2019/01/07 のログ
ジナイア > やがて少し地図との格闘に飽きたらしく、嬌声や歓声が方々で上がると、興味深そうにちらりとそちらに視線をやる。
そうしてまた地図に視線を落としてからそっとため息を付く。

「…もう少し、『観光』というものに力を入れている地図を求めれば良かったな…」

目の前の地図は実用一辺倒。建物名とその用途くらいは大体解るものの、自分のように物見遊山で来た者にとっては、どこをどう辿ろうか、非常に選択肢に困る。

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”/賭場兼酒場」にギュンター・ホーレルヴァッハさんが現れました。
ギュンター・ホーレルヴァッハ > 視察という名目で訪れた港湾都市の賭博場。
夜半というのに人々の欲望と熱気で渦巻き、多くの金を吐き出して、それ以上の金を飲み込んでいた。

媚び諂う様に付き従う支配人を、満足したと短く告げて追い払った後、人々の間をすり抜ける様に店の奥へと向かう。
少女めいた風貌の自分に一瞬好機の視線が注がれるが、背後で頭を下げる支配人の姿に厄介者かと直ぐにその視線は掻き消えていく。

取り合えず休息する場所を求めて辿り着いたカウンターには、先客が一人。とはいえ、珍しい事では無いかと腰を下ろそうとした時、賭博場らしからぬ呟きが耳に入った。

「…観光用の地図が欲しいなら、賭博場よりも宿場を当たると良いだろう。此処は、観光する金をバカラに注ぎ込む様な連中ばかりだ。観光用の洒落た地図より、安価な宿を紹介する地図の方が需要があるからな」

溜息交じりに地図を見下ろす女性に、忠告交じりに短く声をかける。
そのまま隣に腰を下ろすと、果実水を注文して一息つくのだろう。

ジナイア > 地図をぼんやり眺めて観光の指針でも決めようか…と思いめぐらしていた。
声を掛けられると頬杖を外し、その翠の双眸を向ける。少女に見紛う姿と、その声と口調に瞳が一瞬、怪訝そうに潜められる。

「やあ、そうか…ありがとう。一応、書店で買い求めたんだけどね…宿で貰った地図は、どうにも要領を得なくて」

それでも熟れた唇を微笑ませると、眺めていた地図を長い指でつまみ上げてひらひらと振る。女の宿泊している宿は上の下ほどの施設だ。お奇麗な施設の説明ならばあったのだが、女が求めるような街の雑多な部分について載っているものが無かったのである。

「…キミは、この街は詳しいのかい?」

果実水を頼む人物をじっと見つめながら、少し首を傾げる。黒髪がストールの間からさらりと零れ落ちる。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「どのような地図を求めているかにもよるが、宿と書店で得た地図で満足いかぬのなら、観光案内所でも尋ねる事だ。こんな街だが、日中は健全に運営している観光客向けの施設もあるからな」

礼を告げる女性を一瞥して言葉を返した後、カウンターに置かれた果実水を煽る。
それで話は終わりだ、と言わんばかりに視線を戻そうとするが、投げかけられた言葉に緩やかに視線を動かす。

清廉さを思わせる白いコートと、そのコートと対照的な艶やかな黒髪の女性の姿を眺める様に視線を動かした後、小さく肩を竦める。

「詳しい、という程でも無いが、訪れる頻度がそれなりにあるからな。見かけぬ風貌だが、貴様は異国からの観光客か何かか?」

華奢で少女じみた風貌とは似つかぬ、些か高慢な言葉遣い。
とはいえ、見下しているという訳ではなく、単純に素の口調がそういったものという風情で言葉を返すだろう。
彼女に釣られる様に僅かに小首を傾げ、少しの好奇心が灯った瞳を向ける。

ジナイア > 口調とは裏腹、丁寧に案内をしてくれる隣の人物に翠の双眸を瞬いて、少し笑みこぼす。やたらと尊大な態度ではあるが、親切な態度と少女の風貌とで何やら微笑ましい。
自分の出自を問われると、微笑んだまま軽く頷いて、零れ落ちた黒髪を耳にかける。

「ああ…海の向こう、ずっと南の方から、最近。…ジナイアという」

よろしく、と滑らかな赤銅色の肌の手を差し出す。その視線は少年の風貌に留まって、すこし何か思い出すように細められる…

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「南方か。遠路はるばる斜陽の王国まで良く来たものだ。物好きな、とまでは言わぬが」

ほう、と興味深そうに頷いた後、頷く彼女と差し出された手に交互に視線を向けえ――

「我が名はギュンター。ギュンター・メルヒオール・フォン・ホーレルヴァッハ。此の国を預かる貴族として、歓迎しよう。宜しく、ジナイア」

穏やかな表情と尊大な言葉と共に、彼女の手をそっと握り返した。
細められた彼女の視線に、僅かに怪訝そうに瞳を揺らしながら――

ジナイア > 「どうも…よろしく、ギュンター」

握り返してきた華奢な手を少し、揺らしてからそっと手を放す。考え込む視線はそのままに、口元を少し綻ばせて

「貴族……もしかしたら、王城でキミの親戚を見たかもしれない。名前を聞かなかったから、知り合いにはなっていないが…」

自分のグラスに手を伸ばしてから空であったことに気付き、バーテンに合図して同じものを、と頼む。そうして彼を振り返ってくすりと笑って。
「よく似た親戚が、王城にお勤めだったりするのかな…」

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 彼女の言葉に、少し考え込む様に視線を落とす。
一つは、王城で見かけたという言葉そのもの。観光で王城に訪れたのなら兎も角、賓客として訪れているのなら彼女もそれなりの立場なのだろう。

もう一つは、王城で見かけたという親戚の話。十中八九家門の者だろうが、貴族どころか王族であることを明かすべきかそ僅かな逡巡。
しかし、身分を明かしてもメリットやデメリットがあるわけでもないか、と直ぐに彼女の翠色の瞳に視線を移し――

「恐らく、家門の者だろう。ホーレルヴァッハ家は、立場上は王位継承権を持つ故な。王城にも頻繁に出入りする。賓客に声をかけなかったとは、非礼を詫びさせねばならんだろうが」

何処の分家か知らないが、本家の嫡男である己より上の立場と言えば父親くらいしかいない。そして、父親と己は似ていない。
ともなれば、分家の貴族だろう。僅かに苦笑いを浮かべて、小さく肩を竦めて――

「しかし、王城からハイブラゼールとは時間もかかっただろう。此処は、言うなれば金と情欲に塗れた欲望の街だ。女性一人で観光するには、些か物騒だと思うが」

彼女の美貌であれば、下卑た男達に絡まれる可能性も低くはない――というか、寧ろ高い部類――だろう。
まさか、そんな目的で来たわけではあるまいし、都市の情勢に疎いのだろうかと些か呆れた様に再度首を傾げた。

ジナイア > 王位、との言葉に軽く目を見開く。数度熟れた唇を逡巡するように震わせてから、軽く眉を寄せて困ったように微笑む。

「いや、私は友人の招きで紛れ込んだだけだったからな…目に留まらないのは当たり前だ。
友人は、王城で文官をしていてね…」

口にしたのは、比較的良識派の文官の名。とはいえ、勝手に自分の友人を招く辺りはお堅いという所からは遠い人物かも知れないが…

「それより、私の方が非礼を詫びねばならないな。申し訳ない。王家筋の御方とは存じ上げず――」
少年に向き直ると、真っ直ぐに頭を下げる、さらさらと黒髪が零れ落ちて、暫くしてからゆっくりと顔を上げる。

「…私の故郷とは色々と文化も景色も違いますから。欲望の形を比較してみるのも、また一興かと」

口調を改めて、嫣然と微笑む。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 告げられた文官の名に、浮かべた苦笑いが少し大きくなる。
好戦的な政策を多く献上する本家とは折り合いが悪い穏健派の官僚。その友人ともなれば、声をかけなかったのも頷ける話だろう。

とはいえ、それを口にするのは野暮であるというもの。
頭を下げる彼女に鷹揚に首を振り、ひらひらと手を振る。

「構わぬ。それに、堅苦しくする必要もない。王城ならまだしも、此処はそんな儀礼作法を求める場所ではない。まして、貴様は此の国の民ですらない。礼を尽くしてくれるのは好ましいが、先程までと同じ様に接してくれた方が此方も楽だ」

堅苦しいのは苦手だからな、と言葉を締めくくりながら、零れ落ちる彼女の黒髪を眺める。
良い買い手がつきそうな髪だ、と思ってしまうのは、商売人が板についてきた証かと内心自嘲しつつ――

「その戯れが、己の身を害する事になりかねぬのが今の此の国だ。一人歩きを別段止めはせぬが、女に飢えた者達に極上の餌を与えてやる必要も無いかと思うがね。悪漢だけならまだしも、私の様に地位や権力を振りかざして迫る輩も多いでな」

荒くれものの多い此の街では、彼女の様な美しい女性など鴨が葱を背負ってなんとやら、とも見えてしまう。
自衛の手段を持ち合わせてはいるのだろうが、警戒心が幾分足りないのでは無いか、と残った果実水を飲み干しながら言葉を続ける。

ジナイア > 態度を保留していい、と許可が出ると、取り澄ました顔ながら少しだけ目元を和ませる。

「―それは、助かる。もともと、向こうでもそう礼儀正しい方では無かったのでね…」

バーテンがホットサングリアを運んできて、彼女へと滑らせる。ありがとう、と言葉を掛けてグラスを受け取り、唇に運びながら

「もともと剣士の家系でね。腕には多少覚えがあるんだ…それに、私は家を棄てて出てきた方だから、権力なんて振り翳された所で今更だな」

『礼儀』は一応棄てずに持ってきたつもりだ、とくすくす笑って一口飲み下す。そうしてちらりと横目で彼を見遣って

「…こちらではよく、性的ビジネスが繁盛している様子だね…」

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「時と場を弁えていればそれで良い。こんな場所で畏まってもらっても、品評する者などいないからな」

彼女に合わせる様に、此方も幾分言葉を崩す。
崩しただけで、尊大な態度は全く変わってはいないのだが。

「ほう。それならば、闘技場に顔を出してみれば良い。参加する事は余り勧めないが、見る分には良いものだろうし。
…つまり、家出同然に此の国までやってきたのか。家出先は選ぶべきだと思うが…まあ、今更だな」

笑みを浮かべる彼女に向けるのは、呆れた様な、困った様な視線。年上である彼女にこんな視線を向けるのもどうかと思うが、家出先で訪れるには、此の国は乱れに乱れているのだし。

「需要と供給が揃っていて、商品が入荷しやすく、バリエーションも豊富だからな。だから、女の一人歩きは止めておけと言っているのだ貴様が路地裏に引きずり込まれて無残に犯されていても、助けに入る者は決して多くは無いからな。そういう願望があるのなら、うってつけの国ではあるがね」

此方を見遣る彼女に、淡々と言葉を返す。
些か直接的な物言いと言葉は、異国人である彼女にはこれくらい言わねば伝わらぬかと僅かに芽生えた親切心。
僅かではあるので、本気で引き留めようとしている訳ではない。正直、彼女の美貌なら【真っ当な】娼婦として一財産築くことも出来るだろうし。

ジナイア > 「ああ…そうそう、闘技場だ」
彼の言葉に思い出したように、一度は折りたたんだ地図をつまみ上げて
「おもしろそうだと思って、宿の者にも色々訊いたんだがね。全く要領を得なかったんだ…つまりは、『そういう事』なんだろうな?」
悪戯っぽく笑ってひらひらと地図を振り、また、落とす。

「まあ、需要については向こうも似たようなものだが…あちらは身分が相当厳しくてね。一般の人が手を出せるものではなかったから、規模がまるで違う。
…だから、こんな賑やかな場所は珍しくて、楽しいんだ」

そう言って、雑多に盛り上がっている周囲を指し示す。その瞳は少しだけ、熱に浮かされたように潤んでいるように見える…。そうしてからくすくすと笑って彼に視線を戻して

「裏路地なら、一度引きずり込まれてみたよ……少しだけだが、良い運動になった」

相手を見極める事くらいはするさ、とまた酒を一口流し込んでからため息を付き、彼に首を傾げて

「それを言うなら、キミだって一人歩きは大分、危ない方では無いかと思うがね…」

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「…まあ、【そういう事】だ。腕に覚えがあるなら参加してみるのも良いだろうが、それでも最初の数試合は観客として見学するのが良いだろうな」

宙を舞う地図を一瞥した後、彼女に視線を戻して――

「楽しい、か。それなら結構。存分に此の国を見て、楽しむと良い。欲望の熱気だけなら、未だ他国に引けを取らぬ故な」

潤んでいる様に見える彼女の瞳が何を思うのか。僅かな興味を抱きつつも、肩を竦めてこれ以上の忠告を控えるだろう。

「引きずり込まれてみた、か。まあ、武芸に覚えがあるなら心配も杞憂だろうし――」

首を傾げて此方を見遣る彼女に、何事かと言葉を止めて視線を向ける。その言葉が耳に入った時、僅かに瞳を細めてその言葉を受け止める。
特段、彼女に悪意が無いことは十分理解している。とはいえ、誰にでも触れられたくはない事もある。

「……確かに、俺の容姿が男性らしさに欠ける事は認めよう。事実を否定する事は好かぬからな。だが、俺は男だ。自衛の手段も、貴様をねじ伏せて喘がせる事も、己の力でどうとでもなる」

ゆらり、と手を伸ばし、彼女の赤銅色の手を取ろうとする。
もし取ることが叶えば、その力は魔術によって強化され、簡単に振りほどけない程度の筋力を得ているだろう。
尤も、緩慢な動きは避ける事も容易で、掴まれたとしても、武芸の心得があれば振りほどく事は容易だろうが――

ジナイア > 彼の闘技場についての説明に、相変わらずの楽しむ表情で軽く頷く。
「ああ、そうさせて貰うよ…あまり、趣味の悪くならない程度にね」

何気なく放った言葉、女としては寧ろ気遣うつもりでさえあったものだが…目に見えるかと思うほど、隣に座る少年の纏う雰囲気が変化する。それでも己の手が取られるのをそのままにしていたのは、酒が回っていたせいもあろうが、好奇心が無かったとは言えない…

「どうやら不味い事を言ってしまったようだね?悪かった…
私としては、男性云々というより、美貌を褒めたつもりだったんだが」

取られていない方の手で頬杖を付いて、少し楽しげでさえある…

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 特に抵抗もなく彼女の腕を取れば、流石に悪意の無い相手に大人げなかったかと内心自嘲する。
そのまま、彼女の腕を離そうとしたのだが――

「悪気が無い事は分かっているさ。だから、多少思うところはあっても別段本気で怒ったりはしない。…だから、これは戯れだ。観光客は、持成してやらねばなるまい?」

楽し気に見える彼女の雰囲気が、此方にも伝播する。
そのまま彼女の腕を軽く引き、此方へ引き寄せようとするが――

ジナイア > 「悪気があってなくても、言ってはいけなかった事なんだろう?
…そういう事だから、私は社交を失敗するんだ」
彼の言葉にそう、自嘲気味に独り言を零す。

腕を引かれれば、抵抗なく凭れかかる――いきおい、やや長身の女の方が彼の上から覆い被さるようになる。彼ごと転げ落ちないよう、おっとっと、と言いながら少年の腰の後ろに手を回そうとする…

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”/賭場兼酒場」からジナイアさんが去りました。
ギュンター・ホーレルヴァッハ > 戯れで引いた彼女の身体が、此方へ凭れ掛かる様に倒れてくる。
その戯れが何処まで続いたのか。未だ欲望渦巻く賭博場で、知る者も無く――

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”/賭場兼酒場」からギュンター・ホーレルヴァッハさんが去りました。