2016/06/12 のログ
ジン > …それを見守ろうとしたが、動くとしよう。
身動ぎ一つしていなかった男の目が開き、傍らに置いた刀を手に立ち上がる。
理由はどうあれ、自分の居る時に他の領域に入り込んだのだ。
今回の非は人間側にあるだろう、大人しく引き下がって貰おうか。

次の瞬間、その男の姿はその場から掻き消える。
ふわりと揺れる空気の中、数枚の黒い羽根が地面に落ちた。

それから、何秒と時間は経っていない。
人間…らしき影と、一匹の狼が対峙していた。
男はその場に音も無く現れ、間髪入れず、影へと襲い掛かる。
別に襲い掛かるとはいっても、殺すつもりはない。
相手の目には映らぬだろう刀を抜き、峰打ちをするだけ。
その相手は簡単に意識を失い、倒れてしまう。
狼には視線を送り、言葉にはせずとも、素直に戻れという意思を伝える。
己の領域を守る為に来ていたのだ、それを侵害する相手を倒したならば、大人しく戻っていくだろう。

さて…と、打ち倒した人間を見る。
このまま放置はさすがに拙いだろうと、その体を抱える。
そう大きくはない、そして、女性のようだ。
ふと、視線の端に揺れる何か…尻尾。
そういえば、頭にもそれらしき耳が生えている…妖怪、ではない。
ミレー族という種族がいるとは主から聞いていたが、それだろうか?
まったく、そうだとしても、女性がこんな場所で1人で何をしに来たのやら。
やれやれと呆れながら、とりあえず、どこへ送るべきかと考える。

ジン > 「…不覚」

呟きが漏れる。
狼の動きを止める為に気絶をさせたが、これでは身元が聞き出せない。
人間であれば近くの村か街か、そこに預けていけば良かった。
だが、ミレー族の扱いは確かよろしくないはずだ、簡単に引き渡すのは出来ない。
ミレー族の村というのもあるはずだが、主でもそれは知覚しきれない力で覆われているとの事。
…そんな力は自分にはない。
そして、この場所は引いては貰ったが、あの狼の領域。
このままで居るのも微妙だろう。

仕方ない…
見た目はどう見ても人攫いのように見えてしまうが、肩に抱えながら、少しでも九頭龍山脈を下ろうと歩き出す。

ジン > 気絶をさせたのは自分だ、無理矢理に起こすのは…躊躇われる。
自然に目を覚ますのを待ちつつも、歩みは進めた。
気絶から目を覚ますまで、短ければ数秒、長ければ朝まで目を覚まさないか。
状況から、目を覚ますならば後者だろう。

…本当ならば、山の麓のどこかに都合の良い集落があるのだが、それを男は知らない。
いや、集落の存在自体は知っているが、そういった存在なのを知らないのだ。

ジン > 結局のところ、諦めてミレー族の少女は近くにある安全そうな場所…集落の側まで連れていった。
そのまま引き渡しても安全なのだと気付かぬまま、目を覚ますのを待った。
気が付けば朝、目を覚ました相手に理由を説明する。
まぁ、仮面を付けた怪しい男と映るだろう、少々難儀はあったが納得はして貰えた。
そこでやっと知ったのだ、この集落が安全な場所であると。
ならば、こんな苦労はせずとも済んだと考えるが…一つ物事を知ったのだと考えれば、それで良しとするしかないだろう。

ご案内:「九頭龍山脈 山中」からジンさんが去りました。