2016/08/30 のログ
■イニフィ > 別に汚いだとか、そんなことは断じて思わなかった。
人間を、意思を持つものが全部嫌いだと思ってしまうほど、彼女は人の世に疲れてしまった。
だから、そんな言葉ばかり出てくるのは致し方ないというものだろう。
飄々として、どこか風人のようなイニフィは、貴族の間柄でも実は評判はよくなかった。
作法もない、なりあがりの旅行者が突然貴族社会に出てきたのだから、仕方がないことだろう。
だが、その容姿から近づいてくるものは多い。
勿論、身体目当てでだが――さすがのイニフィも、そういう光景にはあまりにもうんざりだった。
背中に手を回され、抱きしめられても――最愛の人の名をよぶリーゼには、肩を竦めた。
「……あの子は、戻ってこいって言うと思うわ…。」
イニフィは、どこか確信めいたような想いがあった。
幾度か話をしただけだけれども、あの子の意思はとても強い。
そして――リーゼよりも世の中の卑劣さ、そして穢れに触れていない気がする。
その彼女に、リーゼが人間を嫌ったこと、世の中を棄てたことを言えば――戻ってこいというかもしれない。
しかし、それは――リーゼのためになるのだろうか。
「…リーゼちゃん、リーユエちゃんの言葉で戻って…またこんなことになったら、今度こそリーゼちゃんが壊れちゃうわ。
あの子は其れでいいかもしれない…けど、リーゼちゃんは戻って幸せなの?」
私はそんなこと思わない、と思う。
リゼと話をしたときにも言った、あの子には何も思い出させずに、このままでいたほうがいいのではないか、と。
イニフィは、リーゼを離すと傍らに落ちていた花束を拾い上げる。
そっと、リーゼの肩を押して――――。
「……そう、なら…そこまで案内してくれる?」
少しの間だけ、私が一緒にいてあげる。
世界から隔離された森の中で、静かに少しだけ、話し相手になれば少しくらい楽になるかもしれない。
■リーゼロッテ > 「それは……」
一度壊れかかった時も、最愛の人の強い言葉で引き戻されているのは事実で、けれどそれが正しいとも思っていた。
何度も折れてしまう自分の脆さが行けないのだろうと想っているのもあり、恋人の答えを聞くのはホンの少しだけ怖い。
だから、しどろもどろな様子で視線を彷徨わせて言葉に詰まる。
「ユエちゃんは…リーゼが壊れてもいいなんて、思ってないよ? そんなこと…」
自分が脆いのが行けないのだからと改めて思いつつ、彼女のお願いに小さく頷いた。
戻る以外の答えも見つける必要はある、最愛の人を僅かに怖がってしまった罪悪感を心に抱きつつ、身体が離れれば、こっちと指差しながら歩き出すだろう。
前とは違い、少し濃いだけの森の中で、誰かが昔使っていただろう朽ちかけた小さな小屋のある場所。
虫の音しか届かない隔絶された場所へと向かいながら、二人の姿は暗闇に消えるのだろう。
■イニフィ > 「…勿論、そうね。でも、その結果…リーゼちゃんが壊れて、一番悲しむのは誰かしら?」
勿論イニフィも悲しむだろう。
彼女は、この世界で本気でほしいと思った人物の一人だ。
その彼女が、自分の知らないところで壊れてしまったら――悲しいに決まっている。
だけど、もしその彼女の一言で戻って――再び、今度は完膚なきまでに壊れてしまったら?
一番悲しむのは、そして一番責任を感じるのは、誰だろうか。
脆すぎるから、とかそういう問題ではない。
いくら強い人間でも、張り詰め続ければいつかは壊れるものだ。
だからこそ――――イニフィは肩を竦めた。
(強いんだか弱いんだかわからないわね…この子は。
ちょっと人に流されすぎる帰来はあるかもしれないし…)
指差された方向は、以前九頭竜山脈の奥地で歩いた雑木林に似ていた。
虫の音が響くその場所へ案内され――2人の姿は、森の中へと消えていく――。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道」からリーゼロッテさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道」からイニフィさんが去りました。