2020/05/13 のログ
ご案内:「◆港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”2【イベント開催中】」にフィリさんが現れました。
フィリ > オークション。
多くの品物が溢れ。大勢の人が行き交い。何より膨大な金額が遣り取りされる場所。
そんな、荒波がぶつかり合うような喧噪と熱狂の中。ぽつねんと一人の少女がしゃがみ込んで、売り物を眺めており。

「――…………は…ぁ……」

声とも息ともつかない程度の、極微かな音だけを。感歎として、唇に載せながら。
しげしげと見つめるのは、俗に言う唐物――シェンヤンから持ち込まれた、小物の類。

当然、少女は少女でしかないから。買えるだけの金額を出せる品など、限られている。
覗く売り場は、雑多と言っても良いような。少なくともこの会場内で言えば、安物ばかりの並ぶ場所。
それでも、今日手持ちの金額を考えたなら。一つ、何かを買えたなら。万々歳という所。
だからこそじっと、じっと。決して後悔しないように、一つだけ、選ぶ為に。さき程からずっと矯めつ眇めつ。

いい加減長居し続けているのだが、売り手の方も、何も言わないのは。
此処だけ周囲に取り残されたかの如く、他の客が足を止める事もない…本当に寂れた売り場だからなのだろう。

ご案内:「◆港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”2【イベント開催中】」にアルファさんが現れました。
アルファ > 賑わい犇めく人混みに紛れて歩くだけでも蒸し暑さを覚えるオークション会場で。
額に浮かぶ汗を黒衣の腕の裾で拭いながら、押し合いへし合いの人混みから体をすり抜けた。

「暑っ、こんなんじゃ買い物どころじゃないな」

蜥蜴や髑髏の魔術道具をイメージした垂れ幕の店は自分の背にある。
用があるそこにはとても寄る気力もなく、眇めた目は自然と人が少なそうな方を見た。
そこに映るのは誰も足を止めぬ東洋の小物が茣蓙に並べられた売り場と小さな少女。
何処にでもある光景だけれど何気なく気に止まってゆっくりと歩み寄る。

「やぁ、何か良い魔術具を探してるんだけれど?」

売り手に語りかけても皺深い顔を少しも動かさず黙っている。
困ったように視線を少女に向けて。

「君さっきから何か見ているね。シェンヤン製でもいいから魔力をもった装飾具とかある?」

フィリ > 「―― ………?」

ことん、と。絡繰り仕掛けめいた音でもさせそうな素振りで、小首を傾げたのは。
正直言って余程酔狂な、手空きの者でもなければ。まず覗こうとしないだろうこの売り場で。不意に、声を掛けられたからだった。
おっかなびっくり首を竦めたような格好で、そろそろと背後に目を向けてみれば――視界に飛び込むのは両脚だ。当然ながら。
ほんの少し。呆気に取られたかのような間が有った後。傾いだ侭になっていた顔を、ぱ、と上げながら。慌てた素振りで立ち上がる。
そのまま、小さく。立ち上がって尚、見上げるしかない長身の男性へ。頭を下げてみせた後。

「――………ぁ…まり。わかり、かね…ます…が……」

たっぷり二呼吸程も間を置いてからの発言が。問い掛けへの返答なのだと、気付いて貰えるかどうか。
ただ、聞かれたからには、答えなくてはいけないと。これでも頑張って声を搾り出したつもり。
緩く首を振ってみせた後。寡黙極まりない売り手の老人と、品を探す男性とを。恐る恐るで見比べながら。

恐らく、この辺りの品には何らかの力が残っていると。
魔力と呼んでも良いのだろう力を察して、指指してみせる品物が、幾つか。

ただしそれ等は。
嗚咽絶叫するかのような、何ともおぞましい表情を浮かべた木彫りの人形であったり。
女物の櫛ではあるが、白茶けた…人骨めいた色合いと質感の古物であったり。
魔術具というよりはあからさまに、呪具呪物の類であった。
通路を挟んだ向かい側に対して、露骨な程客が少ない理由も。お察し、なのかもしれず。

ちなみに少女が眺めているのは、普通の品である。
七宝焼きの小物入れだの、編み上げられた房飾りだの…観光地のお土産、程度の。

アルファ > 「おっと、驚かせたかな?」

立ち上がる少女に合わせて腰を屈める。同じ視線の高さになるように。
もつれもつれ出される声に顔色は変えずに微笑んだまま見守った。

「そっか。わからないか……でも心当たりがある?」

小さな指が差す先を順繰りに見た。
そして見終えてからはつりと瞬いた。

「ありがとう。でも俺が欲しいのは魔力を充電させるやつなんだ。
 魔力って常日頃から微量に溢れてる。それを溜めて使えれば便利だなっと思って。
 でもシェンヤンも面白いもの用意してる。
 マンドラゴラか、これ?それに材質のわからない櫛に。
 うーん、客が少ないのもわかる」

どれも食指が伸びなくて、品を取る代わりに顎を撫でた。

「それに比べて君の見ている小物は良いね。特にその小物入れ。
 こっちじゃ出せない焼き色の陶器だ。でも、女の子だったら房飾りのアクセサリーがほしいかな。
 どっちを買うつもり?」

首を傾げて相手を見た。

フィリ > 無言で小さく。こく、こくと。二度程頭を縦に揺らした後。
正直に告白してしまったそれが、不意打ちの声にではなく。男性自身への驚きなのだと取られたら…どうしようと。
とても失礼な反応をしてしまったのかもしれないと。目線を落としてしまう。
とはいえ。少女が立ち上がり、同時に、男性がしゃがみ込んだから。
視線を伏せる程度では、表情を隠す事は出来そうにないのだが。

さて。残念ながら、此処に有る品では。男性のお眼鏡には叶わなかったようである。
その他後数点の品物も…人を呪って穴二つになりそうな品物だの。
死後や老後が不安になりかねない代償を払わされそうな代物だの。
案の定買い手の着きそうにない物ばかり。

…男性が首を横に振った直後。
押し黙った侭の、皺深い売り手の老人が。小さく舌打ちをした気がするが…知らぬ存ぜぬを決め込んで。

「――――…?
そぅぃぅ、し…なは。もしか、すると。……こころぁたり、ぁりま…す。
――このまちに。……こぅぃぅ、ぉ…みせ、が――」

男性の説明を聞く内。伏せっぱなしでいた面持ちが、徐々に持ち上げられていく。
聞き終えた所で手を打ち。ごそごそと探ったポーチの中から、名刺程度の小さな紙片を取り出した。
記されているのは、此処ではかなり知られているであろう、大きな商店の名前と場所。
其処での売り物、質は保証出来るし…値段に関しては交渉次第といった所…だろうか。
ちなみに、少女の実家――である。一応。

「――………はぃ。まょ…ってぃます。
…ぉかぁさまへの、ぉみやげ――に。したぃので…
ぁ。ぁの、ぉ…ぉかぁさま、は。……わかぃ、です。わたし.と、ぉなじ、くらぃ――?」

何かとんでもない誤解を招きそうな事を言っているが。事実だから仕方がない。
実際呪物の方と裏腹に。小物の方は、若い娘達に向けた物。

女の子、という言葉を受けて。一歩前進。
蝶を模した唐編みか、牡丹を彩る編み玉か。どちらかがついた房飾りにする、つもり。