の転がってしまった。
そして、魔法の効力が切れるまで少女はその場に立とうとしては、ひっくり返り。
ひっくり返っては、また立とうとを繰り返しながら、何度も地面を転がった。
■セイン=ディバン > 「オーライオーライ、ってかぁ……
って、うっそぉ!?」
目前で、クルリ、と反転しながら落ちてくる少女。
男としては、それをなんなくキャッチし、まずは話し合いを、と思っていた。
だがしかし、少女は見事な判断力で、器用にも反転したまま男の肩へと短剣を突き刺してきたのだ。
「ぐあっ!! ……っでも、ナイスキャッチ俺!!」
回避すれば、少女は地面へと叩きつけられる。男は、肩へダメージを負う事を判りながらも、少女を受け止める。
が、短刀とはいえ、肩に深く刺さった一撃のダメージは大きく。
男は腕の中から抜け出す少女を捕まえることは出来なかった。
「……あー、お嬢ちゃん、落ち着きなって。
今魔術解除してやるからさ。
『Take over, Take over』
『recovery』(回復)」
男は少女に向けて、上下反転の魔法を再度かける。同時に、自分の肩のキズ、そして、どこかを痛めたであろう少女に、回復の呪文を唱える。
男の回復魔術はかなり軽度のものであり、肩のキズはすぐさま塞がったりはしない。男はそのまま、腰を落とし。細巻を深々と吸う。
「えっと。なんで俺攻撃されたのかな。なんか悪いことした?」
そして、少女にそう問いかけた。そのまま武器を少女に見えるようにし、地面にポイ、と置く。
敵意がないことを示すジェスチャーだが、信用してもらえるかはまた別問題だ。
■ファトム > グラグラと視界が揺れている。
上が下になっているだけで、まるで別世界に飛ばされてしまったかのようだ。
見知っている森のはずなのに、ここがどこかも。
自分が、今どこに立っているのかもわからなくなる。
でも、手にしている短剣の重さだけは変わらない。
手に馴染んだミセリコルデの感触だけが、少女をこの世界に繋ぎ止めてくれているようだった。
立ち上がろうとして、何度も転んで。
ようやく、ふらふらとだけど立ち上がって、短剣を人間に向けた。
「………」
足元がふらつく、こんな足だと向かっていくことなんかできない。
幸い、人間は肩に怪我をしている。
そんなに浅い傷じゃない、攻めればいけると、少女は思っていた。
抜け出した腕の中、少しだけ人間と対峙していると、またさっきの言葉が聞こえてくる。
何かしてくる、少女はとっさに身構えた。
さっきみたいに、上と下を逆転させてくるみたいなことをしてくるのかと警戒した。
「………?」
だが、その結果は逆だった。
上と下が元に戻って、元の世界に戻ってくる。
手にしていた武器を、人間は地面に置いた。
襲ってくるつもりはないと言いたいみたいだけれども、信用なんかできない。
攻撃された理由も聞きたいらしい。
「…………ミレー族を襲いに来たからに決まってる。」
少女の答えは、非常に簡潔だった。
ミレー族を襲いに来たから、追い返すために、そして殺すために攻撃した。
■セイン=ディバン > 「……かふっ。ふはぁ……」
目の前でじたばたもがく少女。男としては、助けるつもりだったのだが。
それが逆に少女にとっては余分なことだったらしく。男は罪悪感やら、痛みから来る苦痛やらがごちゃ混ぜになった感情を、咳と、紫煙に混ぜて吐き出した。
「……いや、睨まないで? 怖いし。
キミみたいな可愛い子に見つめられるのは嫌いじゃないけどねぇ」
軽口を叩きながら呼吸を整える。元通りの平衡感覚、上下が正常に戻った後も、少女は男を睨み、警戒を解かない。
やれやれどうしたものか、と思っていた男に、処女から返事が返ってくる。
なるほど。そういうことか、と男は納得した。
「そいつぁとんでもない勘違いで、酷い誤解で、悲しいすれ違いだね。
俺は以前この辺りの集落のミレー族に命を助けられて、お礼に物資を持ってきてただけなんだけど。
ついでに言うと、以前奴隷商人に教われてたその集落を助けてたりもしたんだけどなぁ」
ま、随分昔の話だがね、と苦笑いしながら、男は胸元を漁る。
取り出したのは、携帯食料の干し肉を二切れだ。一つをもぐもぐと咀嚼しながら、もう一切れは少女に向かって差し出す。
「てか、ミレー族を襲うなら仲間とか連れてくるでしょ。
一人じゃ襲っても攫える数に限りあるし。
なんにせよ、俺はむしろミレー族の味方なんだけどなぁ」
信用してはもらえないかなぁ、などと呟きながら、少女へと差し出した干し肉を揺らし、食べる? お腹減ってない? などと呑気に語りかける。肩の傷は、ゆっくりと治っているがまだ完治はしない。