2020/05/14 のログ
アルファ > 「魔道具の店に心当たり……この紙に書いてるのか」

あがる面持ちに目元を和らげて差し出された名刺に目を伏した。

「この店は言ったことはないな。値段が張ると困るけれど。
 言ってみよう。ありがとう」

腰につけた金貨袋の中に丁寧に名刺をしまう。
まさか目の前の少女の店だとも気づかずに得るもの無しで終わらぬことに口元も緩んだ。
いわゆる上機嫌だ。

「お母さんのお土産に置物と房飾りか迷っていたのか。
 今どきいい子じゃないか。きっとお母さんは喜ぶよ
 ……同じくらいわかい?」

とんでもない事実に小首を傾げていたが。
房飾りについた値札を見て眉が持ち上がる

「高っ」

だから迷ってたんだと察した半妖は腰に戻す前に金貨袋から一握りの硬貨を取り出し。

「お店を教えてくれたお礼に買ってあげよう。好きな方を選ぶと良い」

痺れを切らしたように視線を向ける売り手に先に代金を手渡した。

フィリ > 「――は…ぃ。魔道具、魔導武器、など…の、しなぞろぇには。…ぃっかげん、ぁる…かと――?」

また。ことんと首を傾げてしまう。…多分、聞き覚えで伝聞じみた、祖父母の言葉を。自身でちゃんと把握出来ていないから。
とはいえ。値段相応、もしくはそれ以上の品質は、確実に保証出来る。
序でを言うと、先程男性が挙げたような品物は、正しく現物を見た覚えが有るので。
これで買う側売る側、双方がうまい事噛み合ってくれれば。
母達や祖父母達も喜ぶだろうと。ほんのり、頬を染めるように。

「――は…ぃ。ぃちねんに、ひとつ、としをとる…とは。かぎらなぃもの…です…」

普通の人間でなかったら、そういう事も有るだろう。
多分男性は解ってくれる筈――そう思う。彼自身からも漠然とだが。人ならざる気配を感じる為に。

「―――― …!?
ぇ、ぇ、ぁ……ぁの…っ…」

そうして話していれば。覗き込まれた飾りの金額を。男性が、売り手に払ってしまう。
飛び上がるようにして振り向き。上手く言葉の出ない唇を、喉を震わせて。
必死に両手をぱたぱたと振り回し、制止しようとするのだが。
貰った物は俺の物、そんな素振りであっという間に、売り手は代金を仕舞い込んでしまう。

それでも暫く。売り手の鉄面皮と、男性の顔とを。ひっきりなしに視線が行き来して。
何往復目かの辺りでじわりと、赤くなった目元が潤みを帯びてしまうのだが…。

「――っ、っ…。ぁ…り…ぁりがと…ぅ、ござぃます……」

結局、それが一番良い返事なのだと。察したのだろう。
程無く。買う事に決めたのは、唐編み細工の方。
紙袋に入れて貰ったそれを、大事にポーチへと仕舞い込んでから。改めて男性へと頭を下げる。

アルファ > 「そうかそうか。それじゃ例え予算オーバーでも見て楽しむことができるな。
 俺も一年に年を1つは取らないよ。
 君ももしかして妖魔の血が流れているのかな?」

人外の共通点から頬を染める少女の顔を眺め。
そして感慨もなく渡した貨幣を集金箱にいれる店主を見た。

「もう遅いよ。俺が勝手に払ったんだ。気にしなくて良いさ。
 儲けだと思えばいい」

慌てふためく彼女にゆるく首を振り、そろそろ腰をあげようかと膝にかけた手に力をいれたところ。

「……どういたしまして。君はいい子だねぇ」

泣きそうにも嬉しそうにも見える顔に心からの笑みが漏れる。
そうして薄紅の瞳が何か思いついたように閃いて。

「それじゃお礼にここにキスして貰えるかな?」

冗談っぽく尋ねる声と一緒にここ、と自分の頬を指した

フィリ > 「――…そぅ、ですね。……よぃ、でぁぃが。ぁられますよぅにと。ぉもぃ…ます。」

あわや過呼吸間際という所まで、追い詰められた気がするものの。
何とか会話可能な所まで平常心を取り戻す。
こくりこくりと数度の頷きを見せたかと思えば。今度は、お金を出して貰った元に、また幾度も頭を下げて。
水飲み鳥か鹿威しかと言わんばかりに、上下動ばかりを繰り返す。
そのお陰で。買い物が終わった頃には少しばかり、息も荒くなっていた。
激しい運動を重ねた後であるかのように。

「――ぉかげさまで。…わたしのほぅは、よぃ…でぁぃを。させて、ぃただき…ました。
……ぇぇと。…ぉ…ぉにぃ、さま。」

そういえば名前も知らない。お客様、と呼ぶには。少女自身は、商売に関わっていない。
なので少しだけ考えた後。恐らく当人にとっては無難なのであろう形で。相手を呼んで。
納得したかのように頷いた顔が――また直ぐ、真っ赤になった。
男性の想わぬ申し出に。

「――…!…っ、っ…ぅ、…っぅぁ、ぁー………」

瞳は白黒を入れ替え、右往左往を繰り返し。
引き揚げられた魚のように、唇は開閉を繰り返す。
人々が織り成す喧噪の中、声にならない声は、男性へと届いたかどうかも分からないが――やがて。

とた、と一歩だけ前へ。頬を指す為、先程同様、腰を屈めている男性に。
爪先立ちで顎を上げ、指し示される頬にそっと、熱っぽくなった唇を触れさせると。
それはそれはもう、火の着きそうな程真っ赤になった面持ちの侭。で。その場から小走りに駆け出してしまうのだ。

アルファ > キスがして欲しかったのではない。ちょっとした戯れだ。
だから戸惑う相貌を静かに見守り。
頬に熱い感触が触れたのならこれみよがしに頬を擦って。

「ふはは、ありがと。とっても熱い情熱的なキスだった
 俺の名前はアルファっていうんだ。
 君の名は…… おい!」

問いかけようとしたときには小さな背が走り去っていく。

「ちょっとまって」

地を蹴りつける。その姿が人混みに紛れる前に。
出来れば少女の前に回り込んで微笑もう。
まだ何か用件があるとでも言わんばかりに。

フィリ > 本当に回り込まれてしまったら。
きっと成す術は何もなかっただろう。
ただ今回は。周りに、あまりにも人が多すぎた。
雑踏の中に飲み込まれるように。小さな小さな少女の姿は、すり抜けてしまう。
最後にそれでも、一度だけ振り返り。小さくだがしっかりと、男性に対し頭を下げてから。

――もし。追い付かれていたら?手を伸ばされて、その手を取って…となっていたら?
何処か甘美な想像は、今後暫く、少女を煩悶させる事になるだろう。
結果、暫く。男性へと紹介した店の中。
訪れた者達の中に彼の姿が無いのかを。探す少女の姿が有った…だろうか。

ご案内:「◆港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”2【イベント開催中】」からフィリさんが去りました。
アルファ > 「ふむ。そっちの方は人混みが多くて大変だろうに」

先ほど散々苦労した人波の熱気に少女が揉まれていないか不安げに瞳を揺らすが。

「まぁ大丈夫かな」

楽観的な半妖は少女の想いも知らずに市場を後にして去っていった。

ご案内:「◆港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”2【イベント開催中】」からアルファさんが去りました。