2020/10/29 のログ
ご案内:「◆港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”【イベント開催中】」にフェリーチェさんが現れました。
ご案内:「◆港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”【イベント開催中】」からフェリーチェさんが去りました。
ご案内:「◆港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”【イベント開催中】」にフェリーチェさんが現れました。
■フェリーチェ > 回転するルーレットの色が混じり合い、トランプが叩きつけられ、幾枚ものチップが飛び交う。
入場門の奥の大ホールから艶めかしく腰を揺らすスタッフが出てきては、賑やかさに加担する者を連れ込んでいく、
そこは、夜闇に呑まれかけた都市を煌々と照らし出すカジノ。
一時の高揚感を餌に大金を右へ左へ動かすカジノの光は誘蛾灯の如く客を集めるが、金が集まったら金のない人間もまた寄ってくるのが世の常である。
今宵は物乞いに娼婦ーーそれから富裕層に渡りを付けたい行商の少女の姿もあった。
少女はいつものシスタードレスを身に纏い、商品で最も見栄えのする鈴蘭を象ったネックレスで首元を飾っている。
声をかける相手は主にパトロンになりそうな身なりの貴族や商人、それに小粒の宝石でも売れればと見境なく挑戦を繰り返すが……。
「この意匠は……はい……はい……えぇそう……いえ…関税を考………難し………有難うございました」
対応してくれたのは丁稚奉公らしき若者。
最初から軽んじられた末に半笑いで追い返され、少女の心と正反対のきらびやかな明かりを灯すカジノの壁により掛かる。
丑三つ時まで粘るつもりだがこれでは実入りゼロで帰る羽目になる。
芳しくない結果にため息を漏らし、けれど間断なく出入りする人々を見ればまた背筋を伸ばし直した。
「すぅ、はぁ……あのっ!もしお時間よろしければ……」
ご案内:「◆港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”【イベント開催中】」にギュンター・ホーレルヴァッハさんが現れました。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
少女が声をかけた相手は、或る意味でその目的に合致した人物――だったのかもしれない。
華美では無いが、質の高い素材をふんだんに使用した豪奢な黒い礼服。カジノの関係者や貴族、富裕層と思われる大人達がこびへつらう様を、適当にあしらいながら出口へと向かおうとしていた少年。
懐から取り出した煙草に火を付けようとして――己に投げかけられた声に、その動きを止めた。
「……はて、私に何か用件かな?出来れば手短に済ませてほしいのだが」
常盤色のシスタードレスに身を包んだ少女に、立ち止まって応対する。
普段であれば一顧だにせず通り過ぎるところではあるが、先程迄おべっかを吐き出す大人達の相手をしていた事もあってか、幼い見た目の少女からの言葉に、つい応えてしまうのだろうか。
■フェリーチェ > 真剣味を帯びていながら諦め混じりだった少女の双眸が、初めての色よい返事に光を取り戻す。
飲み下した唾液でか細い喉を鳴らし、端に目立たぬホツレが見られるシルク製のハンカチでネックレスを取り外す。
それを恭しく差し出せば、何度も練習したように先程まで繰り返した言葉を今一度口にする。
「宝飾品のやり取りで商いをしております、フェリーチェと申します。
本日は国外より仕入れた逸品物を、それに見合うお方に手にとっていただきたく参じました。
いかがでしょう、この意匠……そうお目にかかれるものではないと思います」
良く言えば読み上げるように滑らかに、悪く言えば十分に抑揚のない棒読みで、差し出す品には少々もったいない宣伝文句を述べ立てる。
身長差を考えればその必要は無いけれど、やや腰を落としながらハンカチにのせたネックレスを高く掲げる。
鈴蘭を象ったそれは、花弁に囲まれた透き通る宝石の中に、更に花に見えないこともない気泡を含んだ一品。
それは珍しさで言えばそれなりだけれど、欲しがるかどうかは人によるという程度の品だった。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
何かと思えば、行商の類かと小さく溜息を吐き出す。
とはいえ、取り扱う商品と商人の年齢が微妙に見合っていない様な気がしないでも無い。
己の身や名産品なら兎も角、それなりに見栄えの良い宝飾品を取り扱う少女というのは、若干珍しくもある。
「……ふむ、フェリーチェとやら。
確かに貴様の掲げる宝石はそれなりに見れる物ではあるし、悪い物では無い事は理解出来る。
しかし、王族である私にとっては、さして珍しいものという訳でもない」
ふうん、とネックレスを一瞥し、腰を落として掲げる少女を見下ろして。
「行商人、と名乗るのであればもう少し売り文句をつけてみたらどうだね?
私が思わず食指を伸ばし、善き商品を扱う者の名を記憶に留めたくなる程度に。
私に売り込む術を、貴様は持ち合わせているのかね?」
声をかけた相手が、普通の資産家だの貴族だの富裕層であれば。物珍しさついでに購入に至ったかもしれない。
しかし、己は王国有数の資産を誇る一族の嫡子。正直、少女が掲げるネックレス程度の品は、見るに飽きる程には所有している。
であれば、少女の行商人としての腕によるだろうかと。
含み笑いを零しながら、少女に少し意地悪な問い掛けをしてしまうだろうか。
■フェリーチェ > 話を聞いてから数泊おいて、さっき整えたばかりの少女の喉がひゅぅと高い音を奏でた。
「…………お、おぅぞ……」
高めに掲げて差し出したままのハンカチの影から、恐れ多くて相手の顔を覗き見る眼が激しく揺れる。
そう言われてからちゃんと周りを見回せば、媚びへつらう取り巻きでさえ、自分が辛うじて相手を出来そうな下っ端貴族とは訳が違う。
商品よりも少女自身を品定めする声に手元が微かに震え出し、それを抑えようとして折角キレイに広げられたハンカチにシワができてしまった。
面白がるような笑みを見て、最早後には退けないと知って一つ息を吐き。
「でひ……ん、うんっ!
でしたら如何でしょう、こちらの品を存分に眺めていただいたら……地面に叩きつけてください。
ご覧いただければ分かる通り一度割れれば凡百の銀細工でしかございません。
ただ刹那の間だけ、貴方様だけがお持ちになった結果を残して、誰にも手が出せぬ思い出へと昇華させるというのは?」
自分の持てるものが決して相手に見合うもので無かったことは、商売を初めて半年の少女にも分かること。
であれば希少性だけを過剰装飾した品として喧伝する。
壊してハイおしまいと、購入もなにもなく素気なくされる恐怖で胸中を満たしながら、窄まった瞳孔で相手を注視する。