2016/08/29 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道」にリーゼロッテさんが現れました。
リーゼロッテ > 住み慣れたところを離れてから数日。
必要な物があれば嫌でも買い出しに出ねばならず、その帰り道にそれは始まった。
満足な馬車を雇うお金もななかったのか、女性だけの商団が山賊たちに襲われ、喧騒が嫌でも耳に届く。
痩せた馬が矢で射抜かれ、崩れた荷物の傍で慣れぬ手つきで短剣を突きつける女性達を見たのがつい先程。
今はといえば、鴉達に近くの村まで護衛と道案内を命じ、自分だけが残っている。
彼女たちの行く手を阻んでいた山賊の一人は、遠慮ない岩の弾丸に撃ちぬかれ、頭が半分なくなっている。

「……」

殺すと思って引き金を引き、確りと殺したのは戦争以来かもしれない。
あれほど嫌がっていたことが、羽虫を潰した程度の感覚しかなく、周りで騒ぎ立てて囲む男達を冷めた瞳で一瞥すると素早く魔法弾を連射した。
彼等の足元に向けた弾は、着弾と同時に蔦を伸ばし、男達を絡めとって動きを封じる。
これでいいと心の中で呟けば、手に青い炎を宿し、冷えきった微笑みを彼等に見せる。

「お金と食べ物がほしいなら…それだけ奪えばいいのに、馬を殺して…女の人を乱暴しようとして、何でそんな無駄をするの?」

しかし罵倒の言葉ばかりが返り、ただ耳障りな叫び声に小さくため息を零す。
そうだった、彼等はただの屑だ。
問いかけるだけ無駄で、本能に来ているケダモノであり、野生の生き物のほうがまだ美しい。
ゆらりと一歩踏み出すと、一人に向けて青い炎を吹き付けた。
魂だけを焼き、そして内側から火葬されるような熱さを超えた痛みが男の中で暴れ回り、絶叫を上げながら蔦の中でのたうち回るのが見える。

「やめて? なんで? 貴方達…女の子が止めてって言って止めたこと、ある?」

クスクスと微笑むと、それに言い返せない周りの男達が青ざめ、叫び声だけが響いた。
最初は強かった炎は徐々に弱くなる、死ぬギリギリまで…苦痛を与えるために、じっくりとじっくりと魂を焼いていく。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道」にイニフィさんが現れました。
イニフィ > 「ん~………。」

馬車の中で、背伸びをして旅の疲れを癒す一人の女性がいた。
いつものように、旅に出るための服装に真新しい旅行カバン。

最近、ちょっとはぶりがよくなって一式を買い換えたのだが、旅行にいく機会なんて早々巡っては来なかった。
いろいろと忙しい日々もようやく終わり、久しぶりに旅行に出かけようと着替え一式をカバンにつめたのが昨日。

「遠いわねぇ…さすがに。
なんてっ言ったかしら……ドラゴンフィート?」

そう、今日の目的地は、最近九頭竜山脈の麓にできたという集落。
貴族たちの噂では、随分と治安が悪いなんていう噂を聞いたけれども――まあ、信じるわけがなかった。
基本的に彼らは嘘吐きだし、そもそもあそこには知り合いが一人いる。
以前、温泉に一緒に行った彼女からの話では、随分と安全に観光ができる、などという話だった。

最近、復帰したと言う話を耳にしたのでお祝いにと花束を買い、そこへと出かけたというわけだ。

「あの子に会うのも久しぶりねぇ、元気になったのかしら……。」

――――以前、あったときは酷い物だった。
そこから回復したならば、少し気になることはあれども一目会いに行きたいとと思っていたところだ。
馬車から外を眺めながら、風に揺れる髪を片手で押さえつけて。

「おじさん、後どのくらいなのかしら?」

御者に、そんな質問をぶつけていた。


ちょうど、その彼女が山賊を襲っている場所から、そう遠くない場所で。

リーゼロッテ > 馬車を運転する中年の男も、貴族達が口にするドラゴンフィートの話を聞けば、おかしそうに笑ったことだろう。
あそこが治安が悪いなら、この土地のどこに治安のいい場所があるのだと。
ルミナスの森と共にここの街道を警護していたのもあり、しっかりとした馬車ならそうそう襲われることはないのだとか。
そんな話も聞けたかもしれない。

知り合いが直ぐ側に来ているとは知る由もなく、依然として山賊の魂を焼き続けていた。
苦悶に精神をすり減らし、抜け落ちた頭髪は白く、年老いた顔をして朽ち果てた仲間を見る男達は情けない悲鳴を上げて命乞いを繰り返している。
冷たく微笑んだまま目を細めると、遠慮無く残りの男達に火を放った。

「助けるわけ無いよね…だって、貴方達は全部踏みにじってきたんだから…神様だって地獄へ落ちろって言うと思うの」

クスクスと微笑みながら山賊達の炎を強めた、調度良く苦痛を与え続けられる火加減。
山賊達で作られた青い炎の松明が窓の外から簡単に見えるだろう。
そこにはいつもの格好とは違い、黒い喪服のようなドレスに身を包んだリーゼがいる。
本当ならその炎を使っていた、リゼとは異なり、澄んだ青い瞳は暗い微笑みをこさえているけれど。

イニフィ > 「へぇ…やっぱりそうなんだ?
私もねぇ、おかしいと思ってたのよ。ミレー族が多いところなんでしょ?」

確か、知り合い――――リーゼの話ではそうだった。
人間も確かにいることに入るけど、大半がミレー族で構成されている集落、だとか。
だけど、そんなに治安が悪いところならば何で観光馬車が出ているのか、と言う話だ。
襲われることはない、としたらイニフィの旅行に差し支えるものは、何もなかった。

「楽しみねぇ、ミレー族のご飯って食べたことないのよ。
ねえねえ、よかったら美味しいご飯のお店も紹介してよ?」

イニフィのたびの目的は、主に食事目当てであった。
旅先の美味しいご飯を一番の楽しみにしているイニフィは、まだ見ぬミレー族の食事に目を輝かせ――――。
て、いたのだが。

「………って、あら?…なに、あれ?」

窓から外を見ていたイニフィにもはっきりと見えていた。
林の少し手前、青白い炎に焼かれている人と――――喪服姿の誰か。
いや、誰かなんてそんなものはわかりきっている。
何しろ、彼女は『自分が生み出したもの』なんだから。

「…おじさん、ごめん、後は歩いていくわ。代金ここに置いとくわね。」

イニフィは馬車代をそこに残して、御者の制止も効かずに馬車を飛び降りた。
真っ直ぐ、迷うこともなくその喪服姿のものへと近づいていく。
少し距離をあけ、話が出来るくらいになれば――既に山賊は、息絶えているだろうか。

「…随分と、そのこの身体で似合わないことするわねぇ、リゼ。」

――――イニフィは、まだ気づいていない。
彼女がリゼではなく、リーゼだという事を。

リーゼロッテ > ミレー族が多く、それでいて平和で治安がいい。
上流階級の者達はとてもここを嫌うが、生きることに手一杯な平民たちはそんな差別に気を取られ続ける余裕もないだろう。
彼女が期待している料理も然ることながら、温泉までの安全な航路は、多少割高でも価値がある。
おすすめの店と言われれば、一番人気の店を説明しているところで火葬現場に通りかかり、そして彼女が降りた後、どうしたものかと様子を見やってから馬車は走りだすだろう。

「……リゼはもう消えちゃったよ、イニフィさん」

クスッと苦笑いのまま彼女へと振り返る。
薄っすらと憤怒の炎を心に宿し、冷めた瞳で世界を見つめて容赦を知らない少女の暗い部分を切り取った人格。
それが消え去り、いつもの様に微笑む少女がそこにいる。
ただ、瞳に浮かぶ熱はとても冷えきっており、僅かに息の残った男が命乞いをした瞬間、青い炎を一気に強めて魂を焼き払った。

「……やっと静かになった」

羽虫でも始末した程度の淡い反応で改めて彼女へ微笑み掛けると、こつこつと足音を立てて近づこうとする。
手の甲には黒い羽の紋様と、纏う魔力は、あの暗い光の力のままで。

イニフィ > 訝しげな表情をした御者を、イニフィは肩越しにウィンクして見送った。
少しだけ歩くことになるけれども、別に気にすることはない。
徒歩での移動も、また旅の醍醐味なんだから。

「………え?」

消えた、とはどういう事なんだろうか。
あの服装は確かに、以前はリーゼの裏人格『リゼ』のときの服装だった。
手の甲にある黒い羽の模様、そして感じる魔力はリーゼのものとは違う、真っ黒なもの。
どちらかといえば魔族に近い性質を持っていたそれだけど、彼女から感じることは皆無だったはず。
だが、彼女のいう事を信じるとすれば――――。

「…本気………?」

イニフィは、驚き目を見開くだろう。
リーゼの欲望や、戸惑いを消し去った――――爪あとを求め続ける欲望の塊。
イニフィが、生み出したもう一人のリーゼ。
それが消えた――否、死んだという事。
さすがに、ショックだった。

「………其れで…リーゼちゃんにその力が宿ったのね…。そっか、そっか……。」

俯いたまま、近づいてくる彼女を迎え入れる。
その声は、どこか震えていた――――。
イニフィにとって、目の前のリーゼも大事だけど、もう一人のリゼも大事だったから、いなくなると悲しいのだ。
そして――――何故消えたのか、と言う疑問が憤怒とともに湧き上がる。

リーゼロッテ > 「…本当だよ」

真っ白な綺麗な魔力を宿していた何時もと異なり、暗い部分だけを集めた鴉達の力だけがそこにある。
もう一人の自分に特に深く触れていたことを、リゼ本人から聞いていたのもあり、事実に触れた彼女の気持ちは察する事ができた。
俯く彼女へと近づけば、ほんの僅かに感じる憤怒の気配に眉をひそめ、それから僅かに目を伏せると口を開く。

「…リゼが消えたのは、リーゼのせいだよ。リーゼが…全部を憎く感じるようになっちゃったから」

彼女の怒りを受け止めるとすれば、それは自分になる。
上澄みだけだった自分と、奥底だけの沈殿物で作られたもう一人。
居場所を隔てていたのに、自ら奥に沈んだ穢れを無意識に求めてしまったのだから。
苦笑いを浮かべれば、ライフルの銃床を地面においてパタリと倒す。

「リーゼがリゼみたいに…人を殺したいとか、消したいとか、憎いとか…思うようになったから、二人でいられなくなっちゃったんだよ」

その矛先を向けられるなら、受け止めるほかなく、変わらぬ表情のまま淡々と呟いた

イニフィ > 「…………。」

ただ、黙って何故消えたのかの理由を聞いた。
復帰したと聴いたから、彼女が元の状態に戻ったのだという事は察することが出来た。
だけど、奥底に眠らせたその人格がまた深くに潜っただけだと、そう思っていた。
だけど――――全てを憎み、全てを無に帰したいと彼女が願ってしまい――その結果、リゼが消えた。
いや、消えたと言うのは語弊がある。リゼとリーゼが、一つになったというほうが正しいか。

「………ふぅぅぅ…………。」

イニフィは、まるで怒りを静めるかのように大きく、大きく息を吐いた。
ライフルを地面に倒し、まるで怒りを受け止めるというような仕草は――別に必要はない。
彼女のこの服装が、リゼへの手向けに見えて――。

「リーゼちゃんも……もう我慢できなくなっちゃったのね….
人間が…嫌いになっちゃった?」

イニフィは、怒りを静めて困ったような笑みを浮かべていた。
近づいている、その少女の肩に手を置いて――――。

「………復帰祝いで花束持ってきたんだけど…手向けになっちゃったわね…。」

リーゼロッテ > 「……」

深呼吸する彼女の様子をじっと見つめる。
それだけで湧いてきてしまった怒りを沈めて、その矛先を帰ることなんて難しいと思っていたからで。
目を静かに閉ざすと、問いかけられる言葉に一間遅れ、驚きに満ちた表情で瞳を開く。
困ったような笑顔に、どうしてそんな顔ができるのかがわからず、簡単に肩に触れられるほどで。

「……」

彼女の手にしていた花束に気づく。
つい最近、やっと心身共々癒えて、みんなの力になれると思って立ち上がった。
そしてこの道で、再び砕かれ、踏みにじられてしまった。
もう嫌だと投げ捨てたけれど、その花束に篭っていただろう気持ちが伝われば、呆気にとられた表情のままポタポタと頬を濡らし始める。

「――…嫌い、嫌いだよ。リーゼがどれだけ…頑張ろうって思っても、知らない人が私を見ると、ただの性処理道具にしか見てないのかなって…思うぐらい、大っ嫌い。人間とか魔族とか、そんなことじゃなくて、全部、全部嫌い…っ!」

好きな人達の役に立ちたいとか、自分で出来る手助けがしたいとか。
そんな淡い心を踏みにじられてしまう。
この土地に掬う悪意が全て憎い、けれど、こうして自分を認めてくれる人もいる。
訳がわからないほど苦しくなって涙を零し続けると、その顔を隠すように両手で包んで遮っていく。

イニフィ > 勿論、ふつふつと湧き上がる怒りはいまもこみ上げてきている。
その証拠に、イニフィが掴む手は僅かに震えていた。
だが――――イニフィの怒りの矛先はリーゼではなかった。
リーゼにそこまで憎いと思わせ、リゼと混ぜ合わせた張本人こそが憤怒の対象。
リーゼに怒りをぶちまけるのは、ただの八つ当たりだとおもったから。

「………そう。」

イニフィは、ぎゅっとリーゼを抱きしめた。
涙を零しながら、世界を完全に嫌ってしまったリーゼをそっと抱きしめる。
その心は、既に完全に折られる寸前のように感じられる。
以前の彼女ならば、ここまで呪詛を吐くことは決してなかった。

「そうよね……世界はとっても汚いわ…。
私も今、貴族とかかわることが多くなったんだけどね…、皆、私の体目当てで近寄ってくるの。
もう…救いようのないくらいに汚い世界だわ……。」

憎んでもいいし、恨むのもいいと思っている。
リーゼは、きっといままで散々いいように扱われてきたはずだ。
だから、彼女が世界を憎むのは当然だし、それでも立ち上がり続けた。
それを――――完全にへし折られてしまった。

「…もう、もういいじゃない……。
リーゼちゃん、もういいじゃない……頑張らなくて。
全部忘れて……ゆっくりしましょ?落ち着くまで…私が一緒にいてあげるわ?」

もう苦しむことなんてない、安息がほしいなら――もう全部、忘れて誰もいないところに行けばいいと思う。

リーゼロッテ > 「っ……」

抱きしめられ、声が詰まる。
こんなに汚い言葉ばかり吐き出しているのに、それに何も言われないことが僅かに安堵したのと同時に、不安を沢山沸き立たせてしまう。
彼女の語る言葉は、やはりこの世界が腐り果てているという事実。
自分とは異なり、飄々としている彼女ならまだ毒される事なくいられるかもしれないけれど、自分にはそんな器用さがないと分かっている。
優しく語りかける言葉に、そのまま忘れたくもなる。
けれど、ずっと脳裏に引っかかるのは最愛の人の姿。
抱きしめられたまま、その言葉に応じるかのように背中に腕を回すと、胸元に顔を埋めたまま語り始めた。

「…でも、ユエちゃんとちゃんと…お話してないし、ユエちゃんの事だけは…絶対忘れられないの。イニフィさんにこんなこと言うの酷いってわかってるの、だけど…それは……」

そこだけは変わらずに残り続けた。
ゆっくりと絞り出した言葉は葛藤に喉を震わせる。
少し赤くなった瞳を開き、顔を上げればぐすっと鼻を鳴らす。

「今……森の奥で一人でいるの、今日も買い物の帰りで…この人達が女の人、襲ってたから」

そこでなら静かに世界から隔絶しやすい。
今の住処を教えると、すっと山の一部を指差す。
暗がりに見える獣道は森の深まった場所へと続いているのが見えるだろう。