2022/02/12 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」にフェリーチェさんが現れました。
フェリーチェ > もうそろそろ日が沈んだ頃だろうか。
毎晩のようにまばゆい明かりを灯すシャンデリアの下では、そんな時間感覚も無くなってしまう。
その奥底に金貨も銀貨も……時には人まで飲み込んでしまう巨大カジノは、今日もまた繁盛しているようだ。

そんな場所に、一攫千金を夢見るでも一夜のスリルに興じるでもない、おっかなびっくりといった様子の少女が居た。
VIPルームにも何とか入れる身形でやってきながら、居座る場所は身分を問わぬ開けたフロア。
振り返ればオーケストラとポールダンスとショートコントがそれぞれ別方向を向いて共演し、区画ごとに雰囲気が様変わりする混沌ぶりだった。

「次はポジション赤に金貨1枚、ベットします」

上等なビロードを敷いたテーブルの手前に立ち、ルーレットの上を転がる玉を緊張気味に見守る。
掛け金は初っ端から金貨、それでいて大勝負に出る様子はない……けれどそれで良い。
床におろしたバッグには「記憶にない資金」が詰め込まれ、これの半分でも残って「カジノで儲けた泡銭」になれば構わない。
いわゆる、マネーロンダリングである。

後ろ暗いために来る者拒まずのていで周囲からの勝負を引き受け、何度か半分ほど回収することを繰り返している。

フェリーチェ > 少女が淡々と出した金額以下のチップを手元に集める間も、どこかのテーブルで誰かの人生が変わりゆく。

ー熱狂するボロを着た少年の投げたカードが、花吹雪のように舞い散る。
ーー呆然自失のまま遠くを見つめるドレス姿の奥様の前で、チップの山が回収されていく。
ーーーキセルをふかす老紳士の取り出した紙切れが、箱いっぱいのチップと交換される。
ーーーー残った銅貨を握りしめて泣く青年は、腕を引かれながら一体どこへ行くのだろうか……。

まだ目標額は下回っていない、問題ない範囲だ。
場の雰囲気に緊張こそすれども、バニーガールの給仕が持ってきたオレンジジュースで喉を潤す余裕もある。

「次はポジション黒に金貨1枚、ベットします」

また同じ賭け方をしてから、肩をすくめるディーラーにちょっと萎縮してしまう。
だが、変に大勝しているでもイカサマしているわけでも無いのだから、何も言われることはなかった。
ただ黙々と安全圏で終われるペースを死守するのみ。

フェリーチェ > しばらく続けていれば、資金力に余裕のあるものも勝負を挑んでくる。
その客の目的は、変な娘の相手をしてあげる遊びか、それとも地味な負け方を繰り返す噂を聞きつけてのことか。
相手側の上乗せしてきたチップに合わせて、少女の方も相応の金額を出して勝負を続ける。

「なんていうんでしたっけ?
 そうそう、私もコールして3枚分にします。
 数字はそれじゃあ……1番、10番、20番に分散してください」

金貨1枚に相当するチップを3山、数字のマス目の上に配置する。
背伸びしてテーブルの上に積んだ山を不器用に押す様子は、まさに遊び慣れていない素人の所作だ。

金額が増えると休憩がてら眺めるギャラリーがその分だけ増えて、ディーラーの目が生き生きしてくる。
やはり少女の面白みのない賭けの繰り返しに退屈していたようだ。
カラコロ、カラコロ、キレイな白い玉がルーレットの上で跳ね上がる。
そうして、二人で示し合わせて賭けた番号はどれもハズレてしまい、ドヤ顔のディーラーひとり勝ちである。

フェリーチェ > さて、黙々と繰り返した賭け事で資金洗浄は完了。
晴れて少女は「安全に使えそうなお金」を手に入れることができた。
目標通りとはいえ、総額の半分近くまで目減りさせながらホクホク顔で帰っていく少女を、カジノ側はどんな気分で送り出したのだろうか……。

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」からフェリーチェさんが去りました。