2016/04/10 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にリーユエさんが現れました。
■リーユエ > 九頭龍山脈の麓にある集落、そこから少しばかり離れた山中。
木々や茂みに囲まれた中、そこに開けた様に出来た小さなスペースに少女は居た。
その空間だけは、まるでその場所だけ月明かりが届くように夜空がよく見える。
その場に何枚かの紙を取り出し、傍に筆と墨を置く。
月明かりを頼りに、消耗した分の札の補充である。
お世話になっている場所はあるのだが、そこでやれば何時誰が来るか分からないから出来ない。
だから、こうして時間を取っては、偶々見付けたこの場所で行っている。
筆を墨に浸し、スラスラと紙に文字を書き込んでいく。
終われば乾く迄は重石を乗せて置いておく、その間に次の紙に文字を書き込む、その繰り返し。
淡々とした作業を続けていく。
■リーユエ > 日常にこの札が使われる事は無い、医術師として滞在している為、戦いに直接関わる事は無いのだから。
それとは別、本来受けている勅命に従い動いている場合は違う。
集落の動きはお世話になっている為に、大雑把なものとはいえ把握していた。
さすがに細かなもの迄は立場上では無理なのだけど、それでも知らぬ存ぜぬと居るよりも、十分良い。
只、そうした行為はお世話になっている集落の方達を裏切っているような気がして、如何してもちょっとだけ気落ちしてしまう。
何枚か書き終わると、重石の数が足りなくなって手を止める。
裏写りをしない為である。
乾くまでと少しばかり空いた間に、目を瞑り、周りの音に耳を澄ませた。
微風が抜け、葉と葉の擦れ合う音。
近くを巣としている動物達の寝息。
集中すれば、かなり細かな音も聴き取る事が出来ている。
■リーユエ > 「私は、一体何をしているのでしょう」
自然と零れる呟き、乾いて札と成った紙から重石を退けると、重ねて置いておく。
重石が空いた事で次の紙へと文字を書き込み始めてと、作業は再開された。
自分の扱う力は道術が多い、そんな力を使ってしまえば無駄に怪しまれてしまう。
だから、医術師として王都の地にやってきた。
その結果が今のこの場所でのこの待遇、勅命を遂行するにはこれ以上の無い好機。
なのに、どうしてこんなに心情は複雑なものになってしまうのだろう。
いっその事、全てを打ち明けて協力を仰げないだろうか?とも考えていたりもした。
先日、襲撃の場で友人に聞かされた組合長の方の判断。
それを知れば、尚更そんな事は出来なくなった。
シェンヤンはこの山脈を狙っている、間違いなくそう判断してるだろう。
そうした中で、そんな事を伝えられる訳がない。
自然と溜息が洩れた、書き終わり、乾いた札を又重ねる。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にリーゼロッテさんが現れました。
■リーユエ > 自分を偽って、傷付けて、今は今の状況を保持するしかない。
現状維持、それが自分の今出来る最良の手段。
時間を掛けて、重ねる札はそれなりの数になる。
是で終いと、吸い取り紙を取り出した。
何度も線を引いて、しっかりと墨を落とす。
水を満たした器に筆の先を浸し、筆の先が乱れぬように上下に優しく揺らす。
何度かそれを繰り返し、墨が殆ど落ちたところで、代わりの吸い取り紙に先を包み、鞄へと戻した。
墨の蓋を閉じ、重ねていた札も、同じ様に鞄へと戻せば全てが終わりである。
鞄を横に、再び夜空を見上げる。
もう少しだけ、のんびりとしてから帰ろうと、そう考えて。
■リーゼロッテ > 拠点の医者のオジサンに呼び止められたのがつい先程。
客人の娘の姿が見えないが、どこにいったかしらないか?という質問だった。
自分も今しがた戻ったばかりで、知らないと頭を振るも、こんな時間帯に出歩いたら危ないだろうと、年寄りじみた心配を聞けば、何時もいそうなところへ探しにでていく。
しかし見つかららない、不安になって隼の背に乗り、辺りを飛び回っていくと、空からも見える開けた場所に彼女の姿を見つけた。
「……? 何してるのかな」
なにか書いてるなと隼が答える。
さすがの少女も山中で何か文章を書いていると思えば、多少なり疑りが生まれるもので、気になっていく。
とは言え、夜でもこの隼は目立つだろうし、もうバレてるなと思案すると、隼からの提案に耳を傾け、それだよ!と満面の笑みで頷いた。
「じゃあザムくん、囮役お願いねっ!」
風をまとい、それに魔力で生み出した紺色の光をまとう。
夜闇に体を紛れ込ませると、すっと滑り落ちるように隼の背から降りていく。
魔力を抑えながらじっくりと滑空していけば、何時も騒がしい娘との様子とは異なって、草を踏みしめる音すら立てずに着地し、気配は自然に溶けこんでいく。
周囲を的外れに周回する隼に気取られていれば、彼女に気付かれずに着地できたはずだが果たして…?
■リーユエ > (風…微風と違う…?)
それに気付いたのは偶々とはいえ夜空を見上げる為に、上に意識を向けてしまったから。
風の音の変化を敏感に感じ、それを探る為に上空に向けた目を細める。
見えたものは、見覚えのある隼の姿。
上空を旋回している隼に、友人が何か探し物をしているのだろうか?と勘違いをしてしまう。
(それにしても、如何してこんな所に?)
この辺りに他に何があるだろうと考えても、何も浮かばない。
在るのは木々や茂み、動物達、そんなものだと思う。
何かを落としたとしても、あんな上空を飛んだままなのはおかしいだろう。
それよりも、こんな上空から見える場所に居るのだ。
きっと友人はそう経たずして気付く、そして、こんな降りるのも少しばかり面倒そうな場所だろうと、寄ってくれるだろう。
よく気配りをする彼女だ、間違いなくそうするに違いない。
そう考えれば、広げたままの道具や札は直ぐに仕舞わなければならないか。
完全に乾くのを待ちたかったけれども、ゆっくりはしてられない。
急ぐでもないが、のんびりとはしていない動きで、鞄のスペースを考えて道具を、札を、仕舞おうとする。
だからか、近くに降り立ち、寄って来る友人には気付けなかった。
音を立てずに小さな空間へと辿り着けば、最後に札を鞄に仕舞おうとする処となるだろう。
■リーゼロッテ > 隼からは書くのをやめて何かをしまっていると報告が入り込む。
友人と大切にしていた人が何故そんなことをしているのだろうと不安が募る。
隼は何となく嫌な感じを覚えていた、あの娘は恐らくただの医者ではないだろうと。
けれど、パンドラの箱を開けるのは自分ではなく契約主のリーゼだからと、必要以上のことには沈黙していく。
木々の揺れる音に紛れ着地し、地面を蹴って歩くときも風の音に紛れる。
元々森林地帯で動物の観察などもする仕事につきたかったのもあり、密偵のように静かな移動は得意だった。
あっという間に彼女の姿がよく見える距離まで近づくと、札をしまおうとするのが目に飛び込む。
再び風の音に紛れて地面を蹴れば、彼女の直ぐ側へと着地する。
「……ユエちゃん、何してるの…?」
背後からゆっくりと問いかける。
振り返ればリーゼの姿が見えるだろう。
困惑の色を浮かべた苦笑いで、ただその行動の意味を問いかける。
■リーユエ > 隼は目が利く、それは知っている。
だけど、只知っている程度の浅い知識、動物の知識は深くない。
こんな距離で見えるものではない、それが油断を生んだ。
自分が居るのが見えただけならば、この辺りの薬草を探していたのだと、嘯ける。
然し、道具を片付けているのを正確に伝えられているとは思ってなかった。
是で終わり、後は友人がやってくるのを待って…
そう思って札を手にし、鞄へと仕舞おうとする。その最悪の瞬間に、彼女が傍に着地する足音と…声。
ピタリとその動きを止めてしまう。
「何故リゼさんが、此処に…貴女はあそこに…」
それは自分の勘違い、謀られていたなんて事は微塵も思ってない様子。
振り向かなくたって、声を聞くだけで彼女だって分かる。
パサッと音を立てて、札の束が地面に落ちた。
誤魔化せない…鞄はまだ開いたままで、中身が見える。
携帯用として持ち歩く短剣を模した銭剣。
どう見ても医術道具には見えない小道具。
仕舞ったばかりの札を書く為の道具。
終わったか、そう思えば、ゆっくりと立ち上がり彼女へと振り返る。
その表情は、きっと彼女と同じものだろう。
問いには答えれない、まだ、答えれる様な余裕が生まれない。
何故?どうして?そんな疑問がグルグルと頭の中を巡っているからだ。
■リーゼロッテ > 普通の隼と違い、この地にいた神の伝令として働いていたとされる鳥。
普通の隼と比べれば、計り知れない部分もあるだろう。
この間の構えの件がなければ見逃していたかもしれないが、主を守るために、心を鬼にしたというのもあった。
「医者のオジサンがユエちゃんがいないから心配だって……ザムくんの背中からこっそり降りたの、見えないようにして…ザムくんが、何か書いてるって言って…ね」
広がったのは見たこともない札。
しかし北方から来たという言葉から、術に使う道具だというのは何となく察しがついた。
銭剣に、医術道具ではない小物、札を書くのに使っていたと思われる筆記具。
怪しいと思われるものがたくさんあった。
見つけてしまったこちらも不安が胸の中を巡り、瞳を潤ませる。
(「ユエちゃん…なにか、いってよ…」)
無音なのが怖い、なんと問えばいいかもわからない。
ただ何かやましいことがあったのは事実だろう。
無意識のまま一歩ずつ前へと進むと、ゆっくりと両手を伸ばす。
それが届けば彼女へと抱きつこうとするだろう。
どうしてそうしようと思ったのか、そんな考えはまるで無い。
不安で仕方ない、離れてほしくないと願ったものがそのまま行動へと代わり、体が触れれば小さく震えているのが分かるだろう。
■リーユエ > 「…」
彼女の言葉に依って、更なる沈黙へと追い込まれる。
集落の方が自分なんかの身を案じてくれていた事は、とても嬉しく思う。
だけど、後に続く気付かれないようにした行為と、札を書いているのを知られていたという事実。
間違いなく疑われている、北方の者だと知っている上で、道術に使う道具の数々を見られたのだから。
(どうしたら…こんな時、私の取るべき行動は…)
勅命を受けた密偵ならば、やる事は一つだろう。
相手は一人と一匹、この場で消してしまえば証拠は消える。
それが自分が行うべき行動、そうしなければならない。
違う、そうすべきなのだ。
そう考えが纏まれば、意識をしっかりと保とうと、気を張るだろう。
それはきっと、目の前の彼女にも伝わるものだ。
ゆっくりと落ちた札の内、二枚に手が伸びる。
巫術と共に使う事で、その威力を跳ね上げる増強型の符。
上空の隼は、その翼を狙い飛べなくして落とせば良い。
目の前の少女には…彼女…友人…友人を、傷付けるのか?
次の、その次の行動と思考を巡らせ始めていた。
だけど、その途中で…思考が止まる。
途端に、張り巡らせていた気が、スゥッと萎んでしまう。
そんな雰囲気を醸し出す自分に、それでもまだ抱き付こうとするならば。
それは何の抵抗も無く叶えられるだろう。
■リーゼロッテ > 彼女も脳内で葛藤し、巡っていくのが雰囲気から感じ取れる。
それが止まり、戦う意志を見せるように札を見せれば、悲しげに微笑みつつも歩みは止めなかった。
(「ザムくん、もしかしたらごめんねになっちゃうかもしれない」)
その言葉が意味することは隼にもわかり、お前が決めたなら好きにするがいいと、敢えて制止の言葉は掛けなかった。
守るとはいえ、生き方を強制することは出来ないからだろう。
戦うと見せてもすっと彼女へと抱きついていき、両手は腰のあたりへと添えていく。
彼女の両手は完全に自由であり、何かしようとすれば無防備な体はされるがままだろう。
「…リーゼは、ユエちゃんに銃向けられないから…好きにしていいよ…」
何時も手にしている魔法銃は背中に掛けられたまま、腰のピストルも収められたまま。
小さく震える体は恐怖と不安でいっぱいになっていた。
少しの間でも言葉をかわして、一緒に眠ったりして、時間を過ごし、とても近づいたと思っていた。
そんな相手に引き金は引けず、ただ無防備に自分の結末を彼女へ委ねていく。
■リーユエ > 隼との意思の疎通、その内容が分かる力は無い。
下手をしたら主である彼女の危険に、隼が反応しない。
それも合わせて、より追い詰められる気分になる。
攻撃の意思を見せたのに、彼女は何もせず…只自分を抱き締めた。
この距離ならば符術を使わずとも、その手で彼女を打ち倒せるだろう。
だけど、彼女と同じだ、自分だってそんな事を出来る訳がなかった。
手にあった二枚の札が、ヒラリと舞い、地面に落ちる。
「良いでしょう。では、私の好きにさせて頂きますね?」
ゆっくりと、大きく深呼吸をしてから、彼女へと言葉を掛ける。
触れる彼女の体が震えているのが分かる、きっと、恐怖と不安。
その理由も分かる、自分の隠していた事を知ってしまったから。
だから、こうするしかなかった。
両手は彼女を包むように回され、優しく抱き締める。
今自分がすべき事は、彼女の恐怖と不安を取り除く事だと、思ったから。
■リーゼロッテ > 腕の中に感じる温もり、鼓動。
何も変わらないのに今は不安と恐怖でいっぱいだ。
好きにすると言われた瞬間、ぎゅっと目を閉ざす。
もし殺されてしまうなら、あまり痛くない方がいいなと些末な願いをしながら覚悟を決める。
けれど、答えは痛みではなく、同じ抱擁。
それに一間遅れるように脳内で認識していけば、瞳から一気に涙を溢れさせながら瞼を開いた。
「ユエ…ちゃん…?」
足元を見やれば、手にしていた札が転がっている。
攻撃の意志がないとわかると、腕の中で足の力が抜けてしまい、がくりと膝から崩れ落ちて座り込んでしまう。
改めて彼女を見上げれば、しゃくりあげながらポタポタと涙を流し、ぎゅっと腰元に抱きついていく。
安堵の心に流されるがまま頬を濡らして、怖かったと一言だけ囁き、嗚咽をこぼしていた。
■リーユエ > 長短で考えるなら、まだ短い付き合いだと思う。
だけど、彼女の事はそれなりに分かっていた筈だ。
きっと最初から素直に言ったならば、彼女を戸惑わせ、困らせてしまっただろう。
それでも、自分を必死に理解してくれようとした筈。
それなのに、結局は立場に振り回され、怖がらせた。
未熟だ、本当に自分は未熟なのだと後悔が尽きない。
自分の名前を呼ぶ友人の姿を、落ち着き、改めて見る。
そこでやっとこちらにも攻撃の意思がないと理解出来たのか、そのまま座り込んでしまったのが見えた。
「本当に、申し訳在りません…私が至らぬばかりに、リゼさんに嫌な思い、怖い思いをさせてしまいましたね」
見上げる彼女に、ニコッと笑顔を向ける。
腰元に抱き付き、嗚咽を漏らす彼女をあやす様に、一度離れた手が優しく背中を撫ぜた。
そんな彼女の姿を見て、覚悟は決まった。
初めて友人というものを手にしてしまった自分は、もはや勅命に忠実な道士には戻れないだろう。
それでも、もう構わないのだと。
■リーゼロッテ > 謝罪の言葉と微笑みに顔を上げれば、嬉しそうに微笑みながら頭を振る。
「いいの…ユエちゃんが…友達でいてくれて…それだけで嬉しいから…」
満たされる心、背中を撫でられればひくひくとシャクリ上げていたのが落ち着いていく。
改めてぎゅっと腰元に抱きついていくと、リーゼと密着したことで隼の声が脳内に響くだろう。
『そろそろちゃんと説明してくれるか? まぁ、あの長の事だ、密偵だと聞いても即打首をするような奴じゃない。それに…そこの泣き虫が懐いたら、余計にそうだろうしな』
「ざ、ザムくん! 変なこと言わないのっ、ユエちゃんが怖がったらどうするのっ!? ホント、遠慮ない…というか、デリカシーが無いのっ!」
隼の遠慮ない言葉に慌てて顔を上げれば、ムスッとしたまま抗議の声を張り上げた。
リーゼを煽って無理矢理元気を取り戻させたのか、それとも本当にそう思って行ったのかは分からないが、隼は再び口を閉ざしていく。
抱きついたまま改めて顔を上げれば、じっと友の瞳を見つめる。
「…でも、ちゃんと教えてほしいな…? ユエちゃんは何してたのか、本当に…お医者さんなのかとか…」
知らなくてもいいのかもしれないが、気になってギクシャクするぐらいなら知ってぎくしゃくした方がいいと思い、じっと彼女を見上げている。
■リーユエ > 撫でるしか出来ないのだけれども、それだけでも彼女の落ち着きを取り戻せれたのか、震えは消えていく。
ホッとしていた処に、頭の中に隼の声であろう言葉が聞こえてきた。
分かっている、分かっています。そう心の中で呟いて、一度だけ上を見上げた。
「いえ、良いんです。いずれ…きっと、言わなければいけない時が来るのだと、それは感じていましたから」
上に向けていた視線を、彼女へと戻し、笑顔で答える。
続けての質問に、笑顔のまま唇を開く。
「私は医術師、医学を求めてこの地に来た、それは受けた勅命の序でとはいっても間違いのない事実です。
ですが、同じくしてシェンヤンに仕える道士でもあります。
その勅命が、この九頭龍山脈の調査、あわよくば辰金と朱金の入手というものでした。
煉丹術を用いて精製することによって、不老不死の仙丹を得る事が出来る、その材料です。
それが、この九頭龍山脈でしか産出が出来ないとされております。
つまりは、その方が仰る通りに、私は密偵という訳ですね」
淡々と語り、そこで言葉を一度切って、視線を落とす。
その表情は笑顔から、どこか気を落としたような、複雑な表情へと変わって。
「軽蔑しましたか?私は立場を利用し、この九頭龍山脈の調査を続けておりました。
…以上が、私の伝えれる事の全てです」
■リーゼロッテ > いずれ語らないと行けない日が来る。
こうなることを考えていたのだろうかと思うと、不安が再びよぎっていく。
「道士って…確か魔術師みたいな人…だよね」
頷きながら確かめるように言葉をかける。
ここにきた理由、辰金と朱金を手に入れ、不老不死の薬を作ること。
それのためにここに来たのだと聞けば、少しだけ胸が苦しくなって視線を落とす。
続いた言葉に、ふるふると頭を振ってぎゅっと抱きしめていく。
「してない…してないよっ、私なんか…ティルヒアから逃げ出してここにいるんだもん! 参謀さんが皆を死なせないためって…それでも、逃げ出しちゃったんだもん…」
そんな自分に比べれば、苦しい中でつい先程までその任を果たそうとした彼女のほうがよっぽど立派だと心の底から思えば、勢い任せに言葉を紡いでからゆっくりと立ち上がって抱きしめなおしていく。
「ユエちゃんがどっかにいっちゃうのが一番嫌だよ…離れたくないよ…もっともっと…一緒に居たいよ…」
再び涙があふれると、抱きしめる腕に力がこもっていく。
まるで逃さないとでもいうようにぎゅっと密着させるほど。
■リーユエ > 「はい、道士というのはそう考えて頂いても構いません。
私の場合は煉丹術を用いた体術も使えますので、魔術師とは少々違っているのかもしれませんけれども」
問われれば、正直に答える。それはもう決めた事だから。
先に答えていた言葉に彼女は視線を落とすも、そんな事は無いと言わんばかりに抱き締めてきた。
「そうですか…でも、時に逃げる事も勇気だと私は思います。
国の為にと戦い、命を落とすのは簡単な事です。
その中で、その意に反し、皆の為に逃げを打つのも、立派な事では無いでしょうか?
人を診る立場でもある私としては、その勇気の方が賞賛に値すると、そう思いますよ?」
彼女は自分に気を利かせて、自身を貶めるように伝えている。
それが直ぐに分かるからこそ、自分も、その彼女の言葉に素直な思いを返した。
お互いがお互いを思っている、それが気のせいでなければ嬉しいのだけど、と思い乍。
「私も同じ気持ちです。ですが、この話は組合長の方にも伝えなければなりません。
それで、私の扱いがどう変わってしまうのか、分かりませんから。
でも、願わくば…ずっと一緒に居たいのだと、私も思っております。
それだけは忘れないで下さいね?」
そう、全てはその結果次第。
だけど、今はこうして彼女を抱く事が出来る。
戻る時が来るまで、こうして感じていたいのだと…こちらからも抱き締める。
出来る限り、こうして感じていたいと思い続けて。
■リーゼロッテ > 「ふふっ、じゃあ私と同じだね。魔法は使うけど普通と違う魔法だもん」
妙なところでも共通点があるのを見つけると、嬉しそうに微笑む。
自分の中にあった引け目を優しく包んで受け止めてくれる。
彼女の思った通り、貶める意味合いもあるも、やはり心の何処かに引け目として残っていた。
それは彼女の告白のように自分のやましい部分でもあった。
彼女を助けようと出した言葉に救われ、心が落ち着いていく感覚に、やはり失いたくないと強く願って抱きしめる腕の力は緩まない。
「うん…っ! ぅ…で、でも! 組合長さんなら良い答えを出してくれるよっ。 も、もし様子見で牢屋に入れれちゃったら、リーゼ、ずっと傍にいるから…ね!」
殺したり傷つけたりは絶対しないと確信しているため、最悪に閉じ込められてもそばにいるとしがみつくように抱きしめる。
一緒にいたいと聞けばコクコクと頷いていく。
「うん、リーゼも一緒がいい…。 ――そろそろ戻ろう? 皆心配しちゃうから…」
その言葉と共にやっと隼が降下してくると、反撃に出た夜のように一緒に空を飛んで拠点へと戻るのだろう。
そしてまた…眠る時も、一緒がいいと手を引っ張っていき、手を重ねたまま眠るまでの夜を過ごすだろう。
何があってもこの手が離れないように…眠りに沈む時までずっとずっと、それを願って止まなかった。
■リーユエ > 「そうでしたか、同じであるのを見付ける事が、こうも嬉しく思えるのは…不思議ですね」
自分の国では、同じ力を持つ者達は逆に商売敵と強弱を付けたがる処が多かった。
力が在れど、気の抜けない、そんな日々。
同じ事でも、相手が違うとこうも違うのだと思い知らされる。
目を瞑り、彼女を抱き続ける。時間が許す限りの間だが。
「それは分かりません、確かにあの方は依り良い答えを導いてくれるでしょう。
ですが、それが私達の望む様な結果となるとは限らない…
そうですね、もし牢屋入りとなりましたら、お願いしても…勿論、無理は為さらない程度で、ですよ?」
彼の判断は読めるとは思っていない。
それは、前の襲撃の時に思い知らされているからで。
その点が彼女と違うところだが、やっぱり一緒に居たいという願いは変わらない。
それだけは、誰に問われても答える事が出来る、そう思う。
牢屋でも傍に居ると言われれば、釘を刺すように言う。
きっと彼女の事だ、そうなったら本当にずっと傍に居て、風邪をひいたりしかねないからだ。
「はい、分かりました。そうですね…長く離れ過ぎましたか。
急いで戻るとしましょうか?」
隼が降下してこれば、その背に乗り、前の様に戻る事となる。
彼女が願うなら、応えるように、触れたまま一緒に寝るだろう。
こんなに物事を強く願った事なんて、今まで無かった気がする。
彼女と、ずっと一緒に居られますように…と。
それは、彼女と共に眠りにつくまで、続けられていった。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からリーゼロッテさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からリーユエさんが去りました。