2021/08/15 のログ
ご案内:「◆港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”【イベント開催中】」にヘルティナさんが現れました。
■ヘルティナ > 煌びやかな照明と、美しく着飾った人々に彩られた歓楽街のカジノの中。
一角に設けられたステージの上ではどうやら特別なオークションが開催されているようで。絶えず耳に届く進行役の掛け声を聞きながら、赤いドレス姿の女は傍のテーブルで手許のカードを弄んでいた。
「――御免なさい……?今回は、私の勝ちのようですわね……。」
手にしたそれらをテーブルに広げ、眼前のディーラーを通して同卓のプレイヤーから積まれたチップを受け取る。
視界の片隅では、全財産を失ってバックヤードへと連れ去られてゆく女性、或いは反対に、周囲に目を付けられ始めていることに気付かず独り勝ちを続ける男性。
そんな彼らの様子を他人事のように眺めながら、当の女は適度に勝ちと負けを繰り返していた。
別に勝ちを目的とした賭けではなく、傍らで開催されているオークションで興味を引くような品が出品される迄の退屈凌ぎ。
それならば、あちらの男性のように下手に目を付けられても厄介ですし、この位がちょうど良いでしょう――そんなことを淡々と考えながら。
■ヘルティナ > 「――あら、負けてしまいました……。」
次のディールは女の負け。テーブルに積んだチップが取られてゆく様をほんの少しだけ名残惜しそうに眺めてから、ふぅ、と小さく息を吐いて。
「……少し、喉が渇いてしまったことだし……私はこの辺りで失礼させていただくわ……?」
図らずも最後に勝った隣席の男性に花を持たせたところで、彼らへと小さく会釈を差し向けてから残ったチップを手に席を立つ。
銀のトレイを手に近くを歩いていた給仕から受け取ったシャンパングラスを軽く煽りながら、女の足が赴く先は傍らのオークション会場へ。
ステージの上ではちょうど、少し前までは高貴な身分の人間だったのであろう、身なりの良さそうな美女が鎖に繋がれて立たされている最中で、周囲の観客からは僅かなざわめきと息を呑む気配が伝わって来る。
生憎、女の興味を引く商品ではなかったけれど、シャンパングラスを片手に観客達の中に混じって暫くその様子を眺めることにした。
ご案内:「◆港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”【イベント開催中】」にメレクさんが現れました。
■メレク > 人間が人間を競りに掛ける奴隷売買のオークション会場。
今、舞台に上げられている美女は、王国屈指のさる貴族の御令嬢。
尤も、その肩書の前には元の一文字が添えられる。
権力闘争の成れの果て、御家は取り潰されて、後に残された一人娘が競売に掛けられる始末。
それでも、彼女の美貌と高貴さは一級品のステータスとなり、白熱する会場にて価格は天井知らずに高くなる。
オークションに参加する者も、傍から眺める者も、今や彼女に釘付けになり固唾を呑む中、
白熱の範疇に居ない赤いドレスの女の傍に近付いてくるのは、贅を凝らした煌びやかな衣服を纏う、小太りの貴族の姿で。
「――――御機嫌よう、お嬢様。アレはお気に召しませんかな?
近頃、お家騒動で破綻した悲劇の貴族令嬢で、本日のオークションの目玉ですぞ」
十の指には絢爛な宝石を帯びて、その一つ一つが魔法の加護を帯びた古代王国の遺物。
身に着ける衣装も、王族御用達の仕立て屋によるオーダーメイドの逸品物。
一流を越える超一流の品々であるが、その男には豚に真珠を体現するかのような品のなさに成り果てる。
そんな印象を抱かせる男は、手にしたワイングラスを傾けながら、女に嗤い掛けて。
■ヘルティナ > 事実、彼女の姿は女の目から見ても美しく、観客達の羨望、或いは情欲に満ちた視線を一身に受けて立っていた。
進行役の話を聞く限りでもこの日のオークションの中心となり得る商品のひとつであることは疑いようは無く、一人、また一人と興味を引かれた観客達が集まってゆく最中。
「――ご機嫌よう?……そうね、確かに美しいとは思うけれど……生憎、ヒトの奴隷や蒐集品は間に合っていますの。」
手が出せそうな値段にもならないでしょうし――と。不意に掛けられた声へと答えてから漸くその主の方へと視線を投げ掛ける。
此方も随分と高い身分の者であろうと窺わせる、高価な衣装や宝石を身に纏った男性。
ワイングラスを片手に己へと笑い掛ける彼に対して、女は小さく頭を下げて会釈をひとつ差し向けた。
■メレク > 人一人。これが奴隷市ならば十人、二十人を購入しても未だ足りない価格が付けられていく。
無論、彼女の美貌に付けられた価値もあるだろうが、出自の貴族家の名前も大きい。
権力闘争に破れたとは言え、その貴族家に恨み辛みを持つ者達も少なくなく、
舞台上の美女が自分に値を付ける男達の視線に相貌を白くするのは斯様な理由であろう。
「成る程。……おっと、名乗りもせずに失礼致しました。
私はメレク。奴隷商をしておりまして、アレは私の出品物になります。
お嬢様のお眼鏡に叶わないとは不徳の致すところですな」
彼女に声を掛けた理由は、自身が競りに掛けた商品で会場が白熱する中、
一人、盛り上がらない相手の姿を見て取った故、と斯様な理由を口にしつつ。
会釈する相手の姿を上から下まで眺めると、唇の端を軽く歪めて。
「お詫びに、如何ですかな。
VIPの方々にのみ、個別で商談させて頂いている稀少な品々が別室に御座います。
お嬢様さえ、宜しければ、ご案内させて頂きますが?」
片手を彼女に差し出せば、舞踏会にてダンスを申し込むような姿勢にて仰々しく頭を下げる。
貴公子が行なえば様になる行為も、彼が行なえば滑稽な道化じみた行動にしか見えず。
■ヘルティナ > そうして競りが開始され、女の予想を軽く上回る値段が付けられてゆくステージ上の美女。
この国における貴族間のしがらみや抗争関係は女には無縁であったしさして興味も無かったけれど、それ程に彼女の身柄を己の思うが侭にしたいと目論む者は多いのだろう。
「……ヘルティナ、よ。奴隷商のメレク様。
御気に為さらないで……?元々私の目当ては、奴隷よりも蒐集品の類だから。
あとは……魔法仕掛けの珍しい品なども、興味はありますけれど。」
別に此方の商品が気に入らない訳でもなければ、奴隷商を名乗る目前の男性に謝られるような謂れも無い。
謝意の言葉を口にする彼へとそう返してから、次いで投げ掛けられた提案には小さく首を傾げて。
「――あら、良いのかしら……?その様な特別な場所に、私のような見ず知らずの者が顔を出してしまって……。
けれど、そうね……折角のご厚意には甘えさせていただこうかしら……?」
本来であれば上客でしか目に掛かれない希少な品々――その謳い文句に女が興味を引かれたのは確かで。
無論、大袈裟な程に仰々しく頭を垂れる目前の男性に対する猜疑心は少なからずあったものの。リスクとリターンを天秤にかけるように少しの間逡巡する素振りを見せた後、くすりと唇の端を微かに持ち上げて、女は男性の手を取った。
■メレク > 彼の言葉が女の興味を惹いたのか、差し出される手に相手の手が載せられる感触に、
俯かせた表情を歪ませてほくそ笑み、顔を上げると満面の微笑を相手に向ける。
「えぇ、とっておきの逸品をご覧頂きましょう。
ヘルティナお嬢様もきっとお気に召されると至極の逸品でございますよ」
そうして、彼女の手を取れば、オークション会場の奥へと二人の姿が消えていく。
後に残された舞台上では、悲劇の令嬢に破格の値段が付けられて、泣き崩れる彼女の身に
益々の不幸が降り注ぐ事になろうが、それはまた別の話――――。
ご案内:「◆港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”【イベント開催中】」からメレクさんが去りました。
ご案内:「◆港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”【イベント開催中】」からヘルティナさんが去りました。